今期の年末年始は9連休になる会社もあり、海外旅行に出かける人が多くなります。この季節は、寒い日本を飛び出して、ハワイ、グアム、東南アジアなど暖かい国に滞在する旅行が人気のようです。こうした年末年始の海外旅行にあたり健康面で注意する点をまとめてみました。
寒い日本から暖かい国に移動すると、気温が大きく変化します。このため、この時期の旅行では旅先で熱中症になるケースがよくみられます。とくに血圧の薬を服用している人は、薬の影響で熱中症をおこしやすいとされています。暖かい国に滞在する時には、日ごろ以上に水分補給に心がけてください。
これと逆に、暖かい国から寒い日本に帰国した時は風邪をひきやすくなります。旅先で着ていた服のままでいると寒すぎるので、帰国したら防寒具をすぐに着るようにしてください。往復とも同じ空港を使うのなら、空港で防寒具を預けるサービスもあります。
この季節は大掃除や忘年会などで、旅行前が大変多忙になります。その結果、疲労をためたまま出発するケースも多く、それが旅先での熱中症や帰国後の風邪の原因になります。疲れをとるために、往復の航空機内では睡眠をとるなどして、十分に休養してください。
海外の国ではいろいろな感染症が流行しており、旅行中にかかることが少なくありません。この中でも下痢症は大変に頻度が高いものです。旅先では加熱した料理を食べることや、飲み物はミネラルウオーターを飲むなどの注意をしましょう。
下痢症に関する最近の海外ニュースとして、アメリカのカリフォルニア州などで今秋、ロメインレタスを原因とする大腸菌O157の食中毒が流行しました。レタスなどの野菜類や果物は加熱せずに食べることが多いので、衛生状態の良い店を選んで食べるようにしましょう。
2019年は蚊が媒介するデング熱が東南アジアや南米で大流行しました。東南アジアでの患者発生数は、11月以降、ほとんどの国で減少していますが、シンガポールでは年末になり患者数が再び増加傾向にあります。デング熱を媒介するネッタイシマカは昼間吸血する習性があり、昼に蚊の多い場所では皮膚に虫よけのローションなどを塗るようにしましょう。海辺のリゾートなどで日光浴をする際も、日焼け止めとともに虫よけを使ってください。
年末になり南太平洋の国々で麻疹(はしか)の流行がおきています。先日のラグビーワールドカップで活躍したニュージーランドでは、オークランドなどを中心に2000人以上の患者が発生しています。また、サモア、フィジー、トンガなどの国々でも麻疹の流行が報告されています。麻疹は空気感染する病気で、ワクチン接種が最も効果的な予防方法です。30歳代から40歳代には、過去にワクチンを2回受けていない人や、感染したことのない人が多く、麻疹にかかりやすくなっています。この世代の人がニュージーランドなど大洋州地域に滞在する際には、出発前に麻疹ワクチンの接種を受けておくことをお勧めします。
年末年始は北半球でインフルエンザが流行します。熱帯や亜熱帯の国に滞在するとしても、空港などでインフルエンザの患者に接触する機会が増えてきます。このため、年末年始に海外旅行をする人にはインフルエンザのワクチン接種もお勧めします。
年末年始の旅行は、子どもや高齢の両親などと一緒に出かけるケースも多くなります。子どもの場合は、環境変化への順応がしにくいため、旅先で下痢をしたり、風邪をひいたりする頻度が高くなります。このため、無理のない日程を組むことや、日ごろから使い慣れた薬を携帯するようにしましょう。また、子どもを海外に連れて行く時には、事故にも注意が必要です。海外の公園や遊園地の遊具の中には、安全性が保障されていないものもあります。また、プールや海で泳ぐ場合も、日本とは安全面が同じではないので、保護者が常に監視をするようにしてください。
高齢の旅行者も環境に順応しにくいため、旅先で体調を崩すケースがおこります。高齢者の中には高血圧や糖尿病などの慢性疾患にかかっている人も多く、それが旅先で悪化することもあります。少しでも体調不良があったら、ホテルで休息をとるなりして、無理のない行動を心がけましょう。また普段から服用している薬があれば、旅先でも忘れずに飲むようにしてください。
高齢の旅行者はホテルの浴室や観光地の階段で転倒しやすく、けがをすることがよくあります。旅の疲れがたまっていると、こうした事故も多くなるようです。入浴時には家族が見守ったり、階段を使用する際には介添えをしたりして、転倒事故を防いでください。
年末年始に海外旅行を計画したら、まずは現地の気候や流行している病気などの情報を収集しましょう。海外の病気の情報については、厚生労働省検疫所のホームページや、筆者が作成している「海外旅行と病気」のホームページなどをご参照ください。これらの情報を参考にして、ワクチンの接種や虫よけ薬などの準備をしましょう。
次に、旅先で風邪をひいたり下痢をしたりした時のための携帯薬を準備してください。日本では下痢を止めない方がいいと言われていますが、熱帯や亜熱帯などでかかる下痢は、薬で止めても支障ありません。ただし、高熱や血便が出ている場合は、下痢止め薬を服用せずに、滞在先の医療機関などを受診しましょう。慢性疾患などで薬を服用している人は、多めに持参してください。
最後に海外旅行保険への加入をお忘れなく。海外でかかる医療費はかなり高額になることがあり、旅行保険への加入は必須です。また、旅行保険に加入していると、旅先で病気になった時に、アシスタンスサービスという方法で現地の提携病院の紹介や受診サポートを受けることができます。
年末年始の海外旅行にはいくつかの健康リスクがあります。それを上手に予防して、楽しい旅行にしてください。
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東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授
1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。