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連載慢性期医療の今、未来

自粛生活の影響により「フレイル」が増加?―予防と対策のためにできること

公開日

2021年02月17日

更新日

2021年02月17日

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2021年02月17日

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新型コロナウイルスの感染拡大で2020年4月から約1カ月半にわたり緊急事態宣言が出され、多くの人が外出などを自粛して過ごしました。その影響として現れたものの1つが、身体活動時間の減少です。高齢の方を対象とした調査では、感染拡大の前後で身体活動時間が約3割減ったという結果が出ました。外出の自粛やリモートワークの導入などで、以前よりも体を動かす時間が減ったと感じている方も多いのではないでしょうか。宣言解除後の現在も人々の活動はコロナ発生以前のレベルに戻らないまま、2021年に突入。東京、大阪をはじめとする大都市圏では2度目の宣言が現在も継続中です。身体活動時間の減少は要介護の最大の要因となる「フレイル」が助長される可能性があり、予防・対策が急務となっています。人生100年時代といわれる現代、フレイルにならず健康的な生活を送るためには何が必要なのでしょうか。東京都健康長寿医療センター理事長の鳥羽研二先生にお話を伺いました。

体の問題だけではない「フレイル」

フレイルとは、「加齢と慢性疾患が積み重なることで脆弱になり、病気などの外的なストレスによって生活自立度が損なわれやすくなった状態」、すなわち「健康」と「要介護」の中間的な状態です。健康な方であれば、病気になっても療養によって元の状態まで回復しますが、フレイルの方の場合、病気(感染症など)、手術、けが(転倒など)がきっかけとなり、元の生活機能を維持することが困難になってしまうのです。

75歳以上の方が要介護となる原因の1位はフレイルです。加齢に伴う衰えや慢性疾患がベースとなり、そこへ運動不足や心の病気、社会的な関わりの減少などさまざまな要素が重なることでフレイルを引き起こし、介護の必要な状態にまで進行してしまう、ということです。

全国8都府県在住の高齢の方(65~84歳)1600人を対象にした調査によると、新型コロナウイルス感染症拡大の前後で、1週間あたりの身体活動時間はおよそ60分(約3割)も減少していました。外出の自粛などにより運動が継続できず、身体活動量が減少していたのです。

フレイルというと、身体的フレイル(骨格筋などの運動器が衰える)のイメージが強いかもしれません。ところが、そのほかにも▽精神的フレイル(精神的にもろくなる)▽社会的フレイル(社会との接点が希薄になる)▽認知的フレイル(身体的フレイルと認知機能障害が共存している状態)▽オーラルフレイル(咀嚼(そしゃく)嚥下(えんげ)などの口腔機能が低下する)▽排泄面のフレイル(排泄機能の衰え)▽感覚器官のフレイル(目、耳、鼻、舌、皮膚などの感覚が弱くなる)――など、いくつかの種類があります。

フレイルの具体例としては、以下が挙げられます。

【身体的フレイル】

  • 牛乳の紙パックが開けにくい
  • 青信号に変わった直後からでないと横断歩道を渡れない気がする
  • 疲れやすく、元気が出ないことがある
  • 食が細くなった、または痩せてきた

【精神的フレイル】

  • 気分が沈み込むことがある
  • 寝付きが悪い、または夜目覚める

【認知的フレイル】

  • 物忘れが気になる
  • しまい忘れが増えた

【社会的フレイル】

  • 外出することが少なくなった
  • 友人との交流が減った
素材:PIXTA
素材:PIXTA

 

フレイルはさまざまなきっかけで起こります。たとえば▽階段から転落して骨折し、活動量が減ることで身体的・社会的フレイルに陥る▽パートナーとの死別がきっかけで元気がなくなり精神的フレイルになる▽仲のよかった近所の友人を亡くしたことで家に閉じこもるようになり、社会的フレイルにつながる――といった多様なケースがあります。また、社会的フレイルは地震などの震災が発生した際、顕著に現れます。自宅を失い仮設住宅に移ったことで、それまで慣れ親しんでいた友人やコミュニティと離れ、外出や人との会話といった社会的なつながりが希薄になるのです。

