連載新型コロナと闘い続けるために

新型コロナ予防にアルコールが有効な理由 ただし飲むのは…

公開日

2020年02月28日

更新日

2020年02月28日

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2020年02月28日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年02月28日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

写真:Pixta

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が拡大し、さまざまな予防法に関する情報が出回っています。ですが、現在判明している感染経路から、一番確実な予防法は手指を清潔に保つことです。手洗いのほか、アルコール消毒も推奨されています。アルコールはなぜ有効なのでしょうか。【編集部】

ウイルスに感染するのはこんな時

いまわかっている新型コロナウイルスの主な感染経路は「接触感染」と「飛沫(ひまつ)感染」です。

接触感染とは、ウイルスなどの病原体が付着したものに触れた手指で目や鼻などの粘膜に触ることで起こります。

ウイルスは「環境表面」と呼ばれるドアノブ、階段の手すり、椅子のひじ掛け、照明のスイッチ、電車の手すりやつり革、エレベーターのボタンなどさまざまな場所に付着し、しばらくの間感染力を保っています(新型コロナウイルスに関しては「1時間程度」との情報もありますが、正式に研究で確認されてはいないようです)。そうしたものに触れた指で目や鼻の粘膜に触れてしまうと、そこからウイルスが体内に入り込み感染してしまいます。

スイッチを触る手
写真:Pixta


かゆみを感じたり違和感があったりする時、そして無意識にも、目や鼻を触ってしまう機会は多いものです。その時、手指に環境表面から付着していたウイルスが残っていたら、感染してしまうことになるのです。

感染予防に手洗いが真っ先に推奨されるのは、手指についたウイルスなどの病原体を洗い流すことで、この接触感染のリスクを減らすことができるからです。

アルコールで消毒できるのはなぜ?

とはいえ、外出先などでは頻繁に手洗いをできるものでもありません。そんなときに有効なのがアルコール消毒です。ただし、家庭や職場などでしっかりと手洗いができれば、アルコール消毒は必ずしも必要ではありません。

ネット上では「新型コロナウイルスにアルコールは効かない」という“デマ”が流れ、2月6日に厚生労働省がツイッターで「ネット上の誤った情報にご注意ください」「厚生労働省では、咳(せき)エチケットや手洗い、うがいなどと並んで、『アルコール消毒』を行っていただくよう、国民の皆さまにお願いしています」などと呼びかけました。

感染性胃腸炎の原因となるノロウイルスなど、アルコールでの消毒が難しいウイルスは、確かにあります。しかし、新型を含むコロナウイルスに、アルコール消毒は有効です。

なぜでしょうか。それは、コロナウイルスが「エンベロープウイルス」の1つだからです。

ウイルスの図
図:Pixta


図の上段がエンベロープウイルス、下段はエンベロープを持たない「ノンエンベロープウイルス」のイメージです。上段の図で水色の点線で描かれているのがエンベロープ、上下両方に共通する六角形は「カプシド」と呼ばれる“殻”、波線は遺伝物質(DNAまたはRNA)を表します。

ウイルスは、基本的に遺伝物質(コロナウイルスは一本鎖RNA)とその“入れ物”からできた粒子で、それだけでエネルギーを消費したり自己の複製をつくったりするといった活動はできません。他の生物の細胞に取り付いて中に入り込み、そこにある酵素やアミノ酸などを勝手に使って増殖、最後はその細胞を飛び出し、さらにほかの細胞に取り付き……という過程を繰り返し増えてゆきます。エンベロープは、それを持つウイルスが細胞の表面に取り付く際に重要な役割を果たし、破壊されると感染力が失われ(失活し)ます。

エンベロープは脂を主成分とし水をはじく「脂質二重膜」という膜でできています。アルコールは、膜の主成分の脂質を溶解することでウイルスの感染力を失わせることができるのです。

同じアルコールでも「メタノール」はNG

消毒には、濃度80%程度のエタノールが有効です。手洗いの後にアルコール消毒する際には、しっかりと水分をふき取り、濃度が下がらないように注意しましょう。マスクと同様、アルコールが主成分の手指消毒剤も入手しにくい状態が続いています。もし、「無水エタノール」が入手可能であれば、80%程度(エタノール4対水1)に薄めて消毒用に使うことが可能です。また、環境表面のウイルス除去にも使うことができます。ただし、ヒトの細胞膜もウイルスのエンベロープと同じ脂質二重膜ですから、アルコールの影響を受けます。専用のアルコール消毒剤には肌を保護する成分を含んでいるものが多いのですが、エタノールで代用した際には手荒れにも注意してください。

一方、同じアルコールでも「メタノール」は、誤飲した場合に死亡することがある、または刺激性が著しく大きい化学物質として規定されている「劇物」に該当し、消毒には使えません。燃料用として販売されている「アルコール」も主成分がメタノールなので誤用は避けてください。

「体内から消毒」はできない

お酒の好きな人が「体内からアルコール消毒」と言うのをよく聞きます。お酒を飲む口実にはなるかもしれませんが、実際には飲酒でウイルス感染を防ぐことはできません。前述のように、高濃度のアルコールでなければウイルスは失活しません。また、アルコールが体内の抗ウイルス免疫応答を損なうという研究結果もあります。さらに、過度の飲酒は睡眠の質を悪くすることも知られており、結果として体力の低下を招きかねません。抗ウイルス作用は期待せず、お酒はほどほどに楽しんでください。

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