連載慢性期医療の今、未来

外国人労働者の現状とは?―実際に中国から来日して働く看護師の思い

公開日

2021年04月15日

更新日

2021年04月15日

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2021年04月15日

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少子高齢化と人口減少が進む日本で、年々増加する外国人労働者。その数は約166万人(2019年)にのぼり、さまざまな分野で人材不足を解消する手立ての1つとして重宝されています。そのようななか、埼玉県ふじみ野市にある富家病院では50人以上の外国人スタッフが医療・介護の現場で活躍中です(2021年3月時点)。外国人労働者の現状と、2016年に中国四川省から来日して同院に看護師として入職して活躍する(しん)樹敏(じゅびん)さんに現在の思いを伺いました。

※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム(https://manseiki.com/)」です。

外国から来日して働く人は増えている?

日本で働く外国人労働者の数は年々増え続けています。厚生労働省に届出*されている外国人労働者はおよそ166万人(2019年)。国籍としては中国がもっとも多く、およそ42万人(全体の約25%)です。続いてベトナムはおよそ40万人(約24%)、フィリピンはおよそ18万人(約11%)となっています。特に前年よりも数が増えているのがベトナム、インドネシア、ネパールです。

外国人労働者が増加している背景には、技能実習制度の活用により技能実習生の受入れが進んでいることや、政府が推進する高度外国人財や留学生の受け入れが進んでいることなどがあるようです。

*2006年以降、雇用対策法に基づき、全ての事業者に対して外国人の雇用と離職に際してその方の情報や在留資格等を確認し、厚生労働大臣(ハローワーク)へ届け出ることが義務付けられている。

なぜ日本で看護師になろうと思ったのか

私が幼かった頃、祖父ががんを患ってしまいました。当時、中国では家族を自宅で看取ることが多く、私たちも最期まで自宅でお世話をしていたのですが、末期がんだったこともあり、祖父がつらそうにする姿を目の当たりにしました。自分たちに看護・介護の知識がなかったので褥瘡(じょくそう)*(いわゆる床ずれ)ができてしまったことを覚えています。苦しそうな祖父を見てつらく、「自分にもう少し専門的な知識があれば――」と本当に悔しく思いました。

それからも親戚の中で病気になる人がいて、自分が何もできないことがとても苦しかった。幼少期からのそんな思いが積み重なり、大学の進路選択で「看護師になる」と決めたのです。

両親が仕事の関係でいろいろな場所に住んでいたので、子どもながらに新しい世界を見るのが楽しかった記憶があります。また、12歳くらいから寮生活をしていて、その頃からずっと海外に行くのを楽しみにしていました。

寮生活をしていた頃の沈樹敏さん(写真中央)
寮生活をしていた頃の沈樹敏さん(写真中央)

 

日本人の友人からたくさんの話を聞き、「きれいな国だよ」と教えてもらいました。そのため海外で働こうと思ったとき、日本という選択肢が自然と頭に浮かんできましたね。その後、人材支援のプロジェクトを通じて日本の先進的な医療技術や医療制度のことを知り、「日本で看護師として働きたい」と思ったのです。

*褥瘡:寝たきりの状態が続くことにより体重で圧迫されている部分の血流が悪化し、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができること

日本で看護師として働くまでの道のり

中国人が日本で看護師として働くためには、大きく3つのステップがあります。

1つ目のステップは、中国で看護師の資格を取ること。そのための方法は2通りあります。専門学校で3年間勉強して(最後の1年は実習)卒業後に国家試験に合格するか、4年制の大学で勉強して(同じく最後の1年は実習)卒業後に国家試験に合格するかです。次に、日本語能力試験のN1(もっとも難しいレベル)に合格し、最後は日本での看護師資格を取得する必要があります。

日本語能力試験N1に合格しなければ、日本の看護師国家試験の受験資格はもらえません。私の場合、大学4年から日本語の勉強を始めて、大学卒業後に日本に来てから1年間集中して勉強しました。その後N1を取得し、日本でアルバイトをしてたくさんの人と交流したことで、会話の能力が上達したと思います。また、そのなかで、日本にどのような習慣があるのか、何が礼儀とされているのかという日本の文化を知ることができましたね。

日本で働くうえで苦労したこと

外国人が日本で働くうえで一番苦労するのは、やはり「言葉」です。私の場合は話すよりも聞き取るほうが得意です。相手の話している意味が分かったとしても、うまく返答できないときはもどかしく、申し訳なく感じることがあります。医療の現場で専門用語が分からないときや薬剤のカタカナが覚えられないときも困ります。医師への報告でうまく伝えられないことがあり、非常に落ち込みました。しかし、周囲の人たちはとても優しく、単語だけでもある程度理解してくれることがあります。そのように優しくサポートしてもらえたときは非常に嬉しく、ありがたいですね。

富家病院には外国人スタッフが50人ほどいます(2021年3月時点)。中国、ベトナム、フィリピンなどさまざまな国籍のスタッフが働いており、言葉の面で困ったときには同じ国の先輩に相談してサポートしてもらうこともあります。同じ境遇の人たちに相談できるのは心強いですね。

日本で看護師として働くやりがいや喜び

喜びを感じるのは、入院時につらそうだった患者さんに笑顔が戻ったり、ADL(日常生活動作)が回復して元気になって退院されたりするときですね。「歩いて帰れるのが嬉しい」という言葉をもらうときには感動します。また、患者さんが退院される日やお誕生日などにはメッセージを書いて贈ったり、写真を一緒に撮ったりするのですが、そのときには患者さんの喜びを感じて、自分もとても嬉しくなります。いつも明るく挨拶するように心がけていて、患者さんたちから「元気だね」「朝からパワーをもらいましたよ」などと言ってもらえるのが嬉しいです。

日本で看護師として働くやりがいや喜び

看護副主任への抜擢で活躍の場が広がった

2019年6月に、看護副主任を任命されました。それまでは「きちんと皆の役に立てているだろうか」と心配していた部分があり、お話をいただいたときには少しほっとしましたね。ただ、嬉しい反面「看護副主任という責任ある役割を全うできるのか」という不安もありました。それでも先輩や周りの人たちがいろいろと相談に乗ってくださり、サポートしてくださったおかげで乗り越えることができました。

業務内容として変わったのは、看護師としての仕事に加えて、主任(師長)が不在のときに病棟の人員配置などの管理業務を任されるようになったことです。病棟全体を見る役目があるため、責任を感じながら日々の業務に向き合っています。

今の目標は、看護師特定行為研修*を無事に終わらせることです。そして看護師としてレベルアップしたいと思います。その先のことは実はまだ明確には決めていません。今は目の前のことに一生懸命取り組みたいという気持ちで日々を過ごしています。

*看護師特定行為研修:看護師特定行為研修制度とは、本来医師しか行えない医療行為を、医師の手順書に基づき実施できる看護師を養成する国の研修制度。

*日本慢性期医療協会の看護師特定行為研修についてはこちらをご覧ください。

 

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