フレイルの予防・対策に必要なこと

適切な介入・ケアによる改善の可能性

脳卒中(脳梗塞(こうそく)、脳出血、くも膜下出血)、糖尿病、腎臓病、心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、難聴、視力障害といったさまざまな病気がフレイルを加速させるため、それらの慢性疾患を予防・治療することがフレイル予防への第一歩といえるでしょう。

フレイルは、適切な介入・ケアにより状態の改善が期待できます。その方法として運動、あるいは運動と栄養管理の併用があります。介入のタイミングは早ければ早いほどよいことも分かっています。ご自身や周りの方が、牛乳パックが開けにくい、食が細くなった、寝付きが悪い、友人との交流が減ったといった状態の変化に気付いたときには、「年のせい」と判断せずに、フレイルの可能性を考慮し、運動や栄養管理などで状態の改善を試みることをおすすめします。相談先は老年科、フレイル外来などがよいでしょう。また、75歳以上の方を対象にした「フレイル健診」を活用するのもよいと思います。フレイル健診では、高齢の方の特性に合わせた質問表を使い、健康状態を総合的に把握します。

運動の効果は?

高齢の方でも、筋力トレーニングを行うことで歩行機能やバランスを改善できます。定期的な運動を継続することで、フレイルの表現型である頻尿、視力低下、不眠、関節痛などを減らせることが分かっています。運動の内容としては、柔軟体操に加え、ラジオ体操をハードにしたような全身運動を30分ほど、週に1〜2回行うのがおすすめです。

もっとも避けるべきこと

フレイル予防の観点でもっとも避けたいのは、転倒・転落による骨折によって寝たきりなることや、頭を打ち血腫(血の塊)ができてしまうことです。

転倒・転落を防ぐためには筋力を保つ、白内障など感覚器官の障害がある場合には治療する、転倒・転落のリスクが高い住環境(たとえば寝室とトイレの間に階段があるなど)を改善するといった方法により、フレイルの要因を取り除くことが重要となります。

アルコールは摂取して大丈夫?

適度なアルコール摂取は、脳梗塞の予防という観点では推奨されます。ただし食欲を増す程度の適度な量を超えて塩辛いおつまみと共に多量を摂取することは避けてください。適度なアルコール摂取量に大体相当するお酒の量の例は、以下のとおりです(女性や高齢の方、飲むと顔が赤くなる人の場合は、この基準よりも少なくすることが推奨されます)。

  • ビール・発泡酒(5%):350mL缶1本
  • チューハイ(7%):350mL缶1本
  • 焼酎(25%)50mL:お湯割り、水割り1杯
  • 日本酒(15%)80mL:0.5合(8勺のお銚子1本)
  • ウイスキー・ジンなど(40%)30mL:シングル1杯
  • ワイン(12%)100mL:ワイングラス1杯

社会的なつながりを維持する

社会的なつながりが多いと、独居でもフレイルになりにくいといわれています。つまり、独居そのものが問題というわけではなく、外出や人との会話など社会的なつながりを維持することが重要なのです。フレイル予防の観点では、習慣的に人と会う時間をつくる、自治体の運営するカフェなどに足を運ぶなど、何か行動できるとよいですね。

素材:PIXTA
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水分摂取は小まめに

ここで、水分摂取の重要性についてご説明します。脱水により、気管支の繊毛の螺旋的異物排出機能が衰えます。冬場は乾燥しているうえ、加齢による口渇感の低下があり、マスクで口渇感がさらに減少しています。小まめなうがいは口腔内の清潔を保つだけでなく、水分補給にもなるため重要です。また、数時間に1回は必ずお茶などを飲み、薄めの尿が出ているか確認してください(尿が濃い場合、水分が不足している可能性があります)。

感染症との関係

高齢の方は新型コロナウイルスに感染した場合に重症化しやすいため、感染を予防することは当然ながら重要です。自宅にこもって接触を避けることも有効ではありますが、一方で、身体活動量が減ることで転倒や骨折をしやすくなり、フレイル、要介護状態へと移行してしまう可能性があります。そのため、生活の中でできるだけ身体活動を維持し、感染対策とのバランスをうまくとることが大切です。「身体活動」とは、ウォーキング、ラジオ体操などの運動だけでなく、家の中で行う家事や、子ども・ペットの世話、ガーデニングなども含まれます。無理のない範囲で、まずは体を動かすきっかけをつくること、そのような活動を定期的・継続的に行うことが大切です。