連載慢性期医療の今、未来

「人とのつながりが薬になる」―内門大丈先生インタビュー【後編】

公開日

2024年05月30日

更新日

2024年05月30日

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2024年05月30日

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神奈川県平塚市において地域に向けた認知症啓発活動、コミュニティの活性化などに尽力されている内門大丈先生は、人とのつながりや交流が認知症の改善に大きく影響すると実感し、医療の提供にとどまらないさまざまな支援を実践されています。その取り組みや認知症診療で大切にしていることになどについて聞きました。

※内門大丈先生インタビュー【前編】はこちらをご覧ください

※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。

認知症医療に携わるようになったきっかけ

私は横浜市立大学医学部を卒業後、初期研修期間を経て伊豆逓信病院(現:NTT東日本伊豆病院)の精神科に勤務しました。主に境界性人格障害や摂食障害などの精神疾患の患者さんの診療をしていましたが、当時から痴呆疾患医療センター(認知症疾患医療センター)も併設されており、その患者さんも診ていました。治療薬がなくご本人や家族がお困りの様子は、精神疾患のある若年の患者さんより厳しい状況に見えたことをよく覚えています。そのようなとき、病院の視察にこられた小阪 憲司先生(横浜市立大学名誉教授)との出会いがありました。小阪先生はレビー小体型認知症を発見された方で、ナラティブかつバイオロジカルに脳科学へのアプローチをされていました。私はそれまで精神療法を中心とした診療をしていましたが、先生と出会ってもっと勉強したいという思いが募り、大学院に進学して小阪先生の神経病理学のグループに入りました。大学院では認知症について神経病理的な研究を行うとともに、物忘れ外来にて臨床経験を積みました。その後、米国ジャクソンビルにあるメイヨークリニックへの研究留学、総合病院精神科の臨床経験を経て2011年に湘南いなほクリニックでの診療をスタート。2022年にさらに発展させる形でメモリーケアクリニック湘南を開設しました。

認知症医療に欠かせない要素は「忍耐力」

メモリーケアクリニック湘南は内科診療に加えて認知症の早期診断・早期治療、高齢者の総合診療、在宅診療・遠隔診療まで対応し、全人的な医療の実践に努めています。地域のかかりつけ医として機能し、外来通院できなくなったときにはアウトリーチして訪問医療を提供し、認知症だけではなくほかの病気も含めて診ながら、最期の看取りまで関わること。これが私の認知症医療の理想です。

この理想の医療のために欠かせない要素は、やはり「忍耐力」でしょう。認知症の患者さんは年齢を重ねるにつれてどんどん厳しい状況に陥ります。短期的に一生懸命援助することはできても、長期的に関わり続けることは難しいものです。患者さんや周りのご家族が「もう手立てがない」という状況になっても、そばに居続けて伴走することが必要です。認知症診療に限らず、その考えは大切だと思います。

地域全体で患者さんをサポート

認知症は一筋縄ではいかない病気ですので、総合的に患者さんを支えるためには医療の提供だけではなく、地域全体がさまざまなアプローチでサポートをすることが大切です。そのため私はクリニックの運営のほか、認知症に関する啓発活動・地域コミュニティの活性化に積極的に取り組んでいます。

取り組みの1つに「SHIGETAハウスプロジェクト」があります。SHIGETAハウスは認知症の人・認知症の人の家族・専門職・地域の人々が認知症についてともに語り、学び、広く発信していく場として、平塚市にある繁田 雅弘先生(東京慈恵会医科大学 名誉教授)の生家に作られました。2018年のスタート以降、認知症カフェのほか、近くの畑での野菜収穫、音楽を楽しむ会の開催などの活動を行っており、患者さんやご家族へ身体的・精神的なサポートをする場として機能しています。そしてこのたび、2024年6月に栄樹庵診療所をこのハウス内に開設し、繁田先生を院長として認知症診療を始めることになりました。診療所の一室に認知症カフェを併設するという話は多いかもしれませんが、認知症カフェの一室に診療所を作るというパターンは珍しいかと思います。皆が笑顔で互いに支え・支えられる、暖かな居場所にしていきたいと考えています。

人とのつながりがいかに大切かを実感

さまざまな啓発活動をとおして得た気付きは「人とつながっていなければ何もできないし、楽しくない」ということです。人のありがたさを知ることもできました。

これまで多くの認知症の患者さんを診てきて、医学的な力ではなく、人との関わり・介入によってBPSD(行動・心理面での周辺症状)が改善された例を目の当たりにしてきました。私は「人薬(ひとぐすり)」と呼んでいますが、家族や周囲の援助がいかに効果的であるかを実感しています。人の精神は人の力でないと治らないこともあるのです。

人の関わりによるアプローチが効果的であることは、認知症のある人も認知症のない人も基本的に同じです。私自身、人との関わりによって助けられている感覚を得られて、気持ちが満たされたり成長したりすることができています。

「いま」できるベストを尽くす

私は、今後叶えたい目標・展望といったことにとらわれすぎないほうがよいと考えています。そのときそのときのベストを尽くす―それが認知症医療や高齢者の在宅医療の基本だと思うからです。

認知症というとどうしても「未来に対する予防」や「過去に対する治療」に目が向きがちです。しかし未来や過去に懸命になりすぎると、認知症である「いま」は無駄な時間になってしまいます。たとえば、高齢の人と会話をしていて「10年後にはマンションを買いたいですね」といった話には当然なりませんし「あの時がんにならなかったらよかったですね」といった話にもまた意味がありません。認知症の人の世界は、過去や未来よりも「いま」という時間で占められています。認知症の人の幸福を願い、進行を遅らせたいなら「いま」を充実させることが有益だと思います。当法人の掲げるミッションも「今日生きることを大切にする」としています。これは診療の場面はもちろん、人生そのものにも当てはまると思います。患者さんに対しても、自分に対しても、そのような生き方を大切にしたいです。

慢性期医療はどんなに厳しい状況を前にしても逃げ出さずに、皆で力を合わせて患者さんやご家族に寄り添っていくことが求められます。関わっていくなかで逃げ出してしまいたくなったり、診たくないな・しんどいなとネガティブな気持ちになったりすることもあるでしょう。ですが、そのような感情を抱く相手こそ「より助けを必要としている人なのだ」ということに、気付くことができるはずです。厳しい状況でも常に立ち戻って考えられるようになるとよいのではないかと思います。

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