連載慢性期医療の今、未来

寝たきり患者防止目指す3つの提案―日本慢性期医療学会会長講演で提唱

公開日

2023年01月31日

更新日

2023年01月31日

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2023年01月31日

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「コミュニケーション・ファースト」をテーマに、第30回日本慢性期医療学会が2022年11月17~18日、国立京都国際会館で開催され、医療従事者と患者間、そしてチーム医療の要となる医療従事者同士のコミュニケーションに関する講演が多数行われました。その中から、学会長の橋本康子先生による「日本慢性期医療協会の目指す道」の講演ダイジェストをレポートします。

※この記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。

高齢化・寝たきり人口増加に伴う慢性期医療のニーズ

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慢性期医療のニーズは年々高まっており、2000年から2020年までの間に65歳以上の人口は164%、要介護4~5(寝たきり)の割合は229%上昇しました。寝たきりの患者さんがこの20年間で2倍以上に増加した昨今、慢性期医療のニーズも拡大しています。それに合わせて質の改善も急務です。

そこで当協会は、改善を目指した3つの提案例を提唱します。

提案例1―急性期医療から総合診療医によるケアを

急性期病院において、病気は治療できたものの患者さんの体にさまざまな合併症(脱水、低栄養、廃用症候群*など)が残ってしまった状態で慢性期医療にバトンが渡されるケースも珍しくありません。こうした症状に対するケアを担う人材として、総合診療医を急性期病院に配置することを提案したいと思います。

なぜ総合診療医が必要なのでしょうか。多くの患者さんは高齢者であり、多病、すなわちいくつもの病気を同時に抱えていますので、1つの主病を診ていればよいというわけにはいかないのです。

総合診療医に求められるのは、発生頻度が高く幅広い領域の病気や障害などに対し、適切な初期対応と継続医療を全人的に提供することです。そのような存在が急性期病院に入ることで、領域別の医師や他職種と連携して急性期から全身管理とリハビリを開始できれば、身体機能の低下は防止できるはずです。主病以外の全身的な病気に対する関わり方によって患者さんの状態は変わります。急性期病院にも総合診療医を置き、総合診療医が急性期治療と同時に全身ケアを行う体制を作る必要があるのではないでしょうか。

また、2022年11月現在の医師臨床研修制度には、総合診療機能を学ぶ期間がありません。そこで私たちは、臨床研修(前期研修)と後期研修の間に総合診療の研修制度を取り入れることを提案します。

改定案は以下の2案です。

【改定案1】

国家試験合格後、2年間の臨床研修と後期研修のはじめの2年間、計4年間を総合診療機能研修期間とし、この研修修了後に臓器別診療医の研修を行う医師養成制度へ改正

【改定案2】

2年間の臨床研修後、2年間は臓器別専門医の研修と並行して総合診療機能研修期間とする医師養成制度へ改正

当協会でも総合診療医のキャリア形成支援を行っており、開業や後継などでキャリアの転換期を迎える医師に、リ・トレーニングの場として、総合診療医認定講座を開催しています。今後は総合診療医の実習の受け入れにも取り組んでいきたいと考えています。

*廃用症候群:寝たきり状態を起因として生じる全身症状で、筋力低下や関節拘縮などをきたす。

提案例2―介護も「基準」制度化を

看護領域における基準看護と同様に、基準介護、基準リハビリの制度化を当協会は提言します。基準看護とは、患者さんに提供する看護の質の確保・向上のため、勤務体系、入院患者数に対するスタッフの比率、仕事内容などで一定の基準を設定することを指します。看護領域にはこの基準が導入されていますが、介護やリハビリにはまだないために役割や業務範囲が明確化されておらず、専門能力が十分に生かせているとはいえません。

たとえば介護は、食事・入浴・排泄(はいせつ)介助などの「直接介護」と、ベッドメーキングや病床清掃などの「間接介護」の2種類に分類できます。介護福祉士の専門スキルが求められる前者と、そうではない後者は、同じ介護でも別物として整理すべきではないでしょうか。私たちは、介護福祉士の能力が発揮できる場をしっかりと整える必要があります。

基準介護や基準リハビリを制度化することにより専門能力が活用され、サービスの質の向上を目指すことができるでしょう。さらに、制度化のもとで病棟内にリハビリスタッフや介護スタッフを配置し、適切な介護やケアが行える体制が整えば、医療費・介護費の削減にもつながると考えています。

提案例3―チーム医療「一方通行型」から「連携型」へ

提案例2にも関連する話ですが、チーム医療の必要性が叫ばれているなかでも、やはりまだ多くの施設は医師が指示を出し、各職種が業務を分担・実行しています。そのような「一方通行型チーム医療」から、「連携型チーム医療」へと変化する必要があると考えています。連携型チーム医療では、医師の指示を受けた各職種がそれぞれの専門分野の観点から患者さんを理解し、職種間での情報提供と医師へのフィードバックを行います。そしてそれを受けた医師は患者さんを全人的に理解し、総合的なマネジメントを行うのです。

非常に多くの職種の方々とコミュニケーションを取りながら患者さんの治療にあたることになりますから、医療従事者間の相互コミュニケーションが求められます。ですので、私たちは立場・職種・年代などの違いを理解しチームとしての力を発揮する、まさに「コミュニケーション・ファースト」で医療を行うことが重要になるといえるのです。

また、連携型チーム医療を実現するためには、チームの方々が同じ場所にいるということも大事だと考えています。あらゆる職種が病棟の中にいて、常に患者さんを診られる環境を作る。そのための病棟配属をしていくことも大切だと思います。

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