連載慢性期医療の今、未来

海外からも視察が訪れる介護施設「あおいけあ」―多世代の居場所作り

公開日

2021年11月04日

更新日

2021年11月04日

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2021年11月04日

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小田急電鉄江ノ島線・六会日大前駅から徒歩7分、穏やかな住宅街の中にある介護事業所「あおいけあ」。2001年の開設以来、認知症の方や介護が必要な方に「自立支援」を前提とする本質的なケアを行ってきました。国内はもとより台湾やフランスなど海外からも視察が訪れる同事業所は、地域に開かれた多世代の交流の場としても機能しています。2021年には多世代型高齢者住宅「ノビシロハウス」を開設し、地域はますます活性化しています。創業者の加藤忠相さんに、あおいけあの特徴についてお話を伺いました。

※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。

あおいけあはどんな場所?

「あおいけあ」の敷地内には、認知症をお持ちの方がスタッフのケアを受けながら共同生活を送るグループホーム1軒と、宿泊・通い・訪問という機能を担いご本人の在宅生活を支える小規模多機能型居住介護(以下、小多機)を提供する施設が3軒あります。また歩いてすぐのところに「ノビシロハウス」という多世代型高齢者住宅(2021年開設)があり、その1階部分には以前あおいけあの中にあった「亀井野珈琲店」というカフェを移転しました。

MN撮影

「あおいけあ」の敷地内

「壁」を壊して閉塞感のない空間へ

事業所を設立したのは2001年、自身が25歳のときです。当初はグループホームとデイサービスを運営していました。ただ当時のデイサービスは閉塞感が強く、どうしたら改善できるか悩んでいました。先輩方の施設をたくさん見学させてもらうなかで、お寺や自宅などで宿泊・通い・訪問とさまざまな形で地域の高齢者を預かる「宅老所」というシステムを知り、大きな感銘を受けたのです。それが当事業所の小多機の開設につながっています。

初めから地域に開かれた施設を意識していたわけではありません。しかし「閉塞感のない事業所にしたい」「いろんな人の“居場所”を作りたい」という思いがありました。そこで、壁を壊すという方法を思い付いたのです。物理的に敷地を囲む壁を取り払い、内外に開かれた空間にしました。すると車通りが激しかった東側の道路と、公園や保育園のある西側の道がつながり、地域住民の皆さんが敷地内を通り抜けていくように。意図せず「道」が生まれたのです。さらには施設内で書道教室などの習いごとを催すなど、地域の子どもたちと親御さんが訪れやすい環境を整えました。

そのうち地域の子どもたちが「お水ください」「麦茶ください」とふらっと訪れる機会が増えていきました。中には、不登校の子が施設に来て施設のおじいちゃんやおばあちゃんと話すようになったり、よく遊びに来ていた子が介護の仕事に興味を持ち数年後にうちでアルバイトを始めてくれたりと、活発な交流が生まれたのです。

MN撮影

「自分に近いもの」しか見ない社会で

敷地内にカフェを作り、多世代型高齢者施設を新たに開いたのは、あおいけあで生まれた地域住民の交流をもっと増やしたいと思ったからです。認知症をお持ちの方や介護が必要な方が子どもたちや地域住民の皆さんと触れ合い、お互いに理解できる機会をもっともっと作りたいと思いました。実際に触れ合うなかで、子どもたちは「Bさんは同じことを2回言うけど優しいおばあちゃん」「Cさんはたまに車椅子に乗っている物知りなおじいちゃん」というふうに理解していきます。決して「認知症の高齢者」という単純なイメージでは判断しなくなるでしょう。

かつて日本は拡大家族が一般的でした。しかし現在は核家族化が進み、しかも共働き夫婦が主ともなれば、触れ合える家族は確実に減ります。そして学校では障害を持つ子は特別支援学級で分けられるので交流がなく、義務教育の過程では学力で選別され、社会に出れば専門性で分かれていく――。そうすると「自分に近いもの」しか見ません。だから自分たちと違う人を見ていじめに走ったり、弱い人を追い詰めたりする。私たちはそんな狭い世界に生きているのです。そんななかで、幅広い世代と知り合い、血縁でなくとも優しくしてくれるおじいちゃんおばあちゃんに囲まれるというのは、子どもたちにとって非常に価値ある経験だと考えています。

「ノビシロハウス」―多世代ごちゃまぜの空間

高齢の方を取り巻く種々の社会的問題を踏まえて、アパートとコミュニティスペース、地域医療の拠点が一体となった多世代型高齢者住宅「ノビシロハウス」をオープンしました。

MN撮影

「ノビシロハウス」の外観 右側1階にカフェが入っている

居住スペースはバリアフリー対応のワンルームが8部屋(2021年10月現在満室)あり、高齢の方はもちろん、どんな方でも入居可能です。また1階には亀井野珈琲店というカフェ、コインランドリーがあり、2階には在宅訪問診療と訪問看護がオフィスを構えています。

MN撮影

亀井野珈琲店の店内(左)とケーキ(左)

高齢の方が安心して生活できるよう、一定時間お部屋の照明や水回りが使われないと自動通知される生活リズムセンサーが装備され、別室に住んでいる若者から毎日声かけをしてもらえるシステムを採用(声かけする住人は家賃が一定額免除される)しています。また、月に1回カフェでお茶会が開催され、入居者や近所の方々と交流できます。このように人とのつながりを保つことで、たとえ一人暮らしでも孤独にならずに社会生活を維持することができるのです。

MN撮影

ノビシロハウスの郵便受け(左)とコインランドリー(右)

「プラットフォームビルダー」となる介護事業者が必要

2000年に介護保険制度が始まる前の時代、介護というのは1963年制定の老人福祉法に基づく「福祉」の仕事でした。つまり高齢者は当時まだ少なく、助けが必要な弱者を公費によって養護するという発想だったのです。

しかし介護保険法が始まり発想は大きく変容しました。介護保険法の第2条には「保険給付は、要介護状態等の軽減又は悪化防止に資するように行われる」と記載されています。それに見合う仕事をしなければ、介護を担う者としては失格なのです。ケアとは面倒を見る・お世話するのではなく、その人の能力を生かして自立を支援する必要があります。私たち介護事業者は、ただサービスを提供するのではなく自立支援のためのプラットフォームを構築するべき存在だと思うのです。

 

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MN作成

 

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