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今冬に感染拡大が懸念される感染症―新型コロナ5類移行後最初の冬に注意すべきこと

公開日

2023年10月25日

更新日

2023年10月25日

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2023年10月25日

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東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2023年10月25日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の感染症法上の位置付けが5類に移行して初めての冬が到来します。過去3年にわたり年末年始の食事会や旅行を自粛してきた方が多いと思いますが、今冬は久しぶりにそうした行事を楽しむことができそうです。その一方で、新型コロナの流行はまだ続いており、インフルエンザの流行も拡大しているなか、感染症全般への予防対策も忘れてはいけない状況にあります。今回はこれからの冬に注意すべき感染症と、その対策について解説します。

行動制限のない冬

日本で新型コロナの本格的流行が始まったのは2020年春からで、その年の冬以降、多くの方々が忘年会や新年会、正月休みの旅行などを自粛してきました。しかし、今年5月に新型コロナが感染症法の5類に移行されたことで、4シーズンぶりに行動制限のない冬を迎えることになります。

久しぶりに楽しい冬を満喫しようと準備している方も多いと思いますが、新型コロナが本格的に流行する前の冬から4年が経過しており、その間に体力が落ちてしまった方も少なくありません。その点も考えて、ご自身の体力に合った予定を組むようにしましょう。さらに、寒い冬は体調を崩すことが多い季節です。特にさまざまな感染症が流行しやすい時期であるため、予防対策が必要になります。

新型コロナの流行再燃

こうした冬に注意すべき感染症として、新型コロナが引き続き一番手に挙がってきます。10月以降、国内での新型コロナ患者数はかなり減少していますが、冬の季節になると流行の再燃は避けられないと思います。

流行再燃の原因としては、気温の低下で外界でのウイルスの生存期間が増すことがあります。また、人の側からすれば、寒い時期になると屋内で過ごす時間が長くなることや、寒さで換気の回数が減ることが挙げられます。さらに、寒いと手洗いが少なくなることも関係します。このようなさまざまな要因が重なり、冬には新型コロナだけでなく、呼吸器感染症全般が増えてくるのです。

今までの国内における新型コロナの流行を見ても、冬の時期には感染者数が大きく増加しました。国民の皆さんが行動を自粛していたにもかかわらずです。今冬はこうした行動自粛が減るため、冬の流行は今まで以上に拡大するとの予測もあります。新型コロナについては、今冬も一定の予防対策を続けていただきたいと思います。

インフルエンザの本格的流行

インフルエンザも呼吸器感染症として冬に流行が拡大します。日本では、新型コロナ対策で国際交通を止めたことなどにより、インフルエンザの流行が2シーズン起こりませんでした。今年1月に3シーズンぶりの流行が発生しましたが、あまり患者数は増えずに収束しました。しかし、その後も夏の間は少数ですが患者発生が続き、9月からは全国的に流行が拡大しています。

こうしたインフルエンザの早期流行の原因は、過去3シーズンにわたり本格的流行がなく、私たちの免疫が低下したためと考えられています。同様の早期流行は、昨年の米国や今年のオーストラリアでも見られており、流行時には患者数もかなり増えました。今後、日本でも年末までにインフルエンザが本格的な流行を迎えると予想されており、ワクチン接種を早めに受けておくことが推奨されています。

ノロウイルス感染症の再燃

ノロウイルスによる下痢症も新型コロナ流行前までは、毎年冬に流行が起こっていました。このウイルスは経口感染し、原因食品では牡蠣(カキ)が多くなります。また、患者の便や吐物にウイルスが排泄されるため、それがドアノブなどを汚染し、そこを触れた手から経口感染することもよくみられます。

ノロウイルス感染症が冬に流行するのは、牡蠣が旬になる時期だからということもありますが、ウイルスが寒さや乾燥に強いことや、寒さで手洗いがおろそかになることも関係しています。新型コロナの流行期間中は、手洗いが盛んに行われたことなどで、ノロウイルス感染症の流行がかなり抑えられていました。しかし、新型コロナの対策が軽減されているなかで、今冬は流行の再燃が予想されています。

このウイルスが厄介なのはアルコール消毒が効きにくいことで、手に付着したウイルスを除去するには、流水とせっけんによる手洗いがもっとも効果的です。また、ドアノブなど環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムなどを使用します。

目の感染症も増加

今年はアデノウイルスによる咽頭結膜熱の患者も増加傾向にあります。この感染症はプール熱とも呼ばれ、咽頭炎や結膜炎を起こします。飛沫感染や接触感染で拡大し、小児を中心に流行していますが、大人もかかります。本来は夏にプールなどで感染する病気ですが、今年は秋から患者数が増加し、冬も流行が続くと予測されています。

もう1つ、目の感染症で流行性角結膜炎が増加しています。この病気もアデノウイルスが原因で接触感染します。大人がかかることも多く、大変感染力が強いため、会社などで集団感染を起こすことがあります。今年は秋から増加傾向にあり、冬に流行が拡大することが懸念されています。

アデノウイルスもアルコール消毒が効きにくく、手洗いがもっとも効果的な予防対策になります。このため、新型コロナの流行期間中は咽頭結膜熱や流行性角結膜炎の流行がかなり抑えられていましたが、今冬はこうした目の感染症にも注意が必要です。

予防対策を保ちながら

新型コロナが流行している間、私たちはマスク着用や、手洗いを頻回にするなどの予防対策を強化してきました。その結果、新型コロナ以外の感染症の流行もここ数年は抑えられてきましたが、予防対策を軽減することにより、感染症全般の再燃を招いているのです。流行を抑えている間に、その感染症への免疫もある程度低下したため、流行再燃で患者数は以前よりも多くなる可能性もあります。

このため、流行再燃が予想される今冬は、感染症への予防対策をコロナ流行時に近いレベルに保っておくことが必要だと思います。すなわち、手洗いの励行、人混みでのマスク着用、体調不良時の療養などです。そして、インフルエンザや新型コロナについては、ワクチン接種を受けておくこともご検討ください。

久しぶりに楽しい冬を満喫するためには、感染症への予防対策の継続が鍵になると思います。

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東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。