山下病院 理事長 服部昌志先生
大腸がんは日本で最も罹患者数が多いがんの1つだ。
早期に発見できれば治療につながる可能性が極めて高い一方で、健康診断の便潜血検査で異常を指摘されても、その後の精密検査に進まない人は少なくないだろう。
その背景には、従来の大腸内視鏡検査に対する恥ずかしさや不安、事前の準備に伴う負担感があるといわれている。こうした受診のハードルを下げる選択肢として注目されているのが、「大腸CT(CTコロノグラフィ)検査」だ。
大腸がん検査が持つ重要な意味と、内視鏡検査とは違う大腸CT検査の内容について、愛知県一宮市にある山下病院の理事長・服部 昌志(はっとり まさし)先生に詳しく話を伺った。
現在の日本でがんと診断された方の数を調べると、男女を合わせた全体の中で最も多いのが大腸がんです。性別で見ても男性では前立腺がんに次いで2番目、女性でも乳がんに次ぐ2番目に多いがんとなっています(2023年時点)。
さらに深刻な事態として挙げられるのが亡くなる方の数であり、大腸がんは全ての部位のがんの中で死亡数2位、女性に限定すれば1位であり、実際に亡くなる方は年間で約5.5万人という現実があるほどです(2024年時点)。
このように、大腸がんは私たち日本人にとって、命に関わる大きな問題だといえるでしょう。
これほど多くの方が亡くなる大腸がんですが、実は早期に発見すればするほどしっかりと克服できる病気でもあります。がんが腸にとどまっているステージIであれば、5年生存率はおおむね9割以上です。
さらに初期の段階、つまり内視鏡による治療で対応できるような非常に早い時期に見つけることができれば、その生存率は約95%にまで達するのです。ところが、これが他の臓器へ転移しているステージIVの段階にまで進行してしまうと、生存率は2割ほどにまで大きく下がる傾向にあります。どれだけ早い段階で発見して治療を始められるかが、その後の人生を大きく分けるといっても過言ではありません。
早期発見をすれば生存率が高いにもかかわらず、なぜこれほど命を落とす方がいらっしゃるのでしょうか。そこには、検査を受けていただけていないという大きな課題が存在します。実際に、自治体などから案内が届く便潜血検査、いわゆる検便を受ける方は、対象となる方の4割から5割程度に留まっているのが現状です。
便潜血検査は便に混じる血液を非常に高い感度で検出できます。陽性の場合、大腸がんのほか、痔や潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)といった別の病気が隠れていることもあります。陽性という結果が出たら決して自己判断で放置せず、必ず大腸の状況を確認してほしいと思います。
さらに問題なのは、その検便で便に血が混じっているという陽性の判定が出たにもかかわらず、その後の精密検査である内視鏡検査を受けない方が全体の4割ほどもいるという事実です。せっかく病気のサインを捉えたのに、精密検査に足が向かないことが、発見の遅れにつながっています。
精密検査を受けない大きな原因となっているのが、従来の大腸内視鏡検査に対する心理的な不安や恐怖心です。検査を経験した方から話を聞いたり、インターネットで調べたりして、大変な検査だと思う方は少なくないでしょう。
特に敬遠される理由として挙げられるのが、検査の前に飲む大量の下剤への抵抗感です。お腹の中を完全に空っぽにするために、およそ1.5Lから2Lもの下剤を数時間かけてお腹に入れなければならず、これが非常につらいと感じる方がいらっしゃいます。
また、鎮静薬で痛みを和らげることができるとしても、お尻からカメラを入れられること自体への苦痛や恥ずかしさに対するネガティブなイメージも、受診をためらわせる要因でしょう。
大腸内視鏡検査は大腸がんを発見するための優れた検査のため、このような理由で検査を受けないのは非常に残念なことです。
内視鏡検査が苦手で、精密検査を受けないままになってしまうという方に提案したいのが、「大腸CT検査」です。
これは1990年代にアメリカで開発された技術で、大腸をCT検査機器で撮影することでその状態を詳しく調べる手法です。
大腸CT検査の最大の特徴は、事前の準備が比較的楽であるという点です。
検査の前日には便が出やすくなるような専用の食事をとっていただき、それと同時に硫酸バリウム製剤というさらさらとした白い液体を毎食ごとに少しずつ飲んでいただきます。
この液体によって、お腹の中にある便が真っ白になります。ここでCTの撮影を行うと、白く光っている部分をコンピューターが自動的に便であると認識して画面からきれいに消し去ってくれ、腸の状態が分かります。
このタギングと呼ばれる工夫があるおかげで、内視鏡検査のように腸の中を完全に空っぽにする必要がなくなりました。そのため、下剤の量は内視鏡検査の約10分の1程度の量で済むので、苦手な方でも無理なくお飲みいただけるでしょう。
検査では、お尻から5cmほどの深さまで細い管を入れさせていただき、そこから炭酸ガスを注入して大腸を風船のように膨らませていきます。このときはおならを我慢しているようなお腹の張りを感じますが、カメラを奥まで進めるわけではないので強い痛みはありません。CTによる撮影は仰向けとうつ伏せの姿勢でそれぞれ15秒前後で、検査室に入ってから出てくるまでの時間は全体で15分程度です。終わった後はすぐにガスを抜くので楽になります。
