全国で感染が急拡大している新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)。医療機関の病床逼迫を踏まえ、2021年8月には政府が「重症者以外は原則自宅療養」との方針転換を発表し、人々から不安や疑問の声が上がりました。自宅療養者のフォローアップは主に各自治体や地域の医療機関が担います。たとえば神奈川県では、地域が一体となって自宅療養者をサポートする体制を早くから構築してきました。同県はどのように地域の方々をサポートしているのでしょうか。横須賀市で地域医療を支える磯崎哲男先生(小磯診療所理事長)に伺いました。
神奈川県庁から県内の各市町村に向けて2021年3月に連絡がありました。「自宅療養者のうち悪化するリスクがある方のサポートを24時間体制で行う地域療養神奈川モデルを構築する」というものです。県からはサポート体制の原案を提示してもらい、各郡市で実現可能な具体策を検討しました。
体制を構築する最大の目的は、悪化している人を早めに見つけ出し、できる限り早期に対応することです。従来は保健所(行政)が中心となり自宅療養者のフォローアップを行っていました。しかし、それでは陽性者数が爆発的に増加したときに対応しきれません。そこで地域の医療機関や訪問看護ステーションと連携して、情報共有と見守り、入院調整を即座に行える体制をつくることにしたのです。
具体的には、自宅療養者のうち悪化リスクのある方・悪化が疑われる方を対象に、地域の看護師が毎日電話をかけて健康観察を行います。必要に応じて自宅訪問して対面で症状を確認することも。また、地域医師会の医師は看護師からの相談を受け、オンライン診療や検査を実施。入院が必要な場合にはすぐに入院調整を行います。
地域ごとに人口や医療資源の充足度が異なるため、各郡市でそれぞれの状況に応じた仕組みを考案しました。横須賀市は1日を3つの時間帯に分け、昼間は地域の診療所、準夜帯(夕方から深夜まで)は救急医療センターが担当し、深夜帯(深夜から翌朝まで)は協力病院による輪番制という形を採用しています。
フォローアップの対象となるのは、COVID-19と診断された軽症の方の中ですぐの入院は必要ないけれど悪化のリスクがある方です。たとえば、重症度を測る指標の1つである「酸素飽和度(SpO2)」の軽度な低下が見られる方や高齢の方、発熱がある方などが当てはまります。自宅療養になった方全てを見るのではなく、注意が必要な方をサポートしています。
どのくらいの方が対象になっているか実績を見てみると、たとえば藤沢市では2021年3月23日から8月16日までの147日間では▽対応者数が680人▽看護師訪問118件▽オンライン診療273件▽医師訪問0件▽入院搬送83人▽療養終了475人――でした。そのほかの市の実績は以下の図表をご覧ください。
参考:https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/covid19/facilities/model.html
実際に当院で対応した例では、電話を介したオンライン診療と薬の処方、あるいは入院が必要な方を保健所に引き継いで入院調整を行いました。また、現場で看護師さんが判断した内容を確認したり、相談を受けたりすることもあります。
当院は在宅医療(訪問診療)を行っており、普段から電話やiPadなどのタブレット型端末を介して遠隔で看護師の相談を受けたり、薬を処方したりする機会も多いです。そのため今回のフォローアップ体制にもすぐ慣れました。抵抗感は少なかったですね。
この体制を維持するためには、参画する医療機関の負担をできるだけ軽くすることも重要です。そのため、問題があればなるべく昼間のうちに解決し、深夜帯をフォローする医療者の負担を軽減するよう努めています。
全国で進む新型コロナのワクチン接種。当院でも1日に100人ほどの方のワクチン接種に対応しています(2021年7月末時点)。外来診療で患者さんによく聞かれるのは「私はワクチン打っても大丈夫か」という質問です。そのようなときは担当医として、基礎疾患がある人ほど新型コロナワクチンを接種したほうがよいことと、初めて打つワクチンの副反応に関して「100%大丈夫」とは保証できないことを伝えています。
厚生労働省のQ&Aでは、新型コロナワクチンを打てない人の条件として▽明らかに発熱している(37.5℃以上。それを下回る場合も平時の体熱を鑑みて発熱と判断することがある)▽重い急性疾患にかかっている▽ワクチンの成分に対してアナフィラキシーなど重度の過敏症の既往歴がある▽そのほか、予防接種を受けることが不適当な状態――が挙げられています。基礎疾患があるからといってワクチン接種を控える必要はありません。
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