順天堂大学医学部附属順天堂医院パーキンソン病センター センター長 波田野琢先生
手の震えや動作の鈍化で知られる「パーキンソン病」。高齢化に伴い患者数は増加傾向にあり、もはや誰にとっても無縁な病気ではない。
実はパーキンソン病は、目に見える運動症状が現れる10年も前から、「睡眠」や「お腹の調子」にある異変が生じる人が多いという。
米国パーキンソン病財団から「センター・オブ・エクセレンス」の認定を受けている、順天堂大学医学部附属順天堂医院パーキンソン病センター センター長の波田野 琢(はたの たく)先生に、パーキンソン病の特徴やその治療法について伺った。
パーキンソン病は、脳内の「ドーパミン神経細胞」という神経細胞が変性する病気です。「変性」とは、原因がはっきりしないまま、細胞が徐々に壊れていくことを指します。
ドーパミンは、やる気を出したり、スムーズに体を動かしたりするために欠かせない、いわば「ハッピー神経伝達物質」です。細胞が壊れてドーパミンが減ってしまうと、動作がゆっくりになったり、体が硬くなったり、震えが出たりといった症状が現れます。
パーキンソン病は50歳代から60歳代半ばぐらいでの発症が多くなっています。さらに年齢が上がるにつれて、人口あたりの発症人数は増えてきている状況です。
その理由は、ドーパミン神経細胞が加齢とともに自然と減っていくものだからです。そのため、長く生きれば生きるほど発症するリスクは高まります。長寿社会になった今、パーキンソン病は特別な病気ではなく、誰がなってもおかしくない身近な病気といえるでしょう。
パーキンソン病で非常に興味深いのが、患者さんの性格です。全員に当てはまるというわけではないですが、医学的に「パーキンソン・パーソナリティ」という言葉があり、真面目で、ルールをしっかり守る、几帳面な方が比較的多いという印象があります。
性格が先か病気が先かはまだ研究中ですが、ドーパミンは人の性格の根幹にも関わる物質です。もしかすると、「真面目」や「几帳面」といった性格を生み出す脳の体質そのものが、病気の発症と関係しているのかもしれません。ですから、もし病気になったとしても悲観的にならず、むしろ「それだけ真面目に脳を使ってきた証拠なんだ」と、前向きに捉えていただければと思います。
パーキンソン病については、多くの方が「手の震え」を最初の症状だと思っていますが、実はその10年も前から始まる「潜伏期間」があるといわれています。この期間に現れるサインを知っておくことが、早期発見の大きなカギになります。
このサインは、大きく分けて2つあります。
1つ目のサインは「睡眠」で、夜寝ているときに、夢と現実の区別がつかなくなる「レム睡眠行動異常症」という症状が出ることがあります。これは、大声で寝言を言ったり、夢の中で戦っている動きをそのまま実行して暴れてしまったりするのが特徴で、起こされると「あ、夢だったのか」と自覚できるという特徴があります。
この症状はパーキンソン病や、その“兄弟”のような病気である「レビー小体型認知症」の前兆として、非常に重要視されています。
2つ目のサインは「便秘」と「嗅覚の低下」です。「昔から便秘なんてしたことなかったのに、最近ひどい」「周りが臭うと言っているのに自分だけ分からない」といった変化はありませんか?
