連載明日に生かす「感染症ノート」

「胃腸炎」診断でもノロウイルスに注意! これから感染ピークに

公開日

2019年11月11日

更新日

2019年11月11日

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2019年11月11日

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藤沢市民病院 臨床検査科

清水 博之 先生

食中毒」というと、暑い夏に傷んでしまった食べ物を口にしたときにおこる嘔吐(おうと)や下痢を思い浮かべる人が多いと思います。しかし食中毒は夏限定ではありません。これから寒さが一層増してインフルエンザが流行するにしたがって、一緒に流行するのが「冬の食中毒」であるノロウイルスです。その特徴は何といっても、その凄まじい感染力。普段健康な大人でも感染します。そして、もともと免疫機能が弱い人、体力のない赤ちゃんや高齢者では、入院が必要になることもまれではありません。胃腸炎は大人でさえもとてもつらいものです。感染しないようにするためには、どのようなことに気を付ければ良いでしょうか。

胃腸炎が流行中の保育園でお友達が嘔吐

普段とても元気な3才の女の子Aちゃん。通っている保育園では最近、お休みしているお友達がたくさんいます。保育園の先生に尋ねたところ、みんな「胃腸炎」と診断されているようです。ある日、Aちゃんといつも一緒に遊んでいる仲良しのBくんが、突然吐いてしまいました。保育園の先生がすぐに駆け付け、手際よく吐物を片付けてくれました。しかし翌日、今度はAちゃんが突然、吐いてしまいました。すぐにお母さんが保育園にお迎えに行き、家で看病していましたが、その日は何度も嘔吐を繰り返し、下痢も始まりました。水分がなかなか取れず、おしっこの量も少なく、濃くなってしまいました。

次の日になっても嘔吐が続いたため、お母さんはAちゃんを小児科に連れて行きました。診察の結果、軽い脱水症を起こしていると小児科の先生に言われ、点滴をしました。治療でAちゃんは少し活気を取り戻し、おしっこも良く出るようになりました。その後は徐々に食欲も戻り、発症から4日目には普段の元気を取り戻しました。

「冬の食中毒」、ノロウイルスとは

日本の食中毒の統計によると、患者数はノロウイルスを原因とするものが第1位です。ノロウイルスは年中いつでも発生しますが、特に11月ごろから増え始めて、12月~翌年2月が流行のピークになります。ノロウイルスの迅速検査は3歳未満と65歳以上の方など以外は保険が適用されず自費診療となります。ただし、他のウイルス性胃腸炎と治療方針が変わるわけではないため、通常は検査は行わずに、症状や周囲の流行状況から診断されます。「感染性胃腸炎」という診断が出された患者さんの中にもノロウイルス感染の方がいることを想定して対応することが必要です。

感染してから、発症するまでの時間(これを潜伏期間と言います)は24~48時間で、ほかの感染症と比べると短いことが特徴です。主な症状は嘔吐、下痢、腹痛で、発熱は軽度のことが多いです。

わずか10個のウイルスでも感染

ノロウイルスの感染力はとても強く、充分に気を付けないと容易に感染してしまいます。感染した人の便や吐物には、1gあたり100万~1億個のウイルスが含まれています。そして10~100個という、ごくわずかなウイルスで感染して発症してしまいますので、その感染力の強さが分かると思います。症状が治まっても、2~3週間は便の中にウイルスが残っているため、しばらくは注意が必要です。

ではノロウイルスはどこからやってきてヒトに感染するのでしょうか。実はいろいろな経路があり、大きく分けて食べ物から感染する経路(経路1、2)と、ヒトからヒトに感染する経路(経路3)があります。経路1は、ノロウイルスに汚染されたカキなどの二枚貝を、加熱不十分な状態で食べて感染する経路です。経路2は、調理をする人の手についているなどしたノロウイルスが付着した食べ物(なんでも)を食べて感染する経路です。そして経路3は、ノロウイルス胃腸炎を発症してしまったヒトの便や吐物を片付けるときに、手洗いなどが不十分で感染したり、ウイルスが付着した場所(発症した人が触ったドアノブやテーブル、エレベータのボタンや電車のつり革など)に触れて感染したり、吐物が乾燥したあとにウイルスが空気中を漂い、それを吸い込んだりして感染する経路です。ノロウイルスは「生ガキで感染」というイメージが強いのですが、そのほかにも多くの感染経路があることを知っておいてください。

