連載病で描く世界地図

「コロナ対策緩和」「気候変動」で動き出した世界の感染症

公開日

2023年12月15日

更新日

2023年12月15日

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2023年12月15日

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2023年12月15日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の流行が落ち着きをみせるなか、今年(2023年)は世界各地で新型コロナ以外の感染症に大きな動きがみられています。たとえば、日本でインフルエンザが秋から流行していることや、中国でマイコプラズマによる小児の肺炎が増加していることなどが挙げられます。さらにイタリアやフランスでは、本来熱帯の病気であるデング熱の患者が続発しています。こうした感染症流行の原因には新型コロナの影響もありますが、昨今の気候変動も関係しているようです。今回は世界でみられている感染症全体の新たな動きを解説します。

中国で小児の肺炎患者が急増

世界保健機関(WHO)は11月末、中国北部を中心に小児の間で肺炎患者が急増していることを発表し、中国政府にその原因についての報告を求めました。その後、中国の保健当局は、肺炎の原因が新たな病原体ではなく、マイコプラズマなど既知の病原体であることを明らかにしました。マイコプラズマは細菌の一種で、肺炎などの呼吸器感染を起こすことが知られています。

では、なぜこの時期に小児の肺炎が流行したのでしょうか。この原因として、昨年まで中国では新型コロナに対する徹底した感染対策が取られ、新型コロナ以外の呼吸器感染症の流行も抑え込んだためと考えられています。この結果、マイコプラズマなどへの免疫が低下し、感染対策の緩和後に大きな流行が生じたのです。大人は過去に感染して免疫を持っている人もいますが、子どもはこの影響をまともに受けてしまったようです。

インフルエンザの早期流行

新型コロナへの感染対策の緩和後に、新型コロナ以外の呼吸器感染症が再燃するという現象はインフルエンザでもみられています。日本では2020年秋以降の2シーズンにわたりインフルエンザの流行はありませんでしたが、今年5月の対策緩和後は、夏でもインフルエンザの患者が散発し、それが秋以降の早期流行につながりました。中国でも今年はインフルエンザの早期流行が発生しており、小児の肺炎患者の中にはインフルエンザに関連した患者も多いようです。

日本では咽頭結膜熱(プール熱)の患者も夏頃から急増しています。この感染症も飛沫感染や接触感染で拡大するもので、新型コロナ流行中は患者数が大幅に減っていましたが、対策緩和後に急増してきました。

新型コロナが猛威を奮っていた時期に、私たちはマスク着用や手洗いなどの感染対策を強化し、新型コロナだけでなく呼吸器感染症全体の流行を抑えることができました。しかし、この間にそれぞれの病原体への免疫が低下し、対策を緩和した後に流行が拡大したというのが現状なのです。

麻疹やジフテリアの流行

新型コロナが拡大していた最中、各国の保健当局は大変多忙になり、日常の業務が滞ることもありました。これは子どもの定期予防接種にも影響し、その結果として途上国などでは麻疹やジフテリアなどの感染症が拡大しました。

特に麻疹の流行は深刻な状態に陥っており、今年はアジアやアフリカの国々で小児を中心に多くの患者が発生しています。麻疹は感染力が強いため、小児へのワクチン接種が停滞すると、その影響が直ちに流行につながるのです。日本からの海外渡航者が途上国で感染するケースも増えており、日本国内での麻疹流行の再燃も懸念されています。

ジフテリアも今年4月までにフィリピンのマニラ周辺で、9月にはベトナム北部で局地的な流行が発生しました。さらに、百日咳も世界各地で流行が報告されています。ジフテリアや百日咳は飛沫感染により拡大する感染症で、小児の定期予防接種により世界的に流行が抑えられてきました。しかし、新型コロナ流行に伴う接種率の低下により、途上国などで再燃がみられています。

このように、新型コロナの流行は子どもの予防接種率の低下を招き、その結果としてワクチンで抑えられてきた麻疹、ジフテリア、百日咳などの拡大を起こしているのです。

蚊が媒介する感染症の拡大

デング熱やマラリアなど蚊に媒介される感染症も、新型コロナの流行以来、世界的に拡大傾向にあります。

デング熱は昨年、東南アジアで大流行を起こし、シンガポールでは過去2番目に多い3万人以上の患者が発生しました。今年は中南米で大流行しており、7月末までに昨年1年分の患者数に達しました。また、今年はヨーロッパでもデング熱の国内流行が発生しており、イタリアでは北部のロンバルディア州やローマ近郊、フランスでは地中海沿岸地域を中心に患者が発生しています。

マラリアもアフリカなどで患者数が増えているとともに、今年の夏は韓国で三日熱マラリアの患者数が増加し、米国でもワシントンD.C.近郊で40年ぶりに国内感染者が発生しました。

蚊に媒介される感染症が拡大している原因としては、新型コロナ流行による混乱で、保健当局による蚊の駆除が停滞したためと考えられてきました。しかし、先進国でも拡大している現状からすると、気候変動による高温や降水量の増加などにより、媒介蚊の数が増加していることも影響しているようです。

日本でも2014年に東京でデング熱の国内流行が発生しており、媒介蚊は国内にも棲息しています。近年のインバウンド旅行者の急増に伴って、日本国内でデング熱の国内流行が再び発生する可能性も高まっていると思います。

来年はどのように変化するか

このように、今年は世界各地で感染症の流行に新たな動きがみられていますが、来年はどのように推移するのでしょうか。

インフルエンザやマイコプラズマ肺炎のように、免疫の一時低下により拡大している感染症は、再び免疫を獲得することで通常の流行パターンに戻っていくでしょう。麻疹やジフテリアのように、子どもへの定期接種の停滞が原因と考えられる流行拡大も、各国の保健当局の体制が落ち着いてくれば終息してくるものと考えます。

その一方で、蚊に媒介される感染症は、新型コロナの流行とは別の気候変動という深刻な問題により拡大しているようです。このように考えると、来年以降もデング熱やマラリアの流行拡大は続く可能性が高いとともに、その原因に応じた対策を取らなければ、さらなる拡大を起こすことも十分にあり得ると思います。

新型コロナの流行と気候変動は、いずれも地球全体の感染症にも影響を及ぼしているのです。
 

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。