連載慢性期医療の今、未来

高齢化が進む日本で重要性を増す「慢性期医療」―その役割と価値

公開日

2021年12月27日

更新日

2021年12月27日

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2021年12月27日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年12月27日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

1950年には総人口の5%に満たなかった高齢化率(65歳以上の割合)は、1970年に7%を超え「高齢化社会」となり、2020年には28.7%に達しました。およそ3人に1人が高齢者となった日本で高齢者人口は都市部を中心に急速に増加すると推測されています。高齢の方は複数の病気を抱えており、健康な若年者よりも回復に時間を要することから、急性期(手術の前・中・後や、事故・急病により生命が危険な状態)の治療後に行う回復期医療(治療後の機能回復を目的とした医療)や慢性期医療*(病気の治療をしながら自立支援を促す医療)の重要性が高まっています。これからの日本を支える慢性期医療の役割と価値について、全国に慢性期病院を展開する平成医療福祉グループの代表の武久敬洋先生にお話を伺いました。

*本記事における「慢性期医療」は「回復期医療」を含みます。

※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。

日本の医療と社会を支える慢性期医療

慢性期医療の役割とは、急性期治療後の患者さんや在宅医療の中で急変した患者さんを受け入れた後、その方のQOL(生活の質)を向上させるための治療やリハビリテーション(以下「リハ」)、そのほか種々の介入をすることです。患者さんの視点から見ると、病気やけがをして急性期治療が終わったとしてもそのままでは自立した生活に戻れない場合があり、そこをサポートする存在が慢性期医療でもあります。また社会全体で考えると、自立した生活を送れない人々を放置することは社会にとっての損失に直結しますから、そこへ適切に介入することも慢性期医療の重要な役目です。

今、日本の病床の4割ほどが慢性期(回復期含む)であり、特に回復期は今後さらに需要が増えると見込まれています。慢性期医療がその役割を発揮し、質を向上させることは日本の医療と社会を支える底力につながると確信しています。

患者を積極的に受け入れ、医療全体の質を向上

もう1つの視点として、慢性期病院が患者さんの受け入れを積極的に行うことで急性期病院の在院日数が短縮される可能性があります。たとえば、急性期病院での在院日数が半分になればそのぶん患者さんを2倍受け入れられるわけですから、急性期医療を必要とする人たちにきちんと治療を提供できるでしょう。

このような体制構築は、平時だけでなく有事の際にも有用性を発揮するはずです。新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の感染拡大に伴い一部の地域で「病床逼迫(びょうしょうひっぱく)」が問題となりました。その解決策として急性期病院の新型コロナ病床を増やすという案が議論されましたが、それ以外にも、急性期病院で数日治療を受けて状態が回復した患者さんを早急に慢性期病院で受け入れ、その後の継続的な治療を担うという方法もあります。この方法ならば既存の医療資源を生かすことができます。

慢性期医療が急性期治療後の患者さんを積極的に受け入れることは急性期病院の機能を最大限発揮することに寄与し、ひいては適切な機能分化、医療全体の質の向上につながるのだと思います。これが慢性期医療の2つ目の価値です。

PIXTA

写真:PIXTA

平時に整えておくべき急性期医療との連携体制

COVID-19の感染拡大で病床の逼迫が問題になったという状況から考えても、急性期医療と慢性期医療の密な連携は急務と捉えています。日本慢性期医療協会では「急性期治療を終えたポストコロナ患者さんの積極的な受け入れに向け最大限の努力をする」と宣言し、当院でも受け入れ体制を整えていましたが、実際に転院してきたポストコロナ患者さんは月にわずか2人程度でした。

この背景にはいくつかの問題があると考えています。まずは国・行政が作る枠組みが不足していること。また、それに伴い両者の連携に必要なネットワークが整備されていないことです。たとえば急性期病院で退院許可が出た時点で広域において後方病院をマッチングできる仕組みがあれば、今よりも多くの慢性期病院が患者さんの受け入れを行うでしょうし、急性期病院も患者さんを送りやすくなります。

もう1つの問題は、退院基準を満たさないが状態が落ち着いている患者さんの受け入れ担当病院の設定がなされていなかったことです。ポストコロナ患者さんの中には退院基準をクリアしていても感染性が否定できない方がいるため、当院では受け入れ時に全例PCRを実施、感染性が否定できない場合には一定期間レッドゾーン対応を行っています。つまり、コロナ患者さんと同じレベルの感染対策を実施していることになります。

もちろん当院だけではなくポストコロナ患者さんを受け入れる病院は同じような対策をしているはずです。しかし、東京都においては退院基準を満たしていない患者さんの行き場が明確に区分けされていません。国・東京都から、ポストコロナを受ける病院はそのような患者さんも受け入れるように正式に要請があれば対応できると考えています。

このような課題を踏まえ、当グループとしては厚生労働省が進める第8次医療計画のヒアリングにおいて要望を述べました。本来、ポストコロナ患者を受け入れる機能があるのにそれを発揮できていない状況を打開し、さらに抗体カクテル療法(重症化を予防する治療法)など新しい治療の活用に向けても準備しつつ、今後の有事に備えておくことが重要と考えています。

社会の変化―慢性期医療を希望する医療者たち

最近では、医療者の中にも慢性期医療の重要性や面白さを感じてくれる方が増えていることを実感します。たとえば当グループの職員募集に対して応募してくださる方の中には「元々は急性期病院にいたが、これからは在宅医療をしたいのでその前に慢性期医療をひととおり学びたい」「もっと地域医療に関わりたい」「リハのことを勉強したい」という方がいらっしゃいます。30~40歳代の若手医師からも多くの応募があり、慢性期医療に興味を持ってくださる医療者は以前よりも確実に増えました。これからの医療を担う方々にも慢性期医療の面白さや価値を知っていただき、共により質の高い医療を目指していきたいと思います。

今、未来の日本の医療をよくしたい

慢性期医療の質が向上すれば、日本全体の医療がよくなる可能性があります。これから世界の各所で高齢化が進んでいくなか、日本はそのお手本になれる可能性があるのです。今後この慢性期医療を革新していくためには、若い人の力が必要です。皆で協力し、共に慢性期医療を、日本の医療をよくしていきたいと強く思います。

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