近年、高齢化の進展とともに認知症の患者数は増加を続けており、2025年頃には高齢の方(65歳以上)の認知症有病率は20%を超える(5人に1人が認知症)と推計されています。一般的に認知症は高齢の方に起こりやすい病気ですが、一部は若年の方(65歳未満)でも発症することがあります。このような「若年性認知症」の患者さんは日本に約4万人弱いるといわれていますが、周囲の理解や社会的支援が不足している現状です。39歳の頃に若年性アルツハイマー型認知症と診断され、現在は同じような状況の方々のサポートを続ける丹野智文さんに、認知症本人と周囲の関係において大切なことについて伺いました。【3章】
※この記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム(https://manseiki.com/)」です。
※厚生労働省による若年性認知症ハンドブックはこちらをご覧ください。
現在私は、認知症の方が診察を受ける際に同席し、医療者や家族が本人の声を聞けるようサポートする活動もしています。これまでは、認知症患者さんの家族が苦労していることに対して医療者が「大変でしたね、つらいですね」と同調することが多かったようです。そうすることで認知症の当事者は「大変な人」となり、守らなければいけない存在になってきたのだと思います。ですから本人の声をしっかりと聞き、本人にとって本当に必要なものは何かを話し合うために私が同席しています。
家族の方には、認知症の人を自分の思いどおりに管理しようとしていないか、考えてほしいです。そして、認知症の当事者は、自分ができること・できないこと・やりたいことの3つを周囲の人にきちんと伝えてほしいです。「認知症」と一言でいっても、人によって状態が違いますよね。何ができて、何ができないのか、何をしたいのか、直接伝えない限り周囲の人たちは分からないのです。
たとえば私の場合、診断を受けてから1年半くらい、友人や同僚の誘いがパタっとなくなりました。ある夏の暑い日、同僚に「ビールでも飲みたいね」とふと何気なくこぼすと、「え、丹野さん病気なのにビールなんて飲めるの」と驚かれました。「先生からは何も言われていないから大丈夫だよ」と言ったら、一緒に飲みに行こうと誘ってくれたのです。そのときに、自分ができること、できないこと、やりたいことを周囲にしっかり伝えることの大切さを実感しましたね。そうしないと、優しさや気遣いゆえに「誘ったら困るかも」「病気だから遊べないかも」「そっとしてあげたほうがよいだろう」と思ってしまい、認知症の方と距離を置いてしまうのだと思います。
認知症になると、家族との関係も変化します。「介護する人と介護される人」という上下の関係に変化する場合もあるでしょう。私自身も、実際に認知症と診断される前と後では、夫婦の関係が変わったと感じています。
家族というのは、お互いに適度な距離が必要です。いつも一緒だと依存し合ってしまう。たとえば介護が必要になるとします。本人としては身の回りを世話してもらうことに最初は抵抗感を持っていても、徐々に受け入れ、家族に依存してしまいます。あるいは、自分で身の回りのことをしたくても病気のためにできないことが続き、家族に申し訳ないという気持ちが募って反論できなくなることもあるでしょう。そうして、家族がいないと何もできない依存の状態になるのです。
一方の家族は、「私がいないとこの人は何もできない」と感じるようになります。これは精神的に依存している状態です。ときには支援者から「仲のよいご夫婦ですね」と励まされたり褒められたりしてさらにがんばってしまい、疲弊してしまう人もいるでしょう。
このような関係は「共依存」という別の病気のように思えます。24時間365日一緒にいることで、お互いにつらくなり、結果として当事者の意思とは関係なく精神病院に入院、という流れになってしまうことも多いのかもしれません。
こんな話をしたら、家族の方から批判が来るかもしれません。しかし、私は「認知症の人に1人でも多く笑顔になってほしい」という思いで皆さんに伝えています。
認知症の当事者として思いを発信し、活動を続けるなかで、最近は認知症当事者を取り巻く社会が少しずつ変わってきたことを感じています。認知症への理解が進むことで、当事者が暮らしやすくなる。それは、誰もが暮らしやすい社会になる、ということです。認知症の人が元気になり、笑顔になることで、家族の負担も減り、みんなが安心して暮らせるようになるでしょう。認知症への偏見も減っていくことと思います。認知症の当事者が安心して過ごせる、「諦めなくてもよい環境」がかなうようにと、私は願っています。
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