連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

誰にも言えないお尻の悩みに決着をー痔の3大疾患との正しい向き合い方

公開日

2025年05月13日

更新日

2025年05月13日

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2025年05月13日

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所沢肛門病院 院長 栗原浩幸先生

肛門の周辺に違和感や痛み、出血といった症状があり、「もしかして、痔?」と思ったことがある人は多いだろう。しかし、実際に医療機関で診察を受けたという人は少ないのではないだろうか。
だが、それらの症状は実際には「大腸がん」や「クローン病」の可能性もあるため、放置しないほうがよいという。どんな症状があったとき、どんな病気の可能性があり、どんな治療を受けるべきなのか、肛門の病気の治療を多く行っている所沢肛門病院(埼玉県所沢市)の院長、栗原 浩幸(くりはら ひろゆき)先生に伺った。

痔核―いぼが肛門から出て戻らないなら手術を検討

痔は、肛門に関連する病気の総称です。その中でも代表的な痔核(じかく)(いぼ痔)、痔ろう(あな痔)、裂肛(切れ痔)は、痔の3大疾患とも呼ばれます。このなかでももっとも患者さんが多いのが痔核です。

 

肛門の疾患
写真:PIXTA

痔核は、肛門周辺の静脈(静脈叢)がうっ血し、腫れ(いぼ)ができる病気で、いぼができる場所によって2種類に区別されます。肛門の外側にできる外痔核は、急な腫れや痛みを伴うことが多くなるのが特徴です。

一方、肛門の内側にできる内痔核はあまり痛みを感じませんが、肛門の粘膜が傷ついて真っ赤な血が出ることがあります。また、内痔核は慢性化すると排便時にいぼの部分が肛門から飛び出す「脱出」にもつながる場合もあります。脱出には段階があり、排便後に自然に戻るものから、手で押さないと戻らないもの、押しても戻らずつねに脱出した状態が続くものまであります。

痔核の治療としては、軟膏などの薬の使用や排便・生活習慣指導による保存療法、ALTAという薬液を注射していぼを硬くして固定する方法(硬化療法)、いぼ全体を切除する方法が中心となります。排便時に脱出し指で押し込む患者さんや保存療法で出血が止まらない患者さんには手術をお勧めしますが、ご高齢の方やハイリスクの患者さんには硬化療法をお勧めすることもあります。

痔ろう―1日も早く根本的な治療を

肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)とは、肛門と直腸の境目にある波状の「歯状線」に開口する「肛門陰窩(こうもんいんか)」から細菌が侵入、感染を起こして膿瘍をつくるもので、その膿が自然排膿したり切開排膿されたりして治ると線維化し膿のトンネル(瘻管)ができた状態を痔ろうといいます。

 

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肛門周囲膿瘍になると、多くの患者さんが強い痛みを訴えます。医療機関で切開して膿を出せば痛みは一旦治まりますが、原因が取り除かれていないため繰り返し肛門周囲膿瘍となって痛みます。自然に治ることは基本的になく、この状態を放置していると膿のトンネルが入り組んで複雑化し、最悪の場合は痔ろうがんになる可能性もあるので、手術治療を行います。

また、痔ろうは難病に指定されているクローン病とも密接に関連しており、‟痔ろうのある10代の患者さんはクローン病の可能性が高い”など、さまざまな臨床データが発表されています。これまでクローン病の痔ろうは手術で治すことが難しいとされていましたが、医療技術の進歩によって現代では積極的な治療を行えるようになりました。気になる方は治療実績のある病院にご相談ください。

肛門の周囲にしこりがある。膿んで痛みがある。下着に膿が付いている。これらの症状があれば早めに診察を受けましょう。また、痔ろうの原因となる肛門陰窩からの細菌感染は、下痢のような柔らかい便をすることで起こりやすくなります。下痢気味の方は、便が柔らかくなりやすい大酒を避ける、整腸剤を飲むなどで日頃から気をつけましょう。

裂肛ー進行すると肛門が狭く、固くなることも

裂肛は、排便時に固い便や下痢などで肛門に物理的な圧力がかかり、切れてしまうことが主な原因です。誰でも1度ぐらいは経験したことがあるほど身近な病気で、特にダイエットやホルモンバランスの乱れによって便秘になりやすい女性に多く見られます。

一時的に痛む程度の裂肛であれば、軟膏の使用などで様子をみてもよいでしょう。しかし排便後に何時間も痛みが続くようであれば病院で治療を受けるべきです。
また、裂肛を繰り返すと「見張りいぼ」とよばれる皮膚の突起ができたり、肛門が狭くなる肛門狭窄(こうもんきょうさく)になるリスクがあります。とくに肛門狭窄は鉛筆ほどの細さまで狭くなることもあり、排便に支障が出ます。こうなった場合は手術によって肛門の狭窄を改善し、肛門を広げるとともに、切れ痔の再発防止を目指すことが一般的です。

PIXTA

写真:PIXTA

痔を専攻する専門医に相談を

肛門に起こる症状で気をつけたいのは出血です。出血の原因が痔ではなく大腸がんだった、というケースは珍しくありません。実際に当院の症例では、肛門科を受診された患者さんのうち約2%の方から大腸がんが発見されました。そのうち大半はすでに進行してしまっているがんでしたので、患者さんの中には痔による出血と思い込み、治療を先延ばしにした方もいるのではないかと懸念しています。 肛門からの出血が続く場合は、かかりつけの先生や大腸の内視鏡検査を行っている医療機関に早めに診てもらうといいでしょう。

出血はないものの、肛門の症状で気になることがあれば、まずはかかりつけ医を受診してください。それでも症状が続く場合は専門の医師に紹介してくれるはずです。
最初から実績豊富な医師にかかりたいという方は、日本大腸肛門病学会が認定した大腸肛門病専門医や日本臨床肛門病学会が認定した臨床肛門病認定医を探しましょう。それぞれの学会のホームページから医師を検索できるので、ご自宅に近い先生を見つけて専門的な治療を受けていただければと思います。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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