立秋を過ぎて暦の上では秋を迎えましたが、梅雨明け以降続いている厳しい暑さは衰える気配がなく、熱中症で搬送される方も依然多くいらっしゃいます。中には日光浴をしているうちに重度の熱中症になり、亡くなった患者さんも。熱中症予防に「こまめな水分補給と適切な冷房使用」はよく聞きますが、気を付けたいことは他にもあります。今回は熱中症予防で見過ごされがちな体調管理の重要性をメインに解説します。
冷房のない屋内での作業中に、体に力が入らない、吐き気があり、自力で歩くことができなくなったという男性が救急搬送されてきました。「昨日の夜は友人と飲みに行って遅くまで深酒をしてしまい、睡眠時間は6時間弱だったと思います。今朝は二日酔い気味だったので、気付けに濃いめのコーヒーを2杯飲んで朝食代わりにしてきました。なるべく水分は取るようにしていたのですが……」。点滴で症状が改善した男性は、そう話しました。
30代で持病もなく、体力にも問題がなかった男性ですが、実は前夜から朝にかけての行動にいくつもの“熱中症リスク”が潜んでいたのです。
まず知っておいていただきたいのは「アルコールが熱中症のリスクになる」という点です。というのも、アルコールを摂取すると利尿作用で尿が出る、睡眠の質が下がる、体温調節機能が低下する――などの影響があるからです。
お茶やコーヒーはおいしく水分が取れると思うかもしれませんが、熱中症の季節には控えめにしましょう。なぜなら、飲んだ水分は結局、カフェインの利尿作用により尿として排出されてしまうからです。結果、十分に水分を摂取しているつもりが実際には脱水気味になってしまいます。
翌日に屋外や気温の高くなる室内などで作業や活動が控えている際には、7時間以上の睡眠をお勧めします。睡眠不足は体温調節機能を低下させ、熱中症のリスクになります。前日に屋外などで作業をして疲労がある場合には、普段よりも長めの睡眠時間が必要になります。
一般に、睡眠中は汗や呼吸などによって500mL程度水分を失うといわれています。起床した際に水分を補給することは理にかなっています。特に、前日に飲酒や酷暑の場所での活動をしていた場合には、起床後の水分摂取が重要になります。
十分な睡眠と水分補給の後には朝食を取ることが必要です。それによって塩分を効率的に摂取して汗で失われるミネラルを補給できます。また、食物に含まれる水分とエネルギーも摂取できます。これらは脱水の予防だけでなく体温調節にも役立ちます。
アレルギーの薬として知られる抗ヒスタミン薬の一部には発汗を抑える作用があるため、体温の調節を妨げることになります。また、高血圧治療のために服用する利尿薬(利尿による脱水)、カルシウム拮抗薬・β遮断薬(皮膚への血流が抑制され体温調節にマイナス)も、熱中症にはリスクになります。これらの薬を服用している方は主治医と屋外の活動をどうするか、薬剤調節の必要性があるかについて、普段から話し合っておくことをお勧めします。
活動時間を選べるのであれば午前11時~午後3時などの日差しが強く気温が高い時間には屋外や酷暑の場所での労働や活動を避けましょう。
水分は塩分を含むものを取ることが望ましいです。具体的には、スポーツドリンクや経口補水液などの飲料です。水でもいいのですが、その場合には塩あめなどで塩分を別途補充してください。
水分補給の頻度について米国の労働安全衛生研究所(OSHA)は、屋外の作業中には15分に1度、コップ1杯の水分を取ることを推奨しています。
黒い服装は光を集めて熱を持ってしまうため、明るい色の服装が推奨されています。また、体への密着度が高い衣類だと発汗の効果が減ってしまいます。締め付けのないゆったりとした服装にしましょう。
1時間おきに15分程度の間隔で休憩を取ることが推奨されています。休憩中は、日陰やエアコンの効いた環境で過ごすようにしましょう。
作業中2人組になることが推奨されています。パートナーの労働者の水分補給の進み具合や様子を定期的に確認することができるからです。これによって、熱中症になる前か、なったとしても早い段階から介入することが可能になります。
さまざまな対策をして細心の注意を払っても、作業環境やその時々の状況次第で、熱中症になってしまうことはあります。周囲の人に熱中症と思われる症状がみられた場合には、以下のような状態になっていないか確認してください。
――このような場合には熱中症の重症度が高いことが予想されるので、救急搬送が必要です。
救急車を要請したら、到着までの間に
――などをしておくことが勧められます。
子どもたちの夏休みはもうすぐ終わりますが、暑い時期はまだまだ続きそうです。前日、そして朝からしっかりと熱中症予防の準備をして、厳しい残暑を健康に乗り切ってください。
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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長
学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センターでは救急の基盤をつくり、国際医療福祉大学医学部救急医学講座教授に着任。後進の育成にも力を注ぐ。