連載慢性期医療の今、未来

「認知症にやさしいまち」を全国に―全ての人が住みやすい場所を目指して

公開日

2021年09月07日

更新日

2021年09月07日

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2021年09月07日

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“人生100年時代”となった日本。2025年には高齢の方の認知症有病率が20%(5人に1人)に到達し、2040年には25%(4人に1人)を超えると推測されています。長い人生で認知症といかに共生するのか、認知症の方が暮らしやすい社会をどのようにつくるのかは、とても重要なテーマです。前田隆行さんは、介護保険サービスの利用者を単に「ケアされる側」にしない新たなデイサービスの形を模索し、2012年に東京都町田市で通所型介護事業所DAYS BLG!*(以下、BLG)を創設。さらにそのノウハウを伝えるべく活動を続けています。前田さんに、認知症を持つ方とのコミュニケーションで大切なことや「認知症にやさしいまち」について伺いました。

*DAYS BLG!の由来:DAYS(日々)とBarriers(障害)、Life(生活)、Gathering(集う場)の頭文字、そして!(感嘆符、発信)。毎日の生活場面で生きづらいと思う社会環境が障害であり、その障害を感じている人たちが集い発信することで、生活しやすい社会をつくろう」という意味が込められている。

※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。

「認知症にやさしいまち」とは

最近、「認知症にやさしいまち(Dementia Friendly Community:DFC)」を推進する地域が増えてきました。認知症にやさしいまちとは、どのようなものでしょうか。

認知症の当事者が生活の中で感じている課題や障壁について理解し、社会・環境が変わることで、認知症の当事者が暮らしやすくなる。これが「認知症にやさしいまち」だと思います。大事なことは、認知症にやさしいまちというのはつまり、誰にとってもやさしい町であるという点です。

たとえば、「スローレーン」「スローショッピング」という考え方をご存知でしょうか。これは、店舗などで特定のレーンではゆっくりと支払いができるようにするコンセプトです。そのレーンに並ぶ人はゆっくりでよいと承知しているので、たとえば認知症のある方や幼い子どもを連れた親、けがをされている方などが焦らずに支払いができるのです。

認知症のある方だと、小銭でお財布がパンパンになっている場合があります。本当は時間をかければ小銭の計算ができるのに、レジで時間がかかるのを避けるために毎回お札で支払ってしまい、小銭が増えてしまうケースが多いようです。これが、スローレーンなら時間をかけて釣り銭がないように支払いができます。

これは1つの例に過ぎませんが、認知症のある方が感じている課題や障壁を1つ1つ取り除いていくと、その社会・環境は、私たち皆が住みやすい、やさしい町になるはずです。

PIXTA

 

イメージ 写真:PIXTA

失敗を笑い飛ばせるおおらかな関係で

こちらのページでお話ししたように、失敗を責めないというのもコミュニケーションにおける1つのポイントですし、BLGの皆がおおらかな気持ちでいられることが大切だと思います。人は誰でも失敗しますから、そのときに責めたり怒ったりするのではなく、笑い飛ばせるほうが関係は良好に保てるはずです。

それから、たとえばシャンプーとボディソープを間違えて使ってしまった、ということがあったとしますよね。そのようなときにはシールを貼ったりボトルを変えたりして、分かりやすいように工夫するというのも大事ですね。

フィルターを外してフラットに

BLGでは利用者さんを、スタッフと同じ場所で同じ時間を共有する「メンバー」と捉えています。水平の関係で、お互いに弱さを開示しながら、助け合う関係です。私が大切にしているのは「認知症だから」というフィルターを外して、接することです。そういう意味では、認知症だからと特別なことをするのではなく、人と人が共に気持ちよく過ごすための根本的なコミュニケーションと何ら変わりないのです。

ご提供写真

BLGのメンバーが活動する様子

ご家族はどのように接したらよいか

認知症の方のご家族から「どのように接したらよいでしょうか」と相談を受けることがしばしばあります。私は「何も変えなくてよいですよ。今までどおりで大丈夫です」とお答えします。認知症を発症したからといってご本人の人柄が大きく変わるわけではないですし、家族との関係も変わりません。実際、「認知症になってから口数が少なくなって心配です」というご家族に「それは急に変わったことですか。それとも以前も同じでしたか」と尋ねると、「そういえば夫は無口な人だったわ」ということもあります。

「ご家族には本人が認知症であることを受容してください」とも伝えます。ご本人が認知症を受容し、ご家族が認知症を受容し、社会参加ができる場所がある。この3つがそろったときには、きっと症状の進行が緩やかになるはずです。おおらかな気持ちで、フラットに、それまでの家族の関係を続けていくことが大切だと考えています。

BLGを全国に――認知症や要介護になっても暮らしやすいまちを

2019年に、「100BLG」のプロジェクトをスタートさせました。100BLGは、BLGを全国各地に、それぞれの土地柄や文化に応じた形で展開するネットワーク化プロジェクトです。認知症や要介護になっても暮らしやすい、多様な選択肢と社会参加の場所がある――そんな場所と地域をつなぐハブとなり、その地域の中にさまざまな活動が生まれていく流れを各地でつくりたいと考えています。

具体的には、自分たちのまちにこうした拠点をつくりたいと思う人やグループを募集して、拠点づくりの方法論を伝え、実践するための研修をしています。研修は、まず半年間集中的に実施されます。「お世話をする」という発想に基づいた考え方とは大きく異なるもので、最初は理解できない人も少なくありませんが、基本的な考え方を学び、実践と振り返りを繰り返すなかで、生きる拠点となるための方法論を修得していきます。

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BLGのメンバーが活動する様子

2025年までに全国100カ所を目標に

展開の最初のステップとして、全国を北海道から九州沖縄までのブロックに分け、そこに1カ所ずつBLGの拠点をつくる取り組みを進めています。現在は最初のBLGを含めて11カ所でプロジェクトが進行中です。今後のスケジュールとして2025年までに100カ所を目指していましたが、コロナ禍の影響もあって少しスピードが落ちているので、実際には2030年頃になるかもしれません。

最近では、協力・賛同してくれる仲間も増えてきました。インターネットやSNSなどを通じて、同じ方向へ動ける仲間と出会えるのはありがたいですね。100BLGの活動に共感してくださる方がいたら、ホームページSNSなどでぜひお問い合わせください。

 

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