連載病で描く世界地図

新型コロナワクチン・秋の接種を受けるべきか?

公開日

2023年06月23日

更新日

2023年06月23日

更新履歴
閉じる

2023年06月23日

掲載しました。
0eaf506e38

東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2023年06月23日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

2023年6月16日、厚生労働省のワクチン分科会は秋の新型コロナワクチンの接種に、オミクロン株XBB系統を含むワクチンを用いると発表しました。XBB系統は現在、世界的に流行している新型コロナウイルスで、それに対応したワクチン接種になります。こうした流行株に応じた接種は、インフルエンザワクチンの接種と同様な方法と言ってもいいでしょう。今回は、今年の秋の新型コロナワクチンの接種について解説します。

今までに何回接種を受けたか?

日本で新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)のワクチン接種は2021年2月から始まりました。初回接種シリーズは3~4週間隔で2回接種を受けるもので、現在までに国民の約8割が終了しています。

その後は追加接種が現在までに4回行われており、開始日は2021年12月、2022年5月(ハイリスク者のみ対象)、2022年9月、2023年5月(ハイリスク者のみ対象)でした。これを完全に受けていれば、現在までにハイリスク者(高齢者や慢性疾患のある人など)は計6回、一般の人(5歳以上)は計4回の接種を受けたことになります。

これに加えて、厚労省は今年の秋(9月頃)から、次の追加接種を国民全員に行う予定にしており、それに用いるワクチンが2023年6月16日にオミクロン株のXBB系統を含むワクチンに決まりました。ちなみに、最初に用いられたワクチンは従来株(武漢株)ワクチンで、これが2022年秋からオミクロン株のBA1、BA4/5系統ワクチンに変更され、現在まで使用されています。

ワクチンを変更した理由

今回、ワクチンの組成がオミクロン株のXBB系統を含むものに変更になった理由は、現在、世界的に流行している新型コロナウイルスが、この系統になったためです。最近のWHOの報告では、世界で検出されるウイルスの8割以上がXBB系統ですし、日本でも2023年6月16日の厚労省アドバイザリーボード会議で、大多数がXBB系統になったと報告されています。

さらに、このXBB系統は免疫逃避を起こしやすいため、WHOは2023年5月18日に、BA1、BA4/5系統ワクチンでは、重症化予防効果は保たれているものの、感染や発症予防効果はかなり弱くなっているとの見解を示しています。このため、WHOはXBB系統を含むワクチンの使用を推奨し、米国の食品医薬品局(FDA)や欧州連合の医薬品庁(EMA)も、これを用いることを決定しました。

こうした経緯で、日本の厚労省も今年の秋以降の接種には、XBB系統を含むワクチンを用いることになったのです。なお、現在使用しているオミクロン株ワクチンには、従来株も含まれているため2価ワクチンと呼ばれていますが、WHOは従来株の成分を不要としており、厚労省でもXBB系統のみの単価ワクチンを用いることに決定しました。

ワクチン製造はこれから

このように今年の秋以降の接種については、世界的にXBB系統の単価ワクチンが用いられるわけですが、このワクチンはまだ製造されていません。mRNAワクチンの製造メーカーである、ファイザーやモデルナではすでに開発を進めており、秋までには製造、流通が間に合うとのことです。

インフルエンザワクチンでも次の流行株を予測し、最新のワクチンを毎年製造していますが、製造から流通までに半年以上の時間がかかります。これは従来の製法を用いた不活化ワクチンであるためで、mRNAワクチンの場合は、標的が決まれば製造から流通までの期間がかなり短縮されるのです。

この期間はさておき、新型コロナワクチンにおいても、インフルエンザワクチンと同様に、流行株に対応した接種が行われる状況になりました。

追加接種を受けるメリット

それでは、国民の皆さんが、今年の秋に追加接種を受けるメリットはどれだけあるのでしょうか。

国民の大多数は2回以上の新型コロナワクチンの接種を受けており、感染して免疫を獲得した人も含めると、新型コロナへの免疫を持っている人は、国民のかなりの割合にのぼっています。しかし、こうした免疫は次第に減衰していきます。

その一方、日本では今年も11月以降の冬の到来とともに、新型コロナの流行が拡大する確率がかなり高いと予想されます。この時期は、それまでのワクチン接種や感染による免疫が減衰する時期にも重なるでしょう。そこで、冬の流行前に追加接種を受け、免疫を増強しておくことが、新型コロナの発症や重症化予防のために推奨されるのです。

このワクチンとして、秋から接種が始まるXBB系統ワクチンは、感染や発症、さらには重症化を予防する効果が期待できます。ただし、これから製造されるワクチンであり、具体的なデータはまだありません。また、XBB系統は6月現在、流行しているウイルス株であり、今年の冬に拡大する新型コロナウイルスが、XBB系統のままかは分かりません。

このように不明な点も多々ありますが、それを差し引いたとしても、秋にXBB系統ワクチンの追加接種を受けるメリットは大きいと思います。

なお、厚労省は秋の接種の対象者を国民全員としていますが、海外の国々の状況なども参考にして、近日中に正式な対象者を発表する予定です。

ハイリスク者は今年2回接種

高齢者などのハイリスク者は今年の5月から追加接種が始まっています。これにはBA1、BA4/5系統ワクチンを用いており、現在の流行株と一致しませんが、重症化予防を維持するためには有効とされています。

ハイリスク者は、この追加接種の後、秋からXBB系統ワクチンの追加接種を受けるわけで、これを終了すれば、冬の流行時の感染や発症予防とともに、重症化も予防が期待できるわけです。

年に2回接種を受けるのはなかなか大変ですが、ハイリスク者の方々には、十分な予防対策をとっていただきたいと思います。

自分の意思で接種を受ける

このように新型コロナ対策として、今年の秋からは流行株に対応したワクチン接種が始まります。インフルエンザのように流行株の選定方法が確立されてはいませんが、新型コロナと共存する社会を確立するためには、大きな前進だと思います。

予防接種法上も、秋以降の新型コロナワクチンの一般の人(ハイリスク者以外)への接種には、努力義務がなくなる予定です。つまり、接種を受けたい人が自分の意思で受けるという対応で、これもインフルエンザワクチンと同じ扱いになります。ただし、接種費用は当面無料が続きます。

各自が、接種によるメリットと副反応などのデメリットを考えたうえで、接種を決めていただきたいと思います。
 

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

病で描く世界地図の連載一覧

東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。