連載自分を守る!家族を救う!! 家庭の救急知識

季節外れの「プール熱」 東京など7都府県で警報レベルに―感染を防ぐためにできること

公開日

2023年10月18日

更新日

2023年10月18日

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2023年10月18日

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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

「秋に流行するアデノウイルスって珍しいな」と多くの医療関係者が思っています。一般的には夏に流行するはずのアデノウイルス感染症が2023年10月の今、かなり増えています。私が勤務する病院がある千葉県では2023年第40週(10月2~8日)の定点あたりの「咽頭結膜熱」報告数が1.82人でした。また、大阪府では第35週(8月28日~9月3日)に同3.22人、福岡県では第36週(9月4~10日)に同3.72人など第40週時点で6府県が警報基準値の目安となる3を超えています。東京都でも第40週に都の警報基準(警報レベルにある保健所の管内人口の合計が、東京都全体の人口の30%を超えた場合)に達するなど、全国的に過去5年間と比べて極めて多い感染の報告があります。今回は普段なら夏に流行するはずだったアデノウイルス感染症についてご紹介いたします。

冬にも流行するようになった「プール熱」

アデノウイルス感染症の一種である咽頭結膜熱は、一般的に夏に流行することが多い病気です。夏季には夏休みなどもあり、小児同士の接触が増えます。飛沫でも接触でも感染する病気のため、例年小児の感染がとても多くあります。かつて、夏のシーズンにプールを介して感染が拡大することがあり、俗に「プール熱」と呼ばれていました。ただ、近年では塩素濃度の管理によってプールでの感染は減少傾向です。

また、2003年以降、アデノウイルスの流行は冬にもピークがみられるようになりました。ただ、2023年には例年と異なり、秋の流行が顕著になっているのです。夏にCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染数増加があったため、マスクの着用や手洗いなどの感染対策が行われていたこと、コロナ禍で感染対策がしっかりしていたため自然な感染の機会があまりなかったことなどにより、流行期がずれたことが要因として考えられます。いずれにせよウイルスがたくさん体内に入ってしまえば、その後の症状もつらくなります。病気や予防の知識について学んでいきましょう。

咽頭結膜熱の症状

アデノウイルスには80を超える型が存在し、咽頭結膜熱は主にアデノウイルスの3型によるものです。38~40℃の発熱があり、加えて扁桃腺が腫れて、喉の痛みがあることが多いです。頭痛や下痢を伴うこともあります。また、両目の充血がある場合は典型的なアデノウイルスの結膜炎と考えられます。アデノウイルスは飛沫や糞便を介してや、手の接触、タオルなどの共用などによって感染します。

ウイルス自体に対応する抗ウイルス薬はなく、治療は対症療法になります。多くの場合は自然に回復します。

アデノウイルスの予防法―アルコール消毒は無効

先程書きましたように、アデノウイルスの感染経路は飛沫や糞便、手の接触によります。そのため以下のような対策をご検討ください。

手洗いの重要性

アデノウイルスはエンベロープ(ウイルスの表面にある脂肪を含む成分)がないため、手指のアルコール消毒は効果的ではありません。特に流水を使った手洗いが重要です。

うがい

口内のウイルスを排除するために、うがいも行いましょう。

プールの衛生管理

プールでは塩素消毒が効果的です。すでに多くのプールで行われているように、適切な塩素濃度を保つことが感染予防につながります。

共有物の清掃

身の回りのものに関してもアルコール消毒は無効です。家庭内では、タオルの共有を避け、ドアノブや手すり、おもちゃなどをこまめに次亜塩素酸ナトリウムなどで清掃・消毒することが重要です。

以上の予防策を実践することで、アデノウイルス感染症のリスクを低減することができます。

症状がなくなっても注意

感染性が高いため、前述のような症状がなくなった後も2日程度は休むべきです。学校保健法でもこの点が強調されています

過去に同僚が感染した際には2週間程度結膜の赤みが取れず、お休みしたこともありました。マスク・流水での手洗い・共有物の次亜塩素酸ナトリウムでの清掃など、できる対策を各ご家庭や職場で実施し、“季節外れの流行”から身を守っていただけるようお願いします。
 

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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センターでは救急の基盤をつくり、国際医療福祉大学医学部救急医学講座教授に着任。後進の育成にも力を注ぐ。