あけましておめでとうございます。
年末年始、いかがお過ごしだったでしょうか。「お正月ぐらいはおいしいものを食べてゆっくりしたい」とばかりに、「おいしいものは脂肪と糖でできている」というどこかで聞いたキャッチコピーにべったりの生活をされた方も多いのではないでしょうか。お正月が明けて体重計が示す数字に、過ぎ去りし日々の生活を少し後悔されているかもしれません。そのような方々のために、今回はインターバル速歩の体脂肪減少効果についてお話しします。
体脂肪を減らすための運動は「強度の“低い”楽な運動(有酸素運動)を“長時間”するのがよい」という説をよく耳にします。「ダイエット」をテーマとしたインターネットのページでもそうした記述が散見されます。でも、正直私はそのエビデンス(科学的根拠)を知りません。おそらく、図で示す実験事実が根拠になっているのではないかと推測します。
図1は運動の“相対”強度とエネルギー源を示しています。相対運動強度とは個人の最大体力(最高酸素摂取量)の何%の強度で運動したか、を意味しています。最高酸素摂取量とは、単位時間当たりどの程度の酸素を消費することができるかを示し、オリンピックのマラソン競技に出る方だったら体重1kgあたり70mL/分以上▽一般中高年者で運動習慣のある方で35mL/分程度▽要介護の方で10mL/分以下――と、個人によってかなり幅があります。それは、よく、自動車のエンジンの排気量に例えられます。3000ccのスポーツカーか、600ccの軽自動車か、といった具合です。
図からわかるように、「個人の最大体力に関係なく」、低い相対運動強度、すなわち楽な運動をしている時の方が糖よりも脂肪の燃焼比率が高いのです。例えば、最高酸素摂取量の40%の運動強度では、糖と脂肪の燃焼比率は5:5、70%の運動強度では7:3、80%以上でほとんどすべてのエネルギーが糖で補われ脂肪は消費されません。確かに、この図を見る限り、最高酸素摂取量の50%以下の「楽」な運動を長時間行う方が脂肪をよく燃やせそうです。
ところが、体脂肪減少を目的とした運動処方の「国際標準」は、最高酸素摂取量の60%以上の中強度以上の運動、すなわち、本人が「ややきつい~きつい」と感じる運動を1日30分以上、可能なら毎日実施することを推奨しています。
なぜでしょうか。理由は、3つあります。1つ目は、わざわざ低強度の運動を長くしなくても高強度の運動をした方が単位時間に消費されるエネルギーの総量が大きいため、たとえ糖に比べ燃焼比率が低くても運動中の単位時間当たりに燃焼する脂肪の「絶対量」は多くなるからです。
2つ目の理由は、「運動後過剰酸素消費量(excess post-exercise oxygen consumption; EPOC)」と呼ばれるもので、運動後には安静にしているにもかかわらず高い酸素消費量が1~2時間持続する現象があるからです。この酸素消費量は運動の強度とその継続時間に比例します。このような現象が起こるのは、乳酸など高強度の運動中に産生される物質の代謝、筋肉などで運動中消費したグリコーゲンなどの再生、また運動中に損傷した筋線維の修繕などでたんぱく合成が亢進することなど、運動後の体の回復のために酸素が消費されるからだと考えられます。直感的には、ややきつい運動の後、何だか体がポカポカ温かいでしょう。アレです。大切なのは、この時にも脂肪が燃焼することです。
3つ目は、このような「ややきつい」運動を繰り返すと、運動に対する体の適応反応が起こります。これが従来から申し上げている「インターバル速歩による体力向上」で、実はそれに伴って基礎代謝量が増加するのです。この基礎代謝量増加のメカニズムの1つに体力向上に伴う筋肉量の増加があります。すなわち、筋肉は安静時でもいつでも動けるように常にアイドリング(ウォーミングアップ)をしており、その際、消費されるのが脂肪なのです。この反応は寝ている間も起こりますから、単位時間あたりではわずかでも1日で消費される脂肪の量は結構多くなります。筋肉量を増やすことこそ体脂肪減少につながるのです。
しかし、このような「国際標準」の運動トレーニングを実施するには、従来からジムなどに通い自転車エルゴメーターなどのマシンを利用することが推奨されてきました。でも、それは時間的、経済的に敷居が高いのです。そこで登場したのが「インターバル速歩」です。では、インターバル速歩によって、どの程度体脂肪が減少するのでしょうか。図2はその結果を示しています。中高年男女666人が1日平均25分の(インターバル速歩中の)早歩きを週平均4日、約4カ月間実施したところ、最高酸素摂取量が平均15%向上(10歳以上若返った体力に相当)し、体重が平均1.5kg、体脂肪率が平均2%減少しました。それに伴って、高血圧、高血糖、脂質異常症の症状も著しく改善しました。食事制限など積極的な栄養指導は実施しないうえでの結果ですから、ほぼインターバル速歩のみの効果と考えていただいてよいと思います。
新しい年の始まりです。今年は「自分の好きなものを気兼ねなく食べて、だけどその分、インターバル速歩をする」という新しい生活習慣に挑戦してみませんか。
「インターバル速歩」の詳細は、拙著「ウォーキングの科学」(講談社ブルーバックス)をご覧ください。
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信州大学 学術研究院医学系 特任教授
画期的な効果で、これまでのウォーキングの常識を変えたといわれるインターバル速歩を提唱。趣味は登山。長野県の常念診療所長などを歴任し、1981年には中国・天山山脈の未踏峰・ボゴダオーラ峰(5445m)に医師として同行、自らも登頂した。