患者さんが病院を「選ぶ」時代になったといわれる中、医療現場は臨床結果のデータ化を避けて通ることはできません。では、どのようにしてその結果(アウトカム)をデータ化し、公表していけばよいのでしょうか。今回は済生会熊本病院院長の中尾浩一先生に、急性期病院である同院が行うアウトカム評価の方法や、慢性期病院との連携におけるアウトカム評価の重要性について伺います。
※この記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。
近年、患者さんが主体的に治療を受ける施設を選ぶことができるよう、医療の質を評価できる情報の開示が求められています。医療の質は、1.構造(Structure)2.過程(Process)3.結果(Outcome)――の3つの側面から評価されることが一般的で、このうちもっとも分かりやすいのは3.結果でしょう。
当院は、患者さんの安全性の担保、高品質な医療提供、そしてこれらを改善するための仕組みを施設が整備しているかを評価するJCI(Joint Commission International:国際医療機能評価機関)の認証施設です。全日本病院協会などの国内評価機構と同様に、第三者から病院管理の成果(アウトカム)に関する客観的な評価を受け、医療サービスの質向上や効率的な病院経営、継続した改善作業を行うことを使命にしています。
客観的データというと、日本ではDPCデータ*がその代表的存在といえるでしょう。また、当院では独自に医療安全管理・品質管理評価を行っていますが、データ収集と分析は臨床現場と切り離された専門部署の担当者が行うよう徹底しています。
*DPCデータ:全国の病院から厚生労働省へ提出されている患者情報。患者情報は匿名化されており、データの算出方法は統一されている。
写真:PIXTA
当院では患者満足度、死亡率、平均在院日数、再入院率などのデータを収集・分析しています。
患者満足度に関しては看護部が担当しており、具体的な経験についての質問に対し「はい/いいえ」で答えていただきスコア化しています。たとえば「主治医はあなたの病室にしばしば訪れましたか?」というような質問を通し要素ごとに評価をして平均値や中央値を算出し、他施設の結果と比較して数値が高ければ、高い患者満足度につながるという考え方です。具体的な質問をすることで、患者さんの回答も直観的ではなく事実ベースになります。このようなシステムをPX(Patient Experience)と呼びます。
さらに、主にアメリカで採用されているNPS(Net Promoter Score)も活用しています。「あなたは当院を友人や同僚にすすめる可能性がどのくらいありますか?」という質問をして、10点満点で評価を受けるというものです。6点以下は批判者、7~8点で中立者、そして9~10点をつけてもらって初めて推奨者と分類されます。推奨者(%)から批判者(%)を引いた数字がNPSであり、当院ではそれぞれの割合の推移から病院としての評価の流れをみています。
在院日数については、クリニカルパスを活用することで、変動や延長が生じた際の原因を定期的に話し合い、その解決策を練っています。クリニカルパスというのは、工業の業界で使われるクリティカルパスウェイになぞらえたもので、治療や検査の標準的な経過が把握できるよう、入院中の予定をスケジュール表のようにまとめた計画書のことを指します。いわゆる患者管理の工程表のようなもので、医療はいくつかの分野に分割されており、評価も分野ごとに行います。
当院では、各職員の責任の範囲を明確にして、アウトカム評価を自分事として捉えることができるサイズ感でクリニカルパスを行うことを大切にしています。たとえば、手術室と病棟を兼務するスタッフがいないのに、手術室の責任者を病棟スタッフにしても意味がないですよね。全体像の把握は必要ですが、あくまで責任は自分の担当分野で担うことが重要です。手術室から病棟へ移る際の引継ぎ時は担当者が代わることで情報が一度途切れてしまいますから、特に注意しなくてはなりません。JCIから審査を受ける際も、引継ぎ時の対応は大きな評価ポイントとなっています。そのため、私たち人間は間違いを犯す生き物だということを前提として、ではどこで間違うのか、どうすれば間違いを防ぐことができるのかということを検討するようにしています。
施設内での測定と評価を常に行い、施設を効率的かつ健全に運営するための仕組みは、一般企業に勤めている方にとっては染みついているかもしれませんが、このような「当たり前」が、まだまだ医療界では浸透していません。どうしても医師に権限が集中しがちです。ただ、医師といっても全ての領域におけるプロフェッショナルではないですから、集団的な英知を結集することでミスを減らしていきたいと考えています。
当院は、多くの診療科を抱える病院ではありません。非常に狭い領域の、それも急性期に軸を置く「不完全な存在」です。当院が補いきれない分野においては、地域連携が生命線となります。連携をおろそかにしないということは、私たちの共通認識だと感じています。
熊本エリアにはさまざまな役割を担う病院が多数あります。各病院の強みを集結させて地域医療を担っていくためにも、お互いを理解することが必要です。その意味では、当院のデータや、そこから導かれたアウトカム評価が、客観的指標として地域の皆さまにご判断いただくための材料になることを願っています。連携においては、顔が見える以上に、情報と意見を交換することが大切ではないでしょうか。
医師の世界では、大学医局や関連病院といった横のつながりが存在します。こうした従来のつながりは地域の患者さんに医療を届けるために必要不可欠ですが、今後は連携の仕方をさらに進化させていくことが重要になるでしょう。もちろん一足飛びにはいきませんが、当院での取り組みが地域にとってよい刺激となるようにアウトカム評価を継続していきたいと考えています。
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