連載明日に生かす「感染症ノート」

痛い帯状疱疹 発症者が増えている理由とは

公開日

2020年02月17日

更新日

2020年02月17日

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2020年02月17日

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藤沢市民病院 臨床検査科

清水 博之 先生

帯状疱疹(ほうしん)は皮膚に帯状の発赤や小さな水ぶくれができて、神経がピリピリする病気です。「治ってしまえば大丈夫、薬もあるので心配ない」と思われるかもしれません。ところが、後遺症として神経の強い痛みが何年も残ってしまうこともあり、実はあなどれない病気なのです。帯状疱疹は最近、増加傾向にあります。なぜでしょうか。帯状疱疹を予防するには、そしてもし発症してしまっても後遺症を防ぐにはどうしたらいいでしょうか。

ある日、胸がピリピリするようになった80歳男性

毎朝の散歩を日課としている元気な80歳男性。ある日、左胸がピリピリする感覚があり、近くの内科を受診しました。心電図検査をしましたが心筋梗塞(こうそく)狭心症ではなさそうで、「肋間(ろっかん)神経痛」と診断され、痛み止めを処方されました。しかし、その後もピリピリする痛みは続き、ある朝、痛い部位に水ぶくれが帯状に広がっていることに気がつきました。服を着替えるときに少し触れただけでも強い痛みが走ります。驚いて今度は皮膚科を受診したところ、「帯状疱疹」と診断されました。

抗ウイルス薬を処方してもらい、7日間内服。痛みは少しだけ良くなりましたが、完全に消えることはなく、その後も鎮痛薬をもらいに定期的に通院しています。

帯状疱疹はウイルスによる「感染症」

帯状疱疹は、ウイルスが引き起こす「感染症」です。とはいっても、インフルエンザのように感染後しばらくすると特有の症状が出るというわけではありません。また、発症した人と接触したからといって、その人も帯状疱疹になるということはありません。原因となるウイルスは、通常イメージされる「ウイルス感染」とは少し違った振る舞いをするのです。

その原因は「水痘・帯状疱疹ウイルス」と呼ばれます。名前にも含まれているように、実は子どものときに感染する水ぼうそう(水痘)のウイルスとまったく一緒です。水ぼうそうは、治ったようにみえてもウイルスは脊髄から出る神経節という場所に潜み、免疫の攻撃から逃れています。発症後に体内の免疫システムがウイルスを排除することで回復するインフルエンザなどとは、この点で異なります。健康で免疫が正常に機能している間、ウイルスはおとなしくしていて、何も症状がありません。大人になってから疲労やストレスが契機になり、あるいは高齢になって免疫が低下したときなどに、再びウイルスが増殖して、神経を伝って皮膚に移動して発疹ができます。神経に沿って帯状に発疹ができるので、帯状疱疹と言います。

つまり原因ウイルスは同じですが、免疫がない状態で感染・発症した時には「水痘」と呼び、潜伏していたウイルスが再び暴れ出した時には「帯状疱疹」になるのです。

帯状疱疹の発症には加齢が関連しており、50代から発症率が上がります。日本人は80歳までにおよそ3人に1人が発症すると報告されていて、決して珍しい病気ではありません。

神経は全身に分布していますので、頭から足までのどこにでも発症します。通常はからだの左右のどちらかにだけ発症します。発疹は水ぶくれになることが多いですが、痛みだけで発疹が出ないこともあります。

つらい後遺症を残すことも

帯状疱疹は後遺症を残すことがあります。最も有名なのは帯状疱疹後神経痛で、帯状疱疹を発症した患者さんの約20%に見られます。特に年齢が高いほど、そのリスクも高くなるとされています。ウイルスが神経を傷つけることが原因で、帯状疱疹が治った後も痛みが残ります。通常の鎮痛剤が効かないような非常に強い痛みが、数カ月から数年間続く場合もあり、生活に支障をきたすこともあります。

また帯状疱疹を顔に発症した場合には、顔面神経麻痺(まひ)、耳鳴り・難聴などの聴覚障害、目の角膜炎などを合併することもあります。

年々増加している原因は

こどもの水ぼうそう

冒頭で「帯状疱疹は最近、増加傾向にある」と書きました。その原因は、皮肉にも「水ぼうそうにかかる子どもが減ったから」です。

帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫が低くなることで、ウイルスが増えて発症します。昔は水ぼうそうを発症する子どもたちが周りにたくさんいましたので、知らないうちにウイルスにさらされて水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫がそのたびに増強され、大人になっても維持されていました。これを「ブースター効果」と言います。

ところが、2014年に子どもの水ぼうそうワクチンが定期接種になってからは、ほとんどの子どもたちがワクチンを接種するようになり、水ぼうそうにかかる子どもは激減しました。水ぼうそうはとても感染力が強く、怖い感染症なので、発症する子どもが減ったのはとても喜ばしいことです。

一方で、高齢者がブースター効果を得る機会が減ったため、免疫が維持できなくなり、帯状疱疹が増えているものと思われます。また高齢化社会にともない、人口に占める帯状疱疹を発症しやすい年齢層の割合が増えていることも、増加の原因と思われます。

治療は早めに

発症してしまったら、抗ウイルス薬で治療をします。できる限り早めに(皮膚症状を発症してから2~3日以内)投与しなければ効果が下がるので、早めの受診が望まれます。また、一度帯状疱疹になった人でも、まれに再発することがありますので、気になる症状が出たら早めの受診をおすすめします。

予防にはワクチンが有効

帯状疱疹は免疫の低下が原因で発症するので、日ごろの体調管理はとても大切です。食事や睡眠をしっかりとること、疲れがたまらないように休息を適宜とり、適度な運動をすることが帯状疱疹の予防につながります。

加えて、水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫を維持しておくことが帯状疱疹の予防になります。昔はブースター効果を得る機会がたくさんありましたが、前述のように今はその機会が減っているため、代わりに帯状疱疹ワクチンを接種して免疫を再上昇させます。中身は子どもに接種する水ぼうそうワクチンと一緒です。

ワクチンの接種

2016年に日本でも50歳以上の人に対して帯状疱疹ワクチンが接種できるようになりました。海外でのデータになりますが、帯状疱疹ワクチンによって発症率を51.3%、帯状疱疹後神経痛を66.5%減らすことができることが示されました。欠点としては、現在日本で使える帯状疱疹ワクチンは生ワクチンのため妊婦さんや著しく免疫が低下した(HIV感染、ステロイド、抗がん剤、免疫抑制剤などを使用中)人は接種することができません。

子どものときに水ぼうそうにかかったことのある人は誰でも、帯状疱疹を発症する可能性があります。少しだけ免疫がある分、発症したときに症状が分かりにくく、診断が遅れてしまうこともあります。帯状疱疹後神経痛を残さないためにも、ワクチンの接種をかかりつけ医と相談してみてはいかがでしょうか。

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