連載病で描く世界地図

海外での医療費は驚くほど高額なことも “プラスアルファ”もある旅行保険の効用

公開日

2019年08月22日

更新日

2019年08月22日

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2019年08月22日

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

海外旅行中に病気やけがで医療機関を受診する時には色々な不安があります。言葉は通じるのか、医者は信頼できるのか、そして医療費はどれだけかかるのか――。実際に海外の医療機関を受診して、驚くほど高額な医療費を請求されたケースもあります。こうした費用面の不安をなくすため、旅行前は海外旅行保険に加入しておくことを強くお勧めしています。

2000万円以上の医療費が生じたケースも

ジェイアイ傷害火災保険の「海外旅行保険事故データ」という統計があります。このデータをみると、2018年度は同社の保険に加入していた海外旅行者のうち、2000万円以上の高額医療費を支払ったケースが5件ありました。このうち3件は旅先で心筋梗塞(こうそく)を発病して入院したケースです。300万円以上になると約50件あり、病名としては骨折や脳卒中などが多くみられます。こうしたケースの約4割が65歳以上のシニア世代ですが、若い世代の人もかなりの数いました。

心筋梗塞

この統計に記載されている旅行者は保険に加入していたので、ほぼ全額を保険会社が支払ってくれましたが、もし加入していなかったら、旅行者自身の負担になるのです。

旅行保険を病気やケガで利用する確率は高い

多くの旅行者は、旅先で「万が一」病気やけがをした時のため旅行保険に加入しますが、実際に病気やけがをする確率は万に1つどころか、かなり高くなります。

ジェイアイ傷害火災保険のデータでも、保険加入者の3.7%(27人に1人)が、旅先でのトラブルで保険を利用していました。このトラブルの中にはスーツケースの破損などもありますが、全体の半分は病気やけがによる医療費の支払いでした。つまり加入者約50人のうち1人が、医療費のために保険を利用していたことになります。旅行で保険に加入するのは決して「万が一」のためではなく、よくあるトラブルへの対処法なのです。

クレジットカードの保険では不十分

それでは、日本からの旅行者はどのくらいが旅行保険に加入しているでしょうか。これを明らかにするため、私たちは2016年1月に東京国際空港(羽田)から海外に出発する旅行者を対象に調査を行いました。その結果、7割以上の旅行者が旅行保険に加入していると回答しました。これはかなり高い割合ですが、この中にはクレジットカードの旅行保険加入者も多かったようです。

クレジットカードの中には、会員になれば自動的に旅行保険にも加入できるものがあります。この保険があれば十分と考えている人も多いのですが、そこに落とし穴があります。カードの旅行保険は補償金額が低く設定されており、一般的には300万円以下です。治療費がどれだけかかっても、それ以上の金額は補償してくれません。つまり、海外でかかる医療費を安心して支払うには、正式な海外旅行保険に加入する必要があるのです。

保険がないと医療が受けられないケースも

日本国内ならば、ほとんどの国民は健康保険に加入しており、医療費のことをあまり気にせずに医療機関にかかっています。たとえ保険未加入で医療費を支払えそうもない人が受診しても、医療機関側は診療を拒否できません。なぜならば、日本では法律で、患者の診療に応じなければならない義務(応召義務)を医師に課しているからです。

しかし、海外の多くの国には応召義務がありません。もし、お金を払えそうもない外国人が受診したら、医療機関は診療を拒否することもあります。たとえ治療が始まっても、医療費が患者の支払い限度額以上になると、そこで治療が中断されることもおこります。例えば、デンゼル・ワシントンが主演した「ジョンQ」というアメリカ映画(2002年)があります。主人公の子どもが心臓病にかかり心臓移植が必要になりますが、病院が手術を拒否したため、主人公が病院を占拠して手術を強行させるというストーリーです。この時に子どもが加入していた現地の保険では、心臓移植という高度医療の費用まではカバーしてくれなかったのです。

海外で安心して医療を受けるためには、十分な医療費が払える補償、すなわち正式な旅行保険に加入していることが絶対条件になります。

旅行保険は持病をカバーしてくれない

正式な旅行保険に加入していても、保険会社が医療費を支払ってくれないケースがあります。持病のある旅行者が、旅先でその悪化により受診した場合です。

先日、糖尿病で薬を飲んでいた旅行者が、旅先のロサンゼルスで救急外来に運ばれました。到着後、しばらく薬を飲み忘れたために血糖値が大変高くなり、意識不明の状態になってしまったのです。この人は旅行保険に加入していたので、入院した病院で十分な治療を受け、無事帰国しました。帰国後、200万円近くかかった医療費を旅行保険会社に請求したところ、保険は支払われないことがわかりました。ほとんどの旅行保険は、持病の悪化でかかった医療費をカバーしてくれないのです

こうしたケースが多いので、最近は持病もカバーする旅行保険が販売されるようになりました。持病のある人が海外旅行する際は、保険会社にあらかじめ相談しておきましょう。

付帯サービスも便利

旅行保険は旅先でかかった医療費をカバーしてくれるだけでなく、付帯するサービスがいくつかあります。

アシスタンスサービスもその1つです。これは、海外で病気になった時に、コールセンターに日本語で電話を入れ、滞在先の提携医療機関を紹介してもらうサービスです。提携医療機関は一定の医療レベルがあり、旅行保険の加入者は医療費の支払いを心配することなく安心して受診できます。

コールセンター

旅先で入院し家族の付き添いが必要になるケースでは、家族の日本からの旅行費用をカバーするサービスもあります。また、旅先での医療対応が難しい場合、日本にチャーター機などで搬送するケースもありますが、この費用をカバーしてくれるサービスもあります。

このようなサービスは基本契約に入っている保険が多いのですが、特約として付け加える保険もあるので、事前に保険会社に問い合わせておくことをお勧めします。

海外旅行中に病気やけがをすることは決して珍しいことではありません。そんな場面で安心して医療対応が受けられるように、旅行保険への加入を忘れないでください。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。