連載新型コロナと闘い続けるために

緊急事態宣言解除の理由と再拡大防止策とは―尾身茂会長インタビュー【中編】

公開日

2021年04月16日

更新日

2021年04月16日

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2021年04月16日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年04月16日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

年明けに出された緊急事態宣言はいくつかの地域で延長されたものの、3月中に全都道府県で解除されました。宣言の解除で少し気が楽になった方もいる一方で、緊急事態宣言の解除による、感染の再拡大に不安を覚えている方もいるのではないでしょうか。そこで重要となるのが、今後の感染再拡大防止策です。本記事では、緊急事態宣言が解除された理由と今後の見通しについて、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下、分科会)会長である尾身茂先生にお話しいただきました。

緊急事態宣言が解除された理由とは

2021年1月に2度目の緊急事態宣言が出され、3月21日をもって全都道府県で解除となりました(都道府県独自の対応は除く)。この緊急事態宣言の解除には、疑問や危機感を覚えた方もいらっしゃるのではないかと思います。今回、緊急事態宣言が解除されたのには、大きく2つの理由があります。

解除の理由1:緊急事態宣言の前提は「抑制的な実施」

理由の1つ目が「緊急事態宣言は抑制的に実施すべきもの」ということです。緊急事態宣言を発出すると、一定の私権制限が生じます。当然、私権の制限(緊急事態宣言)は最小限にとどめるべきであるということが大前提となっています。

解除の理由2:医療提供体制の安定

その前提のうえで解除の指標となるのが感染状況のステージ分類であり、今回、宣言解除となった大きな理由の2つ目が、「目標とすべき指標に達していたから」ということになります。

感染状況のステージ分類

緊急事態宣言を解除すべきかどうか判断するうえで特に重要となるのが、医療提供体制の状況です。たとえ感染者数が減少している状態であっても、医療提供体制が整う前に解除をしてしまえば、感染が再拡大した際などにすぐ医療提供体制が機能不全に陥る可能性が高まります。こうした観点から、ステージIIIの状態になっていても、医療提供体制が安定していない場合には期間を延長するという判断を行っていました。

しかし、最終的には全ての都道府県で医療提供体制が整ったと判断し、宣言解除に至ったのです。

感染の再拡大を防ぐための対策を強化すべき時期

これら2つの理由から、政府が緊急事態宣言を全都道府県で解除するという方針を提示した際、解除に反対する専門家はいませんでした。しかし、その一方で強調したのが感染の再拡大(リバウンド)に対する懸念であり、その対策強化の必要性です。

特に首都圏の感染の特徴に「感染源あるいはクラスターの発生場所が不明のケースが多い」ということが挙げられます。感染源が分からないとクラスター感染を封じ込めることができず、知らぬ間に感染が広がってしまうということです。

つまり、本質的な感染拡大の解決には至っておらず、いつ感染が再拡大してもおかしくない状況であるといえます。これでは、何度も感染者数の増加と緊急事態宣言などの対応を繰り返すばかりになってしまいます。国として力を注ぐべきは、感染の再拡大への対策強化という段階にきているといえるでしょう。

感染再拡大防止のために重要な3つの柱

政府は、感染の再拡大を防ぐための対策として5本の柱を挙げていますが、私が特に重要だと考える3つの柱は以下です。

柱その1:感染スピードの加速に備えた医療提供体制の強化

柱その2:感染再拡大の予兆探知のための戦略的な検査の実施

柱その3:感染再拡大の予兆が見られた際の迅速な対応(まん延防止等重点措置の活用)

医療提供体制の強化

もっとも大切な柱が、今後感染スピードが速まった場合でもそれに耐えうるだけの医療提供体制を整えておくことです。いきなり病床数を増やすことは現実的には難しいですが、現在あるリソースを最大限活用できるような役割分担を行ったり、公共施設の活用などによって宿泊療養施設を拡充したりすることで、次の感染拡大に備えておく必要があります。

戦略的な検査の実施

加えて、感染再拡大の予兆を探知するため、戦略的な検査を実施していく必要があります。無症状者が気付かぬうちに感染を広めてしまうということからも、やはり感染リスクが高いとされる集団・場所に対して重点的にPCR検査を実施し、感染を封じ込める必要があります。それと同時に重要なのが、後ろ向き調査(感染源不明の場合に、それを推定するために陽性者の行動歴などを感染前までさかのぼって調べる調査)です。

後ろ向き調査は調査対象となる期間も長いため、より人員・労力が必要になりますが、見えない感染源を特定していくためには必要不可欠であるといえます。

予兆への迅速な対応

3つ目の柱が、まん延防止等重点措置などを含む、感染再拡大の予兆がみられた場合の迅速な対応です。では、まん防とは一体どのような措置なのでしょうか。緊急事態宣言と比較すると以下のような違いがあります。

緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の比較

また、都道府県がまん防によって実施できる具体的な施策は以下のとおりです。

  • 事業者への時短要請
  • 住民に対する特定の区域や業態への不必要な出入りの自粛要請
  • イベントの開催制限

ステージIIIの段階でこうした対応を実施し、経済的な影響なども大きい緊急事態宣言の発出を避けながら感染の拡大を抑え込むことが目的です。

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