世界中で混乱を巻き起こしている新型コロナウイルス感染症。2021年2月にはワクチンの先行接種が始まり、ようやく収束の兆しが見えてきました。このようななかで、全国の病院は感染対策を含めてさまざまな形で変革し、日々の診療や新型コロナウイルス感染症患者さんの対応に従事しています。そのような例の1つが、病院の敷地内に5床の感染症病棟を設置し、陽性と診断された患者さんの対応にあたる、埼玉県ふじみ野市の富家病院です。同院 理事長の富家隆樹先生に、新型コロナウイルス感染症の影響により病院がどのように変化しているのか、実際の取り組みを元にお話を伺います。
※この記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム(https://manseiki.com/)」によるものです。
「新型コロナは風邪やインフルエンザのようなものだ」と言う人がいますが、実際に治療を経験して思うのは、「この病気を軽視してはいけない」ということです。実際に対応したケースでは軽症・中等症Ⅰの方でも胸部CTを撮るとほぼ全例に肺炎像が見られました。また、10歳台の若い方でも徐脈性不整脈(正常な心拍数は60〜100であるところ、1分間の心拍数が60回未満になった状態)を起こす例がありました。退院してPCR検査が陰性になっても味覚障害が残っている方もいます。このような多様な症状や後遺症は、風邪やインフルエンザには見られません。今回の経験を通して、新型コロナウイルス感染症は風邪やインフルエンザとは異なる、たちの悪い病気だと実感しました。
人の出入りが多い病院のような環境で感染を制御するためには、出入口を1つにするなどの工夫が必要です。当院も元々複数あった出入口を1つにして、患者さんやご家族、職員、業者の人など全てその出入口を使っていただくようにしました。
出入口では体温測定、手指の消毒を行い、院内ではマスクを着用していただくよう注意喚起を促しています。業者の人が物を納品される際には、基本的には全て玄関で職員が納品物を受け取るようにして、院内に入る場合には全員に抗原検査を受けていただきます。また、定期的に当院に出入りする美容師や歯科医師などにも、院内に入る前に抗原検査を受けていただくようにしました。
感染経路の遮断を目的として、多くの病院などでは入院患者さんへの面会を制限しているところがあります。当院では2020年3月1日より入院患者さんへの面会を制限しています。そのなかで、1回目の緊急事態宣言が解除された直後の5月末と、感染状況が落ち着いていた11月末には一時的に面会を可能にしました。その際には、抗原検査で陰性を確認したうえで15分間の面会が可能というかなり厳しい制限を設けていました。
ただ、入院患者さんの顔を見たいというご家族は多くいらっしゃいます。そのため私たちは「オンライン面会」を拡充し、院内のタブレット端末を使って入院患者さんと面会していただくという取り組みを行っています。
クラスターの発生を防ぎ、通常の診療や新型コロナウイルス感染症患者さんの対応を円滑に行うためには、陽性者の発生後すぐに報告が上がる管理体制と、感染が疑われるケースを含めてPCR検査を徹底的に行うことが重要です。
このような考えに基づき、当院では発熱症状のある職員がいた場合、すぐに私のところへ報告が来る体制になっており、すぐさまPCR検査を実施しています。また、最近の例では、グループ内の施設利用者が別で通っているデイサービスにおいて新型コロナウイルス感染症の陽性者が確認されたことを受けて、その利用者と、その方と接触したと思われる職員全員にPCR検査を行いました。そして現在は、全職員に月2回の抗原検査もしくはPCR検査を義務付けています。
新型コロナウイルス感染症の治療は、まず急性期病棟のある病院や救急医療に対応できる病院等で行われることが多いのですが、埼玉県内で対応病床が逼迫するなか、当院においても軽症・中等症の患者さんを受け入れることにしました。2020年10月より駐車場にプレハブのユニットハウスを設置し、個室5床の感染症病棟で陽性の患者さんに対応しています。元々は病院内で感染症病棟のベッドを確保していたのですが、ゾーニング(清潔な区域とウイルスに汚染されている区域を分けること)の面で完全に動線を別にすることが困難だと分かり、感染症病棟を別に建てることにしたのです。
開設当初は最低限の設備でしたが、現在は水道やエアコン、酸素配管など必要な設備を用意し、十分な治療を行える環境が整っています。これまでに新型コロナウィルス感染症の軽症から中等症Ⅰとされる30名以上の患者さんを受け入れています(2021年2月時点)。
なお、通常の入院患者さんについては全てのケースで入院時PCR検査をドライブスルーで実施し、陰性を確認後に病棟へ入っていただくようにしています。
ニュースなどで、新型コロナウイルス感染症の患者さんを対応したスタッフに対する差別の話を聞くと非常に悲しくなります。このような状況で日々頑張ってくれている職員、そして感染症病棟で患者さんの対応にあたる職員には心から本当に感謝しています。
そのことを職員の皆に伝えるために、私は「感染病棟で働く職員は私たちの“宝”だ」という話をよくしています。理事長として、感染症病棟で働く職員の大切さや彼らが病院にもたらす恩恵について情報をしっかりと共有することで、知識や理解を深め、皆が気持ちよく働ける環境を作りたいと思っています。
2021年2月17日に日本にワクチンが到着しました。2回目の緊急事態宣言の解除も3月に迫っています。ようやく、コロナ禍の収束への道筋が見えてきております。私たち医療従事者は業務においても私生活においても大変な忍耐と張り詰めた緊張を強いられてきました。しかしやっとその終わりが見えてきた今、希望を持って、もう少しだけ頑張りましょう。院内、施設内だけではなく国内における感染制御を成功させるために、「できることはすべてやる」をこれからも進めていきます。
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