国内ではワクチン接種が進み、感染状況も徐々に落ち着いてきた新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)。一方で冬が近づく今、第6波を懸念する声も聞かれます。COVID-19では発熱やせき、倦怠感、味覚・嗅覚障害のほかに、皮膚症状が起こる可能性があることをご存知でしょうか。本記事ではそれら皮膚症状の種類や治療法、後遺症で現れる脱毛症などについて大塚 篤司先生(近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授)にお話を伺います。
※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。
COVID-19に伴う皮膚症状は、主に▽紅斑丘疹▽蕁麻疹▽小水疱▽網状皮斑▽COVID toe(コビッド・トゥ)――という5つのタイプに分類できます。
1つ目の「紅斑丘疹」は、赤いまだら状のぶつぶつが体中にできます。これは麻疹や風疹などほかのウイルス感染でも起こる皮膚症状です。症状が出るタイミングや症状の重さなどはケースによって異なり、COVID-19発症後すぐに症状が出る場合もあれば、しばらく時間がたってから出る場合もあります。また薬疹(薬剤の内服や注射により生じる発疹)でも同じような紅斑丘疹が現れることがあり、その皮膚症状が新型コロナウイルス感染によるものか薬剤によるものかをはっきりと区別することが困難な場合もあります。
2つ目の「蕁麻疹」は皮膚の一部が赤く盛り上がり、しばらくすると跡形もなく消えるタイプです。これはCOVID-19の感染に伴って現れる場合もあれば、新型コロナワクチン接種後に現れる場合もあります。
3つ目の「小水疱」は、体中に小さな水ぶくれができるタイプです。
4つ目は「網状皮斑(別名:リベド)」といい、両脚に網目状の紫斑(紫紅色や暗紫褐色をした皮膚内の出血がまだらに現れた状態)が現れるタイプです。これは新型コロナウイルス感染による血管炎(血管の炎症)が原因で起こると考えられています。
5つ目の「COVID Toe」はつま先(足の指先)にできる霜焼け状の病変で、日本語では「コロナのつま先」とも呼ばれます。COVID Toeは軽症かつ若い方に起こることが多いといわれています。主につま先に起こりますが、手の指先に現れる場合もあるようです。
COVID-19に伴う5種類の皮膚症状はどれも皮膚科医が普段の診療でよく見かけるものなので、既存の治療法でおおよそ対応可能です。基本的にはどの皮膚症状に対しても「ステロイド外用薬」という塗り薬を使うことができ、症状が重いケースでは「ステロイド内服薬」という飲み薬を処方します。どの症状であっても、経過や重症度に応じて様子を見ながら治療を進めていきます。
紅斑丘疹タイプの場合、ステロイド外用薬に加えて抗アレルギー薬を使うことで改善することが多いです。網状皮斑の場合は自然に軽快することが多いので、まずは経過を見たうえで、症状が重い場合にはステロイド内服薬を用います。
COVID-19の後遺症で現れる皮膚症状の1つに「脱毛症」があります。脱毛症はCOVID-19の発症後2か月ほどでみられることが多く、そこからさらに3~6か月後ほど続く場合があります。後遺症として脱毛症がみられる場合、症状が現れてからの期間や脱毛面積などを確認し、円形脱毛症に対する治療を行います。
脱毛症がCOVID-19の後遺症として現れる原因については、明確に分かっていません。ほかの感染症でも脱毛症を引き起こすケースがあるので、共通のメカニズムがはたらいている可能性が考えられます。
現段階で皮膚症状が起こる明確なメカニズムや症状が出やすい方の条件は明らかになっていません。それまで皮膚の病気にかかったことがない(認識していなかった)方がCOVID-19をきっかけに皮膚症状を訴えるケースもあります。皮膚症状が現れると見た目が気になったり、かゆみ・痛みなどで生活に支障が出たりしてQOL(生活の質)の低下につながる可能性があります。先ほどお伝えしたように既存の治療法で対応が可能なので、皮膚症状が現れた場合には早めに医療機関(皮膚科)を受診しましょう。
基本的には、一般の皮膚科で診療している皮膚疾患であれば同時進行で治療しても問題ないことがほとんどです。一部、薬剤の併用などで注意が必要な場合もありますが、条件はケースによって異なるので不安な場合は主治医の指示を仰ぎましょう。
患者さんによく聞かれるのは「アトピー性皮膚炎の人がCOVID-19にかかると重症化しますか?」という内容です。しかしそのようなデータはありません。逆にアトピー素因がある場合はCOVID-19が重症化しにくいという論文もあります。これらの情報を総合して考えると、アトピー性皮膚炎の方も一般の方と同じように感染に注意して過ごしていただければ大丈夫です。
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