連載新型コロナと闘い続けるために

「コロナ後遺症」の実態はどこまで分かってきたか

公開日

2022年01月31日

更新日

2022年01月31日

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2022年01月31日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2022年01月31日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、回復しても後遺症に苦しむ患者さんがみられるとの報告があります。感染拡大が始まってから2年がたち、後遺症についてもさまざまなことが研究から分かってきました。そうした研究の概観を、忽那賢志・大阪大学大学院医学系研究科感染制御医学講座教授が第68回日本ウイルス学会学術集会(2021年11月)で講演。その内容を一般の方向けに再構成しました*。

*医師の方向けに、より詳細な情報を提供しています。こちらからご覧ください(閲覧には会員登録が必要です)。

よくみられる後遺症の症状は

COVID-19の後遺症を、海外では「LONG COVID」と呼んでいます。日本では「後遺症」といわれることが多いのですが、厚生労働省は「遷延(せんえん)症状」との呼称を提言しています。

後遺症に関して医療関係者の中で話題になり始めたのは、COVID-19の流行が始まってから数カ月後、イタリアで感染が拡大していた頃でした。

流行初期に、イギリス国立健康研究所(National Institute for Health Research:NIHR)はLONG COVIDの症状として▽肺や心臓の恒久的な臓器障害▽集中治療後症候群(post intensive care syndrome:PICS)▽ウイルス感染後疲労症候群(post-viral fatigue syndrome)▽COVID-19急性期症状の持続――の4つを提唱しました。

その後の研究で、COVID-19では後遺症として以下のような症状がみられることが分かってきました。

もっとも頻度の高いものは「倦怠(けんたい)感」です。さらにはせき、たん、息苦しさ、胸の痛みなどの「呼吸器症状」、若い人では「嗅覚障害」「味覚障害」が多いといわれています。

少し遅れて「脱毛」や、急性期にみられなかったような記憶障害、記憶力低下、不眠、頭痛、抑うつなどの「精神神経症状」が出てきます。これらの多くはウイルス感染後疲労症候群の症状ではないかと考えられます。

重症者ほど後遺症残る割合高く

後遺症はどの程度続くのでしょうか。

慶應義塾大学呼吸器内科の福永興壱教授らが行った調査によると、倦怠感は半年後も約2割▽息苦しさ、睡眠障害、集中力低下、脱毛などは同約1割――の人で症状が残っていました。

もう少し長期的な調査もあります。最初にCOVID-19の流行が起こった中国・武漢の患者さんを1年間追跡した報告によると、少なくとも1つの後遺症の症状が残っていた人は1年後でも49%、つまり約2人に1人いたとされています。

注意していただきたいのは、この調査対象は「入院した患者さん1276人」で、3分の2以上の人は治療で酸素投与を必要とした重症度の高い集団といえることです。重症度の高い症例では、後遺症が長くみられるのだろうと考えられます。

では、軽症者を含めるとどうでしょう。国立国際医療研究センターで行われた「回復者血漿(けっしょう)療法」の研究に参加していただいた方が対象の後遺症アンケートの結果があります。この集団は約85%が軽症または無症状と、日本の患者さん全体の重症度比率に近いと思われます。この調査によると、急性期でみられた倦怠感、嗅覚障害、せき、息切れといった症状は、1年後には3~1%の人にしかみられず、ほとんどの人ではなくなっていたようです。

一方で、少し遅れて出てくる集中力低下や記憶障害、抑うつといった症状は1年たっても5~3%程度残っており、こうした症状のほうが少し長引きやすいのではないかと考えられます。

この調査で「1つ以上の症状が残っていた」人は半年後で26.3%、1年後は8.8%となっており、武漢の1年後の数字よりもかなり低くなっています。これは重症度の違いによるものと考えられます。

