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連載慢性期医療の今、未来

免疫は訓練できる?―自然免疫/獲得免疫のメカニズムを解説

公開日

2021年07月19日

更新日

2021年07月19日

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2021年07月19日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年07月19日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

全国的に新型コロナワクチンの接種が進みつつあります。未曾有の感染症との闘いを通じて世界中でさまざまな研究や調査が行われ、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の全貌が見えてきました。本記事では、私たちの体に備わる免疫のメカニズムや最新免疫学の視点から分析した新型コロナウイルスの特徴について、宮坂昌之先生(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授)にご解説いただきます。

※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。

体を守るメカニズム―「自然免疫」とは?

私たちの体には、ウイルスなどの病原体を含めて外部からの侵入を防ぐためのメカニズムが2種類備わっています。それが、自然免疫と獲得免疫です。その仕組みと特徴をご説明しましょう。

まずは「自然免疫」から。病原体が体の外から内側へ侵入しようとすると、最初に物理的・化学的バリアーが立ちはだかります。すなわち、皮膚や粘膜などに存在する殺菌性物質が病原体の侵入を物理的・化学的に防いでいるのです。ただし、ここに穴が空いていると病原体は内部に侵入してきます。そこで次に、白血球の一種である食細胞が病原体を食べたり殺菌したりして病原体を排除する、細胞性バリアーがはたらきます。この2段階のバリアーは通常、生まれつき自然に備わっている免疫機構であることから「自然免疫」と呼ばれます。

自然免疫の特徴は、病原体の侵入に反応するスピードは速いけれど、一度経験した病原体を覚える(免疫記憶といいます)仕組みがないので、再び同じ病原体が入ってきたときに同じ反応を一から繰り返さなければならない点です。

病原体を覚える「獲得免疫」

もう1つの免疫機構が、「獲得免疫」です。病原体が自然免疫の2つのバリアーを突破してしまったら、白血球のうちBリンパ球(B細胞)とTリンパ球(T細胞)の出番です。これが2つ目の細胞性バリアーとして機能します。Bリンパ球は抗体をつくって病原体を排除し、Tリンパ球は感染した細胞を見つけ出して退治します。この免疫機構は生まれてから獲得し発達するため、「獲得免疫」と呼ばれます。

病原体を覚える「獲得免疫」

獲得免疫の特徴は初めて出合う病原体の侵入に反応するスピードが遅く(侵入を認めてからリンパ球が増殖し、一定程度まで増えないと撃退できない)、一方で免疫記憶によって一度経験した病原体を覚え、同じ病原体が再び侵入してきたとき速やかに防御できる点です。

新型コロナウイルスの厄介な点

重要なポイントは、自然免疫と獲得免疫のメカニズムが備わっているため、私たちの体はそう簡単にウイルスに感染しないということ。たとえば「新型コロナウイルスに感染した人の隣を通っただけで感染する」と怖がる方がいますが、それは違います。

ただし、先のページでもお話ししたように新型コロナウイルスの場合、人によってはインターフェロン(ウイルスに感染すると生体内でリンパ球などから産生されるタンパク質)が十分に産生されません。そのためウイルスの増殖を止めることができず、結果として重症化し、さらに他人にも感染させる可能性があるのです。これがCOVID-19のとても厄介な点です。

獲得免疫は加齢とともに低下する

実は、獲得免疫は加齢とともに弱まります。たとえばリンパ球に関わる免疫系は生まれてから急激に発達し、思春期にピークを迎えます。そして20歳を過ぎると獲得免疫のはたらきは低下し始め、40歳代でピーク時の50%ほどに、70歳代で10%前後にまで低下することが多いのです(ただし個人差は大きい)。

ワクチン接種などの刺激が免疫を「訓練」する?

2021年4月に発表された米国の研究*では、子どもが新型コロナウイルスに感染したときには自然免疫が非常によくはたらき、重症化を防いでいる可能性が示唆されました。新型コロナウイルス感染に対し、子どもは大人よりも圧倒的に強い自然免疫の反応を示したのです。

ここで気になってくるのが「なぜ子どもはそのような強い自然免疫を持っているのか?」ということです。最近では、子どもはワクチン接種の機会が多く自然免疫が刺激されている可能性があることが分かってきました。

その1つがBCG(結核を予防するワクチン)です。BCGは自然免疫を刺激するもっとも有名な物質で、BCG接種によって免疫反応が非特異的に、すなわちほかのウイルスに対しても高まるといわれています。たとえば実験的な条件下ではありますが、あらかじめBCGを接種することで黄熱病ウイルスに伴うウイルス血症やマラリア感染が抑制されたとの結果が出ました。ほかにも、小児におけるRSウイルス感染や高齢の方の肺炎が抑制されたという疫学データがあります。

*Natural mucosal barriers and COVID-19 in children:https://insight.jci.org/articles/view/148694/pdf

BCG接種をした赤ちゃん 写真:PIXTA
BCG接種をした赤ちゃん 写真:PIXTA

「訓練免疫」のメカニズム

BCG接種の例に見られるように、自然免疫が何らかの要因で刺激されて強くなるメカニズムを「訓練免疫」といいます。BCG接種のように自然免疫が高まるポジティブな訓練免疫が起こるときと、逆に弱まってしまうネガティブな訓練免疫が起こる場合があります(ただし後者はまれです)。

なぜ訓練免疫が起こるのかについては、4つのメカニズムが示唆されています。1つ目は、次の感染が起こるまでの一定期間、エピジェネティクス(遺伝子の発現を制御する仕組み)が免疫細胞の中で維持されるという可能性。2つ目は、免疫細胞の代謝過程で刺激を受けることにより代謝系がリプログラミング(初期化)され、サイトカイン*など免疫に関わる物質を産生しやすい状態になっているという可能性。3つ目は、刺激を受けた細胞そのものの感受性が高くなり、次の感染に対して準備したような状態になっているという可能性。そして4つ目は、自然免疫は骨髄にもはたらき、強い免疫細胞を産生しているという可能性です。

これらのどれか1つというよりも、訓練免疫はいくつかの複雑なメカニズムがはたらいた結果として起こるものと捉えられます。子どもの場合は初めて出合う病原体が体内に多く侵入してくるだけでなく、さまざまなワクチンを接種しますよね。実際に日本では小学校を卒業するまでほぼ毎年ワクチンの定期接種が行われています。このことから子どもは自然免疫が訓練されており、COVID-19の重症化を回避している可能性があるのです。

*サイトカイン:主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質で、細胞間の情報伝達を担う。

訓練免疫だけに頼るのは無謀

ただし、COVID-19克服の観点では訓練免疫だけに頼るのには限界があるということにも言及しておきましょう。それを明快に表しているのが、BCGを接種しているインド、ブラジル、ペルー、チリなどでCOVID-19の感染者数が大幅に増加しているという事実です。2020年の中頃にはいずれの国でもCOVID-19の重症化率・死亡率はとても低かったのですが、2021年になってからは変異株によって感染者数が大きく増加しました。

つまり訓練免疫は、ある一定程度までのウイルス感染を防ぐのには役立っていると思われますが、完全に感染を防ぐことはできません。特に、変異株のような感染性の強いものになれば、訓練免疫だけを頼りにするのは無謀です。すなわち、獲得免疫を得るためのワクチン接種が非常に重要であるということです。

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