連載病で描く世界地図

新型コロナの流行段階~終息の見通しと、今できること

公開日

2020年02月26日

更新日

2020年02月26日

更新履歴
閉じる

2020年02月26日

掲載しました。
0a88fa1601

東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年02月26日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

2月中旬以降、国内で新型コロナウイルスに感染した人が次々に報告されています。それまでは、中国の武漢から入国した人を中心に感染者が発生していましたが、最近は中国と全くつながりのない感染者がほとんどです。こうした事態に、日本政府は「国内発生早期」に入ったと発表しました。では、国内発生早期とはどういう段階なのでしょうか。また、この次に待っているのはどんな流行期なのでしょうか。今回は流行の段階(フェーズ)について解説いたします。

2月下旬時点の世界的な流行状況

2月24日に世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は中国で流行が終息に向いつつあるとのコメントを出しています。この発言は中国での新規患者数が減少傾向にあるためですが、流行の震源地である湖北省ではいまだに多くの患者発生があり、もう少し経過観察する必要があります。このコメントの中で事務局長が懸念していたのが、中国以外の国で新たな流行が発生している点です。これは、日本、韓国、イラン、イタリアなどでみられている国内流行で、この流行が拡大すると湖北省のような事態に陥るだけでなく、その火の手が世界流行(パンデミック)にもつながりかねないのです。

流行の「フェーズ」

2009年に新型インフルエンザが世界流行した際に、日本政府から流行段階(フェーズ)が発表されました。この時のフェーズ分類をもとに、今回の新型コロナウイルスの流行段階について日本を中心にした表を作成してみました(表)。

流行段階

フェーズ1は「海外流行発生期」で昨年12月初旬に湖北省の武漢で流行が発生した時期になります。フェーズ2は「国内流入期」で、1月15日に国内で武漢から入国した人の感染が初めて確認された時に始まります。それからしばらくは、武漢からの入国者を中心に感染者の発生が続きますが、いずれのケースも感染源が誰かなど感染経路が追えました。ところが、2月13日以降に報告されている国内感染例は、中国との関係が不明なだけでなく、誰から感染したか感染経路を追えないケースが出始めました。これが国内発生早期すなわちフェーズ3の始まりです。

このように感染経路が追えなくなると、感染源が不明なため、その周辺で感染者が増えても気づかれず、大きな流行に発展する可能性があります。

そして、このまま流行が拡大すると、その次に起こるのがフェーズ4の流行蔓延(まんえん)期です。国内いたるところで感染者が急増するという事態になります。まさに中国の湖北省がこの状態と言えるでしょう。ここで注意していただきたいのが、フェーズ4は必ずしもおきるものではない点です。あくまでもフェーズ3の流行が拡大した場合で、この時期がないまま、フェーズ5の消退期に入ることもあります。

流行時に応じた対策

こうした流行段階に分けてみると、それぞれのフェーズでとるべき対策が見えてきます。フェーズ1の段階では水際対策により国内侵入を防ぐ対応がとられます。フェーズ2では水際対策が強化されますが、これで侵入を完全に防ぐことは難しく、国内の医療体制の整備をするための時間稼ぎをします。ただし、今回の流行では、クルーズ船での集団発生が起きたため、本来この時期に行うはずだった医療体制の整備が遅れてしまったのです。

そして2月中旬にはフェーズ3に入ります。この時期は流行拡大を防止するため、感染者の病院への隔離や接触者の健康監視が行われます。また、重症者も増えてくるので、集中治療室のある大きな病院で、こうした患者への対応が開始されます。しかし、関東周辺の大きな病院は、クルーズ船関連の重症者対応で飽和状態になっています。このため、受け入れ病院をさらに拡大するといった医療体制の整備が急ピッチで進められています。

もし、流行拡大がこのまま続くとフェーズ4になり、感染者数が急増します。この時点で医療体制の面で大きな切り替えが行われる予定です。軽症者は診療所や小さな病院で診察を受け、自宅療養をしてもらいます。一方、重症者は大きな病院に入院し治療を受けるという体制になります。

国民が今とるべき対策

では、国民の皆さんは現段階でどのような対策をとったらいいでしょうか。

まず、今まで実施してきた手洗いなどの予防対策を続けていくことが大切です。また、高齢者や持病のある人は重症化しやすいので、不要不急の外出を控える方がいいでしょう。こうした予防対策に加えて、感染した可能性のある人は、周囲に感染を拡大させない対策をとります。これは発熱(37.5℃以上)や呼吸器症状などのある人で、マスクをして飛沫(ひまつ)を飛ばさないことや、会社や学校を休み家で安静にすることが大切です。また、感染の可能性がある人は4日間、家で様子をみて、それでも改善しない場合、帰国者・接触者相談センターに連絡して医療機関を紹介してもらいましょう。

会社側でも感染した可能性のある社員の欠勤を促すように働きかけることが必要です。また、混雑した通勤電車の車内は感染リスクが高まるため、時差通勤や在宅勤務などの対策を進めましょう。新型コロナウイルスの流行にあたり企業のとるべき対策については、日本渡航医学会日本産業衛生学会が共同で対策マニュアルを作成しています。各学会のホームページに掲載されているので、ご参照ください。

在宅勤務

流行はいつまで続くのか

フェーズ3で流行の拡大が止まり、フェーズ5の消退期に直接進めば、今回の流行は1~2カ月で終息に向かうことでしょう。しかし、このままフェーズ4の流行蔓延期に入ってしまうと、流行は数カ月続く可能性があります。このため、現段階で十分な感染の拡大防止対策をとることが、新型コロナウイルスの流行を長引かせず、被害を少なくするためには一番重要です。2月25日に政府の専門家会議が発表した見解でも、これから1~2週間の動向が今後の流行状況に大きく影響すると述べています。

今年は東京でオリンピック・パラリンピックが開催される年です。それを成功させるためには、現在のフェーズ3の段階に踏みとどまり、フェーズ4の流行蔓延期を回避すること。そして、もしフェーズ4になってしまった時には被害を最小限に抑え、早期に消退期にもちこむこと。これが大きな条件になります。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

病で描く世界地図の連載一覧

東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。