どういった方で後遺症が残りやすいのかも解析しています。それによると▽女性▽急性期に肺炎があった▽急性期に重症だった――人で後遺症が残りやすいようです。

海外からの報告でも同様に、女性のほうが後遺症がみられやすいとされてます。大阪府では新型コロナウイルス受診相談センターで後遺症の相談を受けており、ここでも女性からの相談が多いとのことです。急性期には男性のほうが重症化しやすいのですが、後遺症に関してはおそらく女性に出やすいということになります。

「ワクチン接種で改善」の報告も

後遺症にならないためには感染しなければよく、そのためにはやはりワクチンが有効です。それだけでなく、イギリスでの研究によるとワクチン接種を完了していた人はそうでない人と比べて28日間以上症状が続く、いわゆる後遺症のある状態の頻度が減ることが分かってきました。これはおそらく、重症度が低くなることに関連しているであろうと思われます。

後遺症が出ている人にワクチン接種をするとどうなるのかについても、イギリスから報告が出ています。900人を対象としたアンケートに、ワクチン接種によって▽56.7%が症状改善▽18.7%が悪化▽24.6%が変わりなし――と回答がありました。ただ、基本的に後遺症は時間とともに改善していきます。ですから、ワクチン接種によってよくなったのか、時間がたってよくなったのかは判断が難しいところです。

もう1つフランスの研究で、後遺症の症状がある人にワクチン接種をすると症状の改善が多かったという結果が報告されています。これは、3週間以上症状が続いている後遺症患者のうちワクチンを接種した人としていない人455人ずつの症状が、120日後までにどうなったかを調べたものです。結果として完全寛解(症状が出なくなる)率が倍になるなど、ワクチン接種群のほうが症状の軽減した割合が高かったとされています。

このように、後遺症にワクチンが有効であるという報告が少しずつ出てきてはいます。しかし、なぜ後遺症にワクチンが有効であるのかということは、まだよく分かっていません。

男性不妊の原因にも?

これまで説明してきた以外にも、広い意味での後遺症と考えられる症状がいくつか報告されています。

まずは脳や神経に対する影響です。COVID-19に感染した人とそれ以外の呼吸器感染症にかかった人、それぞれ23.6万人について神経学・精神医学的な後遺症を約半年間追跡したイギリスの研究が公表されています。それによると、脳出血、脳梗塞、精神障害、神経筋接合部障害、認知症、抑うつといった後遺症が、ほかの呼吸器感染症よりも多くなっています。脳出血や脳梗塞が多くなるのは、COVID-19で起こる凝固異常の影響が長期間続くことの現れではないかと考えられます。

「男性の生殖機能低下」という後遺症も報告されています。イランとドイツの研究で、COVID-19に感染した男性と感染していない男性を2カ月追跡調査したところ、感染した人は2カ月間、精子の量や精液の質の低下があったとされています。通常、精子は2カ月サイクルで作られますが、感染した人はそれ以降も精子の量が少ないという報告も出ています。どれくらい続くのかについてまだ十分なデータはありません。もし男性不妊の原因になりうるのであれば、かなり大きな問題であろうと思います。

後遺症、ほかの感染症でも

後遺症はCOVID-19に限って出るわけではなく、以前から新興感染症の後遺症として指摘されているものがあります。

私自身が経験したものでは、国立国際医療研究センター勤務時に診たデング熱の患者さんの中に、全体の割合としてはそれほど多くはなかったのですが感染から数カ月たった後もうつや脱毛、倦怠感が続いているという方いらっしゃいました。

エボラ出血熱に感染、回復した患者さんでも脱毛や関節の腫れなどがみられることが医学誌で報告されています。

マダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)という病気が近年、西日本を中心に広がっています。この病気についてはあまりデータがないのですが、私たちが東京で診断した事例では、後遺症として抑うつ、不眠、脱毛、倦怠感がみられました。

とはいえ、COVID-19の後遺症に関しては、症状や継続期間についての情報を提供することはできますが、今のところ患者さんにとって有効な治療法はないのが現状です。
 

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