大腸がんの過程として、小さなポリープが何年もかけてじわじわとおできのように大きく育ち、がんへ進展することが知られています。『大腸ポリープ診療ガイドライン2020』では、このポリープが6mm以上の場合は切除することが推奨されています。
大腸CT検査は、6mm以上の大きさの病変に対して内視鏡検査に近い検出率とされています。
なぜ、内視鏡検査とほぼ同じ感度で一定の大きさのポリープを検出できるのかというと、CTは腸全体を立体的に観察できるからです。内視鏡では腸の急な曲がり角やひだの裏側が死角になって見落とされるリスクがゼロではありませんが、CT検査では腸を平面に開いた画像を作ることができるため死角が基本的に存在しません。また、CTはお腹全体を撮影するので、その副次的な利点として大腸のすぐ隣にある肝臓や胆嚢、膵臓(すいぞう)といった他の臓器の大きな異常が偶然見つかることもあります。実際に私たちの病院でも、大腸の検査をきっかけに膵臓がんを発見し、治療につなげることができた例が2例あります。
一方で、CT検査の限界についても知っておいていただかなければなりません。この検査では、5mm以下のポリープの検出率は内視鏡検査より劣ります。CTの画像はカラーではないので、2mmや3mmといった色が少し赤いだけの病変や、平らな病変を見つけることは難しいのです。また、CT検査は放射線を使うので妊娠されている方には実施できません。
さらに、検査中に怪しいポリープや病変が見つかったとしても、内視鏡検査のようにその場で直接触ったり切り取ったりすることはできない点にも注意が必要です。病変が確認された場合には、治療や詳しい検査のために別途内視鏡検査を受けていただく必要があります。
大腸CT検査について、初めて知ったという方もいらっしゃるでしょう。しかし、その歴史は意外に古く、私が理事長を務めている山下病院が大腸CT検査に取り組み始めたのは20年以上も前の2003年のことです。
当時は国内でこの検査を実施している施設がほとんどありませんでした。しかし、内視鏡への恐怖心から検査を拒み、結果として大腸がんで命を落としていく方を救いたいという強い思いから、東京の国立がんセンター中央病院(現:国立がん研究センター中央病院)をはじめとする国内のいくつかの病院で共同のチームを結成し、技術を磨き合いながら手探りでこの検査をスタートさせた経緯があります。
検査を始めた最初の年から1,000件を超えるお申し込みをいただき、皆さんがいかに体への負担が少ない手法を求めていたのかを実感しました。2012年に保険適用となってからはさらに身近なものとなり、現在では年間におよそ2,000件の大腸CT検査を実施するに至っています。当院では大腸内視鏡検査と合わせると年間5,000件規模の検査をしているので、大腸の精密検査のうち約4割がCT検査になっています。
便潜血検査で陽性となった場合、精密検査の方法はご自身で選んでいただければと思いますが、スコープを奥まで進めるリスクを考慮すると、80歳以上の方はCT検査を検討するのがよいかと思います。また、恥ずかしさや苦痛をできるだけ避けたい、特に女性の方にはCT検査がよい選択肢となるかもしれません。実際、当院では大腸内視鏡検査の場合は男性の割合が多いのですが、大腸CT検査は男女比が半々です。女性が多いのは、大腸CT検査のほうが苦痛や恥ずかしさが少ないからではないかと思っています。
しかし、検査で毎回ポリープが見つかる方は、その場で切除ができる内視鏡検査をおすすめします。一方、初めての方や恐怖心が強い方は、CT検査から始めてみてもよいでしょう。
当院で大腸CT検査を提供していて驚くのは、この検査が次の適切な治療への入り口として大きく機能している点です。検査の結果、腸に切除を要するポリープが見つかった方に対して、3D画像と共に「ここにこれだけのポリープがありますよ」と説明をさせていただくと、93.5%もの方がその後にしっかりと内視鏡検査を受け、切除治療に進んでいます。大腸CT検査を経ると、事前に心の準備ができ、納得して次のステップへ進めるという意味でも、この検査には大きな役割があると考えています。
ここまでで大腸CT検査にご興味を持たれた方は、ぜひお住いの地域名に「大腸CT検査」をプラスして、インターネットで検索してみてください。CT検査機器は日本の多くの病院に導入されていますし、最近はクリニックでも導入されるところが増えていますから、多くの地域で大腸のCT検査を受けることができるでしょう。
最後に改めてお伝えしたいのは、ポリープという良性の段階で見つけることができれば、大腸がんは防ぐことができる病気だということです。ですから、検便で陽性が出たときに、怖いからといって放置してしまうことがないようにしていただきたいと強く思っています。
今回はCT検査を紹介しましたが、もちろん内視鏡検査でも構いません。どちらの検査を受けるにせよ、あなたが一歩を踏み出して体の中を確認することそのものが何よりも大切です。ご自身の健やかな毎日のため、そして大切なご家族のために、少なくとも5年に1回は大腸の精密検査を受ける習慣を持っていただくことを、心から願っています。
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