学生の夏休みが短くなったり、お盆の帰省が難しくなったりと、2020年は制限が多く楽しむのが難しい夏になりそうです。しかし、アウトドアでの活動ならば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクを下げながら楽しむことができそうです。今回はアウトドアでの時間を充実させるために気を付けるべきことを、救急医の視点から書いてみました。
ハチやアブなどの昆虫に刺されたり、ダニにかまれたりすると、せっかくの楽しい夏がちょっぴり陰ってしまいます。アレルギーがない限りは、昆虫に刺されて命が危険になる場合は少ないです。ただ、頻度は低いもののダニにかまれたあとに重症化の可能性がある病気になることや、蚊が病気の原因となるウイルスを媒介することがあります。また、過去にスズメバチに刺された経験のある人は、2度目に刺されるとアナフィラキシーという重篤なアレルギー反応が起こる恐れもあります。
トラブルを避けるためには、何より予防が大事になります。まずは予防方法について知っておきましょう。
においがあるものや甘いものは虫を引き寄せます。アウトドアを楽しむ時には、香水・化粧水、髪のローションなどにおいが強いものは避けたほうが無難です。また、甘くてにおいの強い清涼飲料水のボトルの蓋(ふた)が開いていると虫を誘引してしまいますので要注意です。
ダニやノミを避けるには、動物との接し方が重要になります。可愛いからといって野良犬、野良猫、野生の動物、鳥類との接触は避けたほうがいいでしょう。また、さまざまな病気を媒介するマダニは草むらに潜んでいるので、できるだけ近づかないようにしましょう。
せっかくの虫除けも塗りムラがあるとその部分が刺されてしまうので、1人で塗るよりも誰かと一緒に塗ることがおすすめです。時間がたつと汗などで効果が薄れるため、屋外にいる時間が長くなった場合には再度塗るようにしましょう。日焼け止めと虫除けを同時に使うことも多いと思います。その場合は日焼け止めのあと、「最後に」虫除けを塗るのがより効果的です。
虫除けは「ディート」または「イカリジン」を主成分とするものが適用範囲も広く、効果が期待できます。ハーブを主成分としたものもありますが、持続時間や効果にばらつきの恐れもありますので、注意書きに目を通したうえで、使用目的に合うかどうか判断してください。
衣類の色は白やベージュなどが昆虫を避けるにはおすすめです。逆に黒や鮮明な色の服は避けたほうがいいでしょう。また暑いですけれども、やぶに入ったり、虫の多いところで活動したりする場合には、通気性のある長袖・長ズボンの着用を推奨します。衣類を貫通して虫が刺すのは難しいからです。履物もサンダルよりは足首まで保護されたスニーカーなどがおすすめです。
夏の食中毒の原因として気をつけるべきなのは、腸管出血性大腸菌O157です。牛の腸管に多く存在する細菌で、お肉を扱う場合には注意が必要です。お料理の際には、
――これらを徹底することによってO157、ノロウイルス、COVID-19の対策が可能になります。
アウトドアは大人数の方が楽しいのは言うまでもありません。けれども、今年はCOVID-19のある夏ですので、家族だけで出かけるなど人数を少なくすることは、ここでも重要になります。暑いですし、屋外であることを考えるとマスクをつける必要性は少なくなります。しかし、大声を出して飲食をすると、たとえ屋外であってもCOVID-19の感染があったという報告もあります。ですので、飲食時には距離をとる、大声を出さない、そして今年の夏はアルコールを控えめにすることが望ましいですね。
キャンプやバーベキューをする際には、グループごとの距離を2m以上取るのが、より安全です。
梅雨も明け、気温が一気に上がります。アウトドアでの活動はここまでご紹介したように、どうしても熱中症のリスクが増すような対策も必要になります。アウトドアでのリスクと熱中症、2つの対策を両立させる「通気性のある服を選ぶ」「光を反射する白やベージュの服を選ぶ」「帽子をかぶる」――などはとても大事ですね。
水分の補給は15分おきに、休憩は1時間おきに、シーズン初めての活動の際には1時間で切り上げる。その後1時間ずつ活動時間を延ばしていくことがおすすめです。
気をつけることばかりで大変ではあります。しかし「備えあれば憂いなし」のことわざ通り、準備を怠らなければアウトドアの時間がより充実したものになるでしょう。COVIDの夏にも楽しみを見出すための、みなさまの行動の一助になれば幸いです。
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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長
学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センターでは救急の基盤をつくり、国際医療福祉大学医学部救急医学講座教授に着任。後進の育成にも力を注ぐ。