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連載慢性期医療の今、未来

高齢多死社会で変化する価値観や文化―「臨床倫理」の重要性が高まった背景

公開日

2021年06月03日

更新日

2021年06月03日

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2021年06月03日

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「臨床倫理」とは、医療・介護の臨床現場で起きる問題を倫理的視点から検討するアプローチを指します。日本では2012年に日本臨床倫理学会が設立されるなど社会的にも注目されるようになりましたが、その背景にはどのような経緯があったのでしょうか。長年臨床倫理の問題に取り組む三浦靖彦先生(東京慈恵会医科大学附属柏病院 総合診療部 診療部長、教授)にお話を伺いました。

※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。

高齢多死社会となりつつある日本

以前から臨床倫理の問題は存在していましたが、社会的にはそこまでクローズアップされていませんでした。2010年代から徐々に注目されてきたように思います。

その背景には、高齢化の進展により日本が高齢多死社会(高齢化が進み、亡くなる方も多い社会)になったことや、医療技術が急速に進歩して命を長らえさせることが可能になった経緯があります。我々の世代は医学教育のなかで「患者さんを1分1秒でも生き延びさせることが医療の目標である」と教わってきました。そしていつの間にか、とてつもなく長く延命することが可能になってしまったのです。

人々の寿命が延びたと同時に、「弱った高齢の方」の数が急激に増加しました。すると今度は、そのような弱った高齢の方に命を長らえさせる医療を際限なく提供してよいのか、という問題に直面するようになりました。高齢多死社会のなかで、進歩した医療技術をどのように活用するのかを考えるべきタイミングに差し掛かったといえるでしょう。

また、患者さん自身の価値観が多様化していることも特筆すべき点です。今ほど医療技術が進んでいなかった時代には、病気になれば多くの方が「できることは何でもしてください」と医師に頼んでいました。ところが徐々に「延命治療をせずに穏やかに最期を迎えたい」と希望する方が現れてきました。そして、本人やご家族の意向と医療技術による治療の可能性をうまくすり合わせるために、倫理の視点が必要になってきたのです。

病室で寝ている老人 PIXTA

写真:PIXTA

臨床倫理を取り巻く社会の変化

医療の現場で倫理の視点が必要になり、2000年代頃から臨床倫理の問題をくみ取るための病院機能評価の項目ができました。その頃から多くの医療関係者が「臨床倫理とは何か」を躍起になって学び始めたのです。

現在のように臨床倫理に関する教育や制度がなかった頃は、医療者個人の人生観や価値観を基に人生の最終段階における治療を選択するしかありませんでした。積極的治療を推奨する医師は延命治療をどんどん行い、推奨しない医師なら延命治療をしない。ですから、誰が担当するかによって患者さんの最期のあり方が変化していたのです。その状況を変えようという社会の機運が高まり、臨床倫理が必要となったのです。

もう1つの視点として、在宅医療の普及に伴い患者さんやご家族の人生観や価値観を治療に反映する必要性が高まったことがあります。そして在宅医療の現場には介護従事者などもいるため、多職種で「この患者さんが大切にしていることをどのようにかなえるか」を考えるようになりました。そして、医師の選択が必ずしも正解ではなくなってきたのです。

医学教育の中でも存在感を増す臨床倫理

以前は、医学教育の中で臨床倫理のことを学ぶ機会はほぼありませんでした。しかし、現在では医学教育、看護教育の中で臨床倫理を学ぶことができるようになっています。大学のカリキュラムの組み方によりますが、臨床倫理に割く時間は以前よりも格段に増えているようです。実際に東京慈恵会医科大学では、6年間の医学教育の中で倫理的な視点を養うためのカリキュラムが構成されています(2021年時点)。

近年、臨床倫理に興味を持つ医療従事者が少しずつ増えているように思います。私の感覚では、今までは医療従事者の1割ほどにしか臨床倫理のことが浸透していなかったけれど、今では4割ほどに増加したと感じています。

ただ一方で、現状では半数以上の医療従事者に倫理的な視点が不足しているともいえますので、現場で働く皆が臨床倫理を理解して患者さんやご家族と向き合えるよう、今の活動を続けていきたいと思います。

※お話の続きは次のページをご覧ください。

 

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