新型コロナウイルス感染症特設サイトはこちら
連載特集

最小限の通院で治療へ がん先進医療・オンライン診療のメリット

公開日

2020年06月10日

更新日

2020年06月10日

更新履歴
閉じる

2020年06月10日

掲載しました。
D4dcb2cf91

新型コロナウイルス感染症の拡大により、PCやスマートフォンを使って診察するオンライン診療が時限的な措置として認められました。オンライン診療はがん治療の領域でも、患者、医師双方にとってさまざまなメリットがあるようです。2020年5月にオンライン診療を導入した、兵庫県立粒子線医療センター放射線科長の寺嶋千貴先生に、専門的な診療内容に特化した医療機関でどのようにオンライン診療を行っているか、またその利点・弱点などについて聞きました。

オンラインによるがん診療のメリット

初診やセカンドオピニオン受診、治療後の経過観察が可能

オンライン診療のメリットは、遠方の専門施設に直接行かなくても、専門的なセカンドオピニオンや診断を受けることができるという点です。特にがん診療では、血液検査、CT検査、MRI検査、病理検査といった客観的な検査データを見ることが不可欠ですが、顔色から健康状態を把握したり、触診や聴診を行ったりすることは、一般的な内科疾患や救急疾患ほど重要ではありません。そのため、診断が付いた後のがんのセカンドオピニオンや初診はオンライン診療向きであると考えています。

当センターで行っているオンライン診療では、一般的なオンライン会議ツールの画面共有機能を使用して、患者さん側の画面にCTやMRIの画像を表示させ、より正確にかつわかりやすく説明するよう努めています。

オンライン診療の様子
オンライン診療の様子 CT検査の結果について説明する寺嶋千貴先生(画面右上)

長距離移動に伴うリスクを回避

がん治療中の患者さんは免疫機能が低下していることが多いですから、感染予防を徹底することが重要です。がんの患者さんは居住地から離れた医療機関で治療を受ける方も多く、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどの流行時には、長距離移動による感染症のリスクに特に注意が必要となります。そのほか、移動中の事故や体調悪化のリスクを減らし、高額な交通費を節約するためにも、特に遠方にお住まいの患者さんは、オンライン診療に振り替えることによって病院までの往復回数を減らすことが望ましいと考えています。

遠方に住む家族のオンライン診療参加も

がん治療の方針を検討する際には、できるだけ多くの家族が同席し、患者さんの意思決定を助けてあげることが治療方針の決定に役立ちます。治療が進むなかで何度かインフォームドコンセント(説明と同意)を行う場合があり、そのたびに遠方のご家族に来院していただくのは難しいものです。オンライン診療であれば、遠方にお住まいのご家族も気軽に診察に参加できます。

海外にいる患者さんの診療が可能

海外にお住まいの患者さんの診療も可能になることが、大きな特徴です。オンライン診療を活用すれば、治療期間以外にわざわざ来日していただく回数を減らすことができます。

外国人の患者さんの場合は通訳が必要になることも多いのですが、従来の対面診療では、医療通訳士の日程を合わせるのが大変、電話の三者通話だと話しづらい――といったデメリットがありました。オンライン診療なら、医療通訳士がどこにいても顔を見ながら参加できる点が大きなメリットとなります。

新型コロナウイルス感染症の院内への持ち込みを抑制

我々のような専門病院では、患者さんは全国各地から来られます。診察の一部をオンライン診療に振り替えることで、各地からの受診が減り、病院が新型コロナウイルス感染を媒介してしまうリスクの低下につながると考えています。

また当センターでは、発熱や呼吸器症状のある患者さんが直接来院された場合、新型コロナウイルス感染の可能性を考えて駐車場で車内待機をしていただき、貸し出し用のタブレットを使ったセンター内オンライン診療を行っています。がんの患者さんの時間を少しでも無駄にしないように、駐車場の車内と診察室を結んだオンライン診療も有用です。

リラックスした状態で診察を受けられる

診察のときだけ血圧が高くなる「白衣高血圧」という言葉があるように、病院に来ると緊張する患者さんはよく見受けられます。自宅でオンライン診察に臨む患者さんは、対面診療の時よりもリラックスして、楽に診療を受けられているように感じます。慣れた環境で緊張せずに話を聴くことで、説明内容が頭に入りやすく、感情的な動揺も抑えられ、よりご本人にとって良い判断ができるようになるのではないかと思います。