先ほど、パーキンソン病は神経細胞が壊れる病気だとお話ししましたが、なぜ細胞が壊れてしまうのか、そのカギを握るのが「α-シヌクレイン」というタンパク質です。
このタンパク質は、何らかの原因で異常な形に固まると、細胞の中にある大切な器官を巻き込んで、内側から細胞を破壊してしまいます。
そして驚くべきことに、この恐ろしい「細胞破壊のプロセス」が最初に始まるのは、実は脳ではなく、外界と接する「鼻」や、「腸」ではないかと考えられています。そこから神経を伝って脳へ上っていく過程で、運動症状が出るずっと前から便秘や嗅覚低下を引き起こすと考えられています。
パーキンソン病=治らない、怖い病気、というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。しかし、治療法は劇的に進化しています。
パーキンソン病の薬物治療では、「レポドバ(L-DOPA)」は脳内でドーパミンに変わって不足を補う薬で、治療の基本薬(中心的薬剤)です。初期治療は年齢や症状で選択が分かれますが、多くの症例でレポドバが有力な選択肢になります。
特に発症早期は、この薬を含む治療薬で症状がすっかりよくなり、病気であることを忘れて生活できる期間が続く方が多くいらっしゃいます。これを私たちは「ハネムーン期」と呼んでいます。
ただし、進行してくると薬が効いている時間が短くなる「ウェアリング・オフ」といった課題も出てきます。また、効果が不安定になるとジスキネジアという不随意運動も出ることがあります。ジスキネジアは軽度なものが多いですが、時に生活に支障が出ることがあります。そして、薬の効きが悪い時には動きが鈍くなるだけではなく、「痛み」や「足のムズムズ感」、あるいは「不安な気持ち」といった症状が残ってしまうこともあります。これらは患者さんにとって、薬だけでは解決できない切実な「満たされない悩み(アンメットニーズ)」となり得ます。
かつては、こうした状態になると「もう打つ手がない」「薬が効かなくなったらおしまいだ」と悲観されていた時代もありました。ですが、現在は違います。飲み薬だけでなく、24時間持続的に薬を注入するポンプ療法や、脳深部刺激療法(DBS)といった外科的な選択肢も充実しています。現在では、以前のように「薬が効かなくなったらおしまい」という時代ではなくなっています。
ご自身やご家族が「パーキンソン病かもしれない」と思ったら、まずは早めに医療機関を受診してください。
その際、どのような基準で選べばよいのでしょうか。一般的には、脳神経内科の専門医がいるクリニックや、「パーキンソン病センター」のような専門施設を受診することになります。そこで何といっても重要なのは、治療にあたる医師やスタッフとの「相性」です。
パーキンソン病の治療は、糖尿病や高血圧のように「検査数値をよくして、医師の言うとおりにしていればよい」という病気とは少し違います。私たちが目指すゴールは、患者さんが「今日1日を笑顔で過ごせるかどうか」。そのためには、患者さんの生活スタイルや困り事に合わせて、薬の種類や量を細かく調整(アダプト)する必要があります。これには医師の豊富な「経験則」と、患者さんの声を丁寧に拾い上げる「対話」が欠かせません。
対話が重要ということは、話しやすく気の合う医師を選べるかがとても大切だということです。さらに、治療は長期戦になります。医師1人だけでなく、専門知識を持ったリハビリテーションスタッフや看護師など、チーム全体で生活を支えてくれる環境かどうかも、病院選びの大きなポイントになるでしょう。
パーキンソン病の治療を行う医療機関は、上記の点に配慮した診療を行っています。
たとえば当院では、医師だけでなく、パーキンソン病を深く理解した理学療法士や看護師がチームとなって患者さんを支えています。飲み薬だけでは解決できないアンメットニーズに対しても、脳深部刺激療法(DBS)や新しいデバイス治療など、多くの引き出しの中からその方に合った解決策を提案できる体制を整えています。
パーキンソン病の治療を行う医療機関は、それぞれ特徴を持っています。「あそこに行けばなんとかしてくれる」と思えるような医療機関を選ぶことが、納得のいく治療生活につながるはずです。
私は常々、医師は患者さんにとっての「杖」のような存在であるべきだと思っています。主役はあくまで患者さんご自身です。私たち医師という「杖」を上手に使いこなし、薬で動けるようになった体でリハビリや運動に取り組み、人生を楽しんでください。
もし将来、病気が進行したり、先ほどお話ししたようなレビー小体型認知症の前兆が出てきたりしても、決して悲観しないでください。お薬を少し調整するだけで、劇的に改善して穏やかに過ごせるようになるケースは数多くあります。「もうダメだ」とあきらめる必要はまったくありません。
むしろ、ふさぎ込んでしまうのが一番よくありません。1人で抱え込まず、私たち専門家を頼ってください。一緒に、笑顔で過ごせる方法を見つけていきましょう。
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