ノロウイルスの感染経路

脱水が進行した場合は受診を

ノロウイルスにかかってしまったら、どうしたら良いでしょうか。普段健康な人ならば、免疫の働きで自然に体からウイルスが排除されて治癒し、後遺症を残すことはほとんどありません。

問題はAちゃんのように体から水分が失われて脱水症になることです。水分は一気に飲むと吐いてしまいますので、症状が落ち着いたときに、少量ずつ与えることが大切です。何を飲ませるかも重要で、軽度であれば、適度な塩分と糖分を含む経口補水液が世界保健機関(WHO)でも推奨されています。

経口補水液により点滴をせずに済むことも多いですが、おしっこの量が減って色が濃くなる▽皮膚の張りがなくなる▽泣いても涙が出ない▽目がくぼむ▽脈が速くなる▽舌や口の中が乾いてネバネバする▽大泉門(赤ちゃんの頭にある骨と骨の継ぎ目部分)がくぼむ――などの症状が見られたら脱水症が進行しているサインですので、医療機関を受診しましょう。

日ごろの感染対策で予防を

ノロウイルスには現時点でワクチンや、有効な薬はありません。脱水を避けるために下痢止めの薬を服用してしまうと、ウイルスの排出を妨げて回復を遅らせてしまうことがありますので、使用は望ましくありません。流行期は日ごろの感染対策が、そして家族が胃腸炎を発症してしまったら正しいケアを行うことが、今度は自分が発症しないようにするためにとても大切になります。ウイルスは目に見えません。どんなに注意していても感染してしまうことはありますが、それでもできる限りその可能性を下げることはできます。

ノロウイルスに限らず、感染対策で何よりも重要なことは、手洗いと手指消毒です。手洗いはせっけんと流水で手を洗うことを指し、手指消毒は市販のアルコール手指衛生剤を用います。ノロウイルスにはアルコールが効きにくいのですが、冬に流行する感染症はノロウイルスだけではありません。インフルエンザウイルスを含めて、他の多くのウイルスはアルコールが有効です。アルコール手指衛生剤は水が不要で、携帯していればいつでもどこでも使うことができますので、外出中は小まめに手指消毒をすることをおすすめします。

消毒

最後に、家族がノロウイルス胃腸炎を発症してしまったときの対応についてご紹介します。便や吐物には大量のウイルスが含まれています。少なくとも使い捨ての手袋とマスクを着けてから処理を行います。空気中に浮遊したウイルスを吸い込まないようにマスクが必要です。また、処理する人以外は汚物に近づかないようにしてください。ペーパータオルや新聞紙を使って汚物を静かにふき取り、そのままビニール袋に捨てて口を確実に結びます。床にはまだ目に見えないウイルスが残っていますので、塩素系漂白剤の次亜塩素酸ナトリウム(ハイター、ピューラックス、ミルトン、ミルクポンなど)を適切な濃度(0.1%)に薄めてふき取ります。

子どもがノロウイルス胃腸炎になり、ようやく治って元気を取り戻したら、今度は他のご家族が発症してしまうということも珍しくありません。インフルエンザも含めて冬は注意すべき感染症が数多くありますので、日ごろの対策を確実に行いましょう。

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藤沢市民病院 臨床検査科

清水 博之 先生

藤沢市民病院 臨床検査科に所属する感染症内科医。出身は小児科であり、幅広い年齢の患者さんに対応できる医師。一人ひとりの患者さんに優しく丁寧な診療を行っている。