秋の到来とともに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者数が増加しています。手洗いとともに感染予防の基本として、もはや我々の生活に欠かせなくなったマスク。品薄で「手に入れば何でもいい」という時期もありましたが、COVIDとの闘いが長期化するにつれ、いろいろな種類が出回るようになりました。顔の大部分を覆うものですし、ファッション性もほしくなるかもしれません。ただ、出発点は感染症の予防です。そのため、「賢いマスクの選び方」を学びつつ日々の生活を送っていきたいですよね。今回はこの秋冬も感染から身を守るため、改めてマスクについて考えます。
マスクは大きく分けて不織布製と布製があります。
不織布は「ふしょくふ」と読みます。布が縦横に糸を織っているのに対し、文字どおり「織っていない布」で、繊維同士を熱や化学的な作用などで結合させてシート状にしています。原料の繊維を細く緻密にしたり、隙間を多くしたり、厚さを変えたりすることで、求める機能に合ったシートを作ることができます。
医療現場でよく使われるのはサージカルマスクと呼ばれ、細菌濾過(ろか)率(細菌を含む粒子がマスクによって除去された割合=BFE)が一定の水準(米国食品医薬品局=FDAでは95% 以上)であることが必要になっています。
一般に販売されている「使い捨て」タイプのマスクもほとんどが不織布製ですが、中には“粗悪品”もあるようです。購入の際にはBFEなど一定の基準を満たしているかといった表記を確かめるといいでしょう。
不織布マスクはほとんどが白色で、文字通り“色気”がありません。一方、布製は色や模様、形もバラエティーに富んでいるため、マスクの変化でおしゃれを楽しんでいる方も多いと思います。ただ、不織布マスクが手に入らず、苦肉の策として布製マスクが使われ出した当初、肝心の機能面についてはよく分かっていませんでした。
マスクのフィルター機能には「自身→外(飛沫バリア)」「外→自身(病原体濾過)」の2種類があります。さまざまな研究から、布マスクは不織布マスクほどではないものの、どちらの方向においても有効であることは分かってきました。ですので、布マスクについては、「不織布マスクより性能は劣るもののその効果はある」、が結論になります。
ただし、布マスクは作りによっても性能が大きく変わってきます。どのようなポイントに気を付けて選ぶといいでしょうか。
布マスクの機能を考える上で、米疾病対策センター(CDC)の情報が参考になります。
まず、素材選びで大事なのは
――などになります。デザイン性や使用時の心地に加えて、どのような繊維が使われているのかについても参考にして選ぶことができるといいですね。
耐水性もポイントになります。
マスクが湿ってしまうと、フィルターとしての機能が低下します。そのため耐水性があるマスクを選ぶことが重要になります。特に外層がポリエステル素材でできているものは、外からのしぶきでマスクが湿りにくいのでお勧めです。
顔面へのフィット性も大切です。
マスク本体のフィルター機能が優れていても、顔との間にすき間があるとそこからウイルスを含む飛沫が出入りしてしまうことも。サージカルマスクは上端に「ノーズワイヤー」という金属があり、鼻の形に変形してすき間から空気が漏れにくくなっています。布マスクには平型と立体型の2種類があります。顔へのフィット性という観点からすると立体型の方がよいと考えられます。
最も重要なのは会話をしている双方がマスクをすることです。どちらかが自分では気付かずに感染していても、マスクをつけていることで、相手にうつさずに済む可能性が高いのです。CDCは、米ミズーリ州のヘアサロンで5月に起きた、次のような事例を紹介しています。
ヘアサロンの美容師2人が、新型コロナに感染しました。この2人に髪を整えてもらっていた客たちに「美容師は仕事の間、ずっとマスクをしていましたか」と聞いてみると、97%が「していた」と答え、残りの3%は「分からない」で、「していなかった」と答えた人はいませんでした。一方、客も98%がずっとマスクをし、残る2%も外すことはあったもののマスクを着用していたと答えました。つまり、施術中はほとんどの時間帯で美容師、客の双方がマスクを着用していたと考えられます。美容師の感染発覚後に客のうち希望する67人がPCR検査を受けたところ、全員が陰性でした。
この事例は、ヘアサロンのような「3密」空間でも、マスクによって感染を防ぐことができる可能性を示しています。
ただし、ウイルスは目の粘膜から感染することもあります。2人で会話する際、何らかの事情で片方がマスクをすることができないのであれば、マスクをしている人は、フェイスシールドやアイシールドなどで相手の飛沫から目を保護すると、より安全です。
新型コロナウイルスについて分かってきたことの1つに、暴露されたウイルスの量が少ない場合には、重症化しにくいということがあります。
ハムスターでの研究ではありますが、マスクをしたハムスターとそうでないハムスターを比べると、マスクをしていた方がウイルスの暴露量が少なくなりました。そして暴露量が少ないハムスターの方が、重症化の割合が低かったのです。これは、COVID-19の前からマスクの文化のあったアジア各国と、ほとんどマスクをしない欧米との間で重症化や死亡率の差があることを説明する可能性もあります。
COVID-19の1日当たり新規感染者数が各地で過去最高を更新するなど、東京も、日本全体も“第3波”の流行に入っていると言われます。まだ特効薬もなく、期待されるワクチンも実用化には至っていません。3密、会話しながらの飲食・飲酒、カラオケ、マスクなしの会話などは感染のリスクが高いことが明らかになっています。少人数で、可能な限りマスクをつけて、感染せず・させず、重症にならずに過ごしたいですね。
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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長
学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センターでは救急の基盤をつくり、国際医療福祉大学医学部救急医学講座教授に着任。後進の育成にも力を注ぐ。