連載病で描く世界地図

デング熱新時代~日本への流入増加とワクチンの登場

公開日

2022年12月15日

更新日

2022年12月15日

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2022年12月15日

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

新型コロナウイルス感染症が流行する中、2022年はアジアでデング熱の大流行が発生しました。日本でも水際対策が緩和された影響で、夏以降は国内への輸入例が増加しています。その一方で、デング熱に関する明るいニュースが年末に入ってきました。武田薬品の開発したデング熱ワクチンが、インドネシアやヨーロッパ連合(EU)で承認され、今後、世界各国で使用される可能性が見えてきたのです。今回はデング熱に関する2022年の動きをふり返ってみます。

感染症の流行状況が変化している

新型コロナ流行が発生して3年目となる2022年は、新型コロナ以外の感染症の流行状況にも変化がみられています。たとえば、アフリカの風土病だったサル痘が世界流行を起こしたのは、その典型例と言えるでしょう。また、ポリオ(小児麻痺)の患者が、米国のニューヨークやイスラエルのエルサレムで確認されています。米国では2013年以来、イスラエルでは30年ぶりのポリオ患者発生になります。オーストラリアでは、初めて日本脳炎の流行が発生しました。患者数は30人以上にのぼっており、今後、同国で風土病になる可能性があります。

そして今年は、アジアでデング熱が大流行しました。ベトナムでは11月中旬までに患者数が30万人に達し、昨年同期の約5倍の数になっています。フィリピン、マレーシア、シンガポールなどでも、例年を大きく上回る患者数が報告されています。さらに、今年はインドやネパールなど南アジアでも多くのデング熱患者の発生がみられているのです。

デング熱流行拡大の原因は

デング熱は蚊が媒介する熱帯性のウイルス感染症で、アジアや中南米が高度流行地域になります。日本でも2014年の夏から秋にかけて、東京都を中心に感染者が発生しました。

アジアで2022年に大流行が発生した原因としては、病原体を媒介する蚊が増えたことがあります。デング熱を媒介する蚊は水たまりで繁殖しますが、2022年はアジア全体で雨が多く、それが蚊を増やしたと考えられています。さらに、新型コロナの流行も関与している可能性があります。アジア各国はここ数年コロナ対策に追われ、蚊の駆除が十分でなかったことも、蚊の増殖を招いたのです。

これに加えて、2022年の大流行にはウイルス側の変化も関係しています。デングウイルスには4つの型があり、流行するウイルスの型が変化すると大流行が起こります。シンガポールでは2021年前半まで2型が流行していましたが、2021年後半から3型が増加しており、それが2022年の大流行を起こした一因と考えられています。

日本の輸入例も増加

ここで、デング熱という病気を簡単に説明しておきます。

デングウイルスに感染すると、約10%の人がデング熱を発病します。感染後、1週間以内に発熱や発疹がみられ、強い関節痛や頭痛を伴います。多くの患者はこうした症状が約1週間続いて改善しますが、数%の患者が出血症状(鼻血、消化管出血など)やショック症状を起こして重症化します。ここで点滴や輸血などの適切な治療を受ければ回復しますが、治療が遅れると死亡することもあります。こうした重症化は、異なる型のデングウイルスに再感染した場合に起こりやすいとされています。

日本では、東南アジアなどで感染し帰国後に発病する輸入例が、2010年頃より増加していました。媒介する蚊は都市部でも多いため、日本からの渡航者の感染リスクも高いのです。この輸入例が2019年は年間461人も確認されましたが、2020年以降は新型コロナ流行で渡航制限が強化されたため、ほとんど発生しませんでした。

しかし、2022年6月からの水際対策緩和後は輸入例が少しずつ増加し、12月中旬の集計で累計90人を超えています。今後、日本からの渡航者だけでなく、アジア諸国からの訪日外国人も増えると予想されており、2023年以降はさらに輸入例が増加することになるでしょう。

ワクチンの開発

デング熱の予防対策としては、病原体を媒介する蚊に刺されないようにすることが第一に挙げられます。この蚊はヤブカ(ネッタイシマカなど)と呼ばれており、昼間に吸血する習性があります。蚊は夜に吸血するというイメージが強くありますが、デング熱の予防には昼間、蚊に刺されないことが大切なのです。

デング熱を媒介するネッタイシマカ(Pixta)

デング熱ワクチンの開発も以前から行われ、2015年にサノフィ社がDengvaxiaというワクチンの販売を開始しました。これは遺伝子組み換え技術を用いて製造した弱毒生ワクチンで、4つの型のデングウイルスに効果があります。このワクチンは、アジアや中南米だけでなく欧米諸国でも承認されましたが、接種を受けた人の中に、デングウイルスに感染し重症化するという事例が多発しました。その後の調査で、接種後の感染や重症化は、接種前にデングウイルスの「感染歴のない人」に多いことが明らかになり、このワクチンを受けられるのは「感染歴のある人」に限定されました。

これとは別に、日本の武田薬品もデング熱ワクチンの開発を行っており、最近になりQDENGAというワクチンの製造に成功しました。

武田薬品のデング熱ワクチン

このワクチンも遺伝子組み換え技術を用いた弱毒生ワクチンで、4つの型のデングウイルスに有効とされています。接種方法は3カ月間隔で2回接種します。臨床試験の最終成績では、接種後4.5年までの発症予防効果が61%、入院予防効果が84%と報告されています。さらに、サノフィ社の製剤でみられたような、「感染歴のない人」での重症化は確認されませんでした。

武田薬品のデング熱ワクチンの登場を受けて、インドネシア政府が2022年11月にこれを承認し、12月にはヨーロッパ連合(EU)も承認を決定しました(QDENGA▼(4価弱毒生デング熱ワクチン)の欧州連合における承認取得について)。現在、米国での審査も進んでおり、今後、アジアや中南米など多くの国々で承認される見込みです。

このワクチンは「感染歴のない人」にも接種できるので、日本など非流行地域の渡航者にも使用可能です。

日本での承認は数年後か

このように武田薬品のデング熱ワクチンは、日本の海外渡航者への需要も期待されており、同社では日本国内での申請を近いうちに行いたいとの意向を示しています。

ただ、日本で承認を得るためには、手続きの面でいくつかの難関があります。とくに日本では、遺伝子組換えワクチンがカルタヘナ法(遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律)の対象になっており、この法律の基準を満たすデータを提出しなければなりません。こうした手続きのため、日本での承認はおそらく数年先になるでしょう。

2022年はデング熱がアジアで大流行しましたが、その一方でワクチンによる予防がみえてきた年になりました。2023年は、ワクチンによるデング熱制圧が進展することを期待したいと思います。

*筆者は武田薬品工業に対し利益相反はありません。

*本記事には医療用医薬品や開発品の情報が含まれますが、情報提供を目的としたものであり、プロモーションや広告、医学的なアドバイス等を目的とするものではありません。

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東京医科大学 特任教授、東京医科大学病院 渡航者医療センター 部長

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。