連載自分を守る!家族を救う!! 家庭の救急知識

気温低下とともに増える低体温症患者―室内で発症、命に関わることも

公開日

2023年12月19日

更新日

2023年12月19日

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2023年12月19日

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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

気温の低下とともに、救急外来に運ばれる高齢の方が増えています。その中には、ほぼ毎日のように「低体温症」の方も含まれ、重症の方も多くいらっしゃいます。低体温症というと、冬山のような屋外で寒さにさらされて発症するといったイメージを持たれるかもしれません。しかし、室内でも発症し、重症になると命に関わることもある危険な症状です。夏の熱中症の危険性は浸透する一方で、冬の寒さによる低体温症のリスクはあまり知られていません。低体温症の症状や予防法について知っておき、ご自身や家族を寒さから守ってください。

中等症以上の死亡率は約40%

数日ぶりに実家を訪れたところ、一人暮らしの父親が倒れていた。頭にけがをしていて意識ももうろうとしている。手を触るととても冷たく、体温計では体温を測れない。なんとか呼吸はしているがつらそうなので、急いで救急車を呼んで病院に運んでもらった――。

このような経緯で救急搬送される高齢の方が多くいらっしゃいます。

低体温症とは、体から失われる熱が産生する熱を上回ることで、体の深部体温が35℃以下に低下した状態を指します。

人の体温には「皮膚体温」と「深部体温」の2種類があり、腋など体の表面から測定する温度が皮膚体温、脳や内臓など体の内側の温度が深部体温です。基本的に直腸用の体温計を用いて深部体温を測定し、直腸の温度が35℃以下になった場合に低体温症と診断されます。深部体温は脳や心臓といった生命維持に関わる臓器の温度を反映しているため、一定以上に低くなると命に関わることがあります。一般的に32~35℃が軽症、28~32℃が中等症、20~28℃が重症と分類され、中等症以上の死亡率は約40%といわれています。

低体温症予防のポイントは

どのような症状がみられると危険なのでしょうか。

低体温になっても、「元気がない」など曖昧な症状しかみられないことが多いです。ただ、気温が低い中で体が冷えて脳や神経に関する兆候(しびれ、不安定、錯乱など)がみられたら危険です。迅速に暖かい環境に移動することが大切です。

より重要なのは、低体温状態になるのを避けることです。高齢の方に多い低体温症を予防するポイントは以下になります。

  • 暖房で室温18℃以上に
  • 重ね着をして暖かく
  • アルコールの摂取は避ける
  • 温かい食べ物や飲み物を取る
  • 定期的な運動を
  • 一人暮らしの高齢の方は定期的な家族の訪問や電話などで状況を確認

それぞれについて詳しく解説します。

室温はどれくらい?

物価もエネルギー価格も上がっています。家計への貢献と思ってエアコンや暖房器具の使用を控えめにする方もいらっしゃるでしょう。とはいえ、室内にいても低体温症になることはあります。予防のためには室温が18℃以上になるように設定してください。

服装は?

屋外での低体温症を予防するために重要なのは「適切な服装」です。厚手の上着をきちんと着ることは重要です。加えて、頭・首・手足など、体の露出部分を少なくするようにしましょう。マフラー、ネックウォーマー、耳あて、厚手の靴下、タイツやスパッツなど利用するようにしてください。帽子や手袋も有効です。さらに、カイロの使用も考慮してください。室内でも、できるだけ重ね着をして体の熱を逃がさないようにしましょう。

服が濡れてしまうと気化熱によって急速に体温が奪われてしまいます。万が一服が濡れてしまったら、着替えるか暖房などで乾かして乾燥した状態を保つようにしましょう。

子どもは?

子どもは一般的に熱を保ってくれる脂肪が少ないことに加え、体積に対する皮膚表面の割合が高いので熱が逃げていきやすいため、低体温症のリスクが高くなります。特に注意したいのが低体温症のサインが出にくい乳幼児です。乳幼児の首・胸・背中・下半身の周囲には、褐色脂肪組織と呼ばれる体温を保つための組織があります。そのせいで、大人のように低体温の際に震えが出にくいのです。震えが少ないとしても低体温になっているということがあるので、危険な環境では保護者はより注意深くお子さんの様子に気を配ることが必要になります。

大人にもリスクが

成人でも、50歳を超えている、極端に痩せているもしくは太っている場合には低体温の危険が増えます。また、持病をもっていて血の巡りが悪い、糖尿病・甲状腺機能低下症・アジソン病・腎臓病などがあると体の熱を作る能力に限界があり、低体温になりやすくなります。加えて、特定の薬(鎮静薬、抗精神病薬、β遮断薬、糖尿病治療薬など)を飲んでいる人も低体温になりやすいので注意が必要です。これらがなくても、過去に凍傷や低体温症を経験したことがある人は、寒い環境では入念な防寒対策が必要です。

アルコールを飲めば温まる?

寒冷な環境にいるときは、アルコールを飲むのは避けましょう。アルコールを飲みすぎて低体温症を発症した人がよくみられます。アルコールは皮膚の血管を拡張させるので、いったんは温かさを感じます。しかし、その後皮膚から熱が放散するため体の熱が逃げて行ってしまいます。一方でアルコールは寒さを認識しにくくさせます。それによって震えの発現が遅れたり、震えが短くなったりします。結果として低体温症のリスクが上がりやすくなるわけです。

寒い日は「ヒートショック」にも警戒を

低体温症とともに、寒い季節に注意が必要なのが急激な温度の変化で体がダメージを受ける「ヒートショック」です。

もっとも注意が必要なのは、寒い冬にお風呂に入るときです。予防のために、浴槽のお湯と洗い場・脱衣場の温度差が少なくなるようにしましょう。低温の脱衣場で「寒い寒い」とお風呂に入る準備をしていると血圧は高めになります。その後、浴槽に入ると皮膚が温かくなって血圧が下がります。この際に失神して溺れてしまう、という危険があります。また、温まった後に立った際に失神してしまうという場合もあります。脱衣場を暖めておく、洗い場もお湯をまいて暖めておくなど安全にお風呂に入れるように気を付けてください。湯温も41度以下のほうが安全です。入浴時間は10分を超えないようにするのがよいです。

寒い中でも定期的な運動をすることによって、体がエネルギーを燃やして体温を保てるようになります。どうしても冬は歩いたり運動したりする機会が減りますが、天気のよい日は散歩などをご検討ください。

一人暮らしの親がいる方は定期的な訪問や、電話での確認などをしましょう。最近は歩数が少ないと通知するスマホのアプリもあるようです。テクノロジーも利用して安全に寒い冬を乗り切ってください。
 

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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センターでは救急の基盤をつくり、国際医療福祉大学医学部救急医学講座教授に着任。後進の育成にも力を注ぐ。