また、どうしても診察までの待ち時間は長くなりがちですが、病院で何時間も待つことに比べれば、ご自宅で待っていただいている方が、ストレスやいらいらが少なく、時間も無駄にしなくて済みます。

新型コロナウイルス感染症流行下でオンライン診療に着目

では、がん診療の現場で、オンライン診療はどのように行われているでしょうか。私たち兵庫県立粒子線医療センターの取り組みを例に説明しましょう。

当センターは、放射線治療のひとつである粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療)という先進医療(一部は保険診療)に特化した、がん治療の専門病院です。新型コロナウイルス感染症の流行を受けて、遠方にお住まいで来院が難しい方にも素早く、安全に治療法の相談をしていただきたいと考え、2020年5月にオンライン診療を開始しました。

診療の対象となるのは、すでにがんの診断が確定した患者さんです。次のような場合に、Web会議システムを使ったオンライン診療を行っています。

  • 病院からの紹介による初診
  • セカンドオピニオン
  • 粒子線治療後の経過観察

兵庫県立粒子線医療センターにおける活用事例

初診のオンライン診療

粒子線治療を行うには、治療前検査によって適応を慎重に判断し、治療を始める時期を検討する必要があります。従来はスケジュールを決めるだけでも対面診察が必要でしたが、今は患者さんの希望があればオンライン診療に振り替えています。

実際に当センターでは、遠方から新幹線で来院予定だった患者さんにオンライン診療で対応したケースがあります。小さなお子さんや介護が必要なご家族のいらっしゃる患者さんでは、オンライン診療を行うことで、受診日の子供さんの預け先をさがしたり介護の依頼を行ったりといった手間をとらずにすみました。また、公共交通機関を使った長時間の通院をなくすことで、新型コロナウイルスへの感染や院内感染のリスクも避けられて、患者さんと病院の双方にメリットがありました。

セカンドオピニオンのオンライン診療

がんの治療方針を決定するには、主治医以外の医師によるセカンドオピニオンを聞くことも重要です。素早く気軽にセカンドオピニオンを受けるためには、オンライン診療が適していると考えています。

先日、セカンドオピニオンの患者さんにオンライン診療で対応しました。患者さんは初めてお会いする方ですが、画面上とはいえ医師や看護師の顔を見ながら説明を受けたり質問したりすることで、より安心してセカンドオピニオンを聞いていただけたのではないかと思います。セカンドオピニオンの次は当センターへ直接入院していただき、速やかに粒子線治療を開始することができました。

治療後の経過観察中のオンライン診療

当センターは粒子線治療に特化した病院であること、遠隔地からの患者さんが多いことから、治療後の定期的な検査は紹介元の病院で受け、そのデータを送付していただき、こちらで診断を行った上で必要時に当センターを受診していただいています。しかし、オンライン診療を導入すれば、当センターのような専門医師の診察を気軽に受けることができ、患者さんの安心につながるのではないかと考えています。

皮膚症状などの副作用が出た場合は、緊急処置が必要になることがありますが、皮膚ならカメラに映せば視診が可能です。実際に、オンライン診療で皮膚炎を確認し、地元の病院でケアを受けられるよう適切に対処できたケースがあります。

オンライン診療普及で治療の選択肢を広げられる社会へ

オンライン診療は、全体としてシステムの確立がまだ不十分です。課題も多く、例えば▽身体診察(血圧測定、呼吸状態の把握、触診や聴診)ができない▽CTやMRIなどの検査をその場で追加できない▽服薬状況などの情報が不足しやすい▽細かなニュアンスが伝わりにくい――ことが挙げられます。また、テレビ電話機能だけのツールでは、画像データを示しながら説明することが難しいでしょう。患者さんにとっては、オンライン診療だけでは親しみや安心を感じにくいかもしれません。

しかし、当センターのように専門的な医療に特化した病院では、オンライン診療が適している場合も多いと思います。

がん以外の病気でも、患者さんの通院リスクを減らし、交通にかかる時間や診察の待ち時間などを短縮させられる可能性があります。

オンライン診療が実現可能な時代になった今、

  • 患者さんの肉体的、精神的負担を減らす
  • 貴重な時間を病院への通院や診察待ち時間で無駄にしない
  • 通院途中や病院で病気をもらわない
  • 物理的な距離を排除し、手軽に様々な意見を聞くことで治療の選択肢を広げる

このような社会へと変わっていくことを期待しています。

特集の連載一覧