連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

手のふるえ、実は治療できる――メスを使わない治療法、「FUS」とは?

公開日

2025年10月23日

更新日

2025年10月23日

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2025年10月23日

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イメージ:PIXTA

日常生活でふと感じる「手のふるえ」。多くの人が「歳のせい」と自己判断しがちであるが、実は治療できる病気かもしれない。

特に、薬で改善しない「本態性振戦」や「パーキンソン病」によるふるえに悩む人々にとって、近年「MRガイド下FUS(集束超音波治療)」という新たな選択肢が登場した。メスを使わず、頭を開けないこの治療法はどのようなもので、どんなメリットがあるのか。

厚地リハビリテーション病院(鹿児島県鹿児島市)でFUS治療に携わる、鹿児島大学脳神経外科助教の花田 朋子(はなだ ともこ)先生に詳しく話を聞いた。

ふるえは病気?

疲れたときにまぶたがピクピクとけいれんしたり、マラソンの後に足がつったりした経験はあるでしょうか。こういった一時的なふるえは、「生理的なふるえ」であり、特に心配はいりません。一方で、ご自身の意思とは関係なく体がリズミカルに動いてしまう症状が続き、日常生活に支障をきたす方もいらっしゃいます。この場合は治療を考えるべき「病的なふるえ」の可能性があります。

病的なふるえの原因で最も多いのが「本態性振戦」で、字を書こうとしたり、コップを持とうとしたり、何か特定の姿勢をとったり動いたりするときにふるえるのが特徴です。また、「パーキンソン病」によるふるえも多くみられ、こちらは逆に腕をだらんと下げてリラックスしているような、じっとしているときにふるえが出やすい傾向にあります。

ふるえの診断は時に専門家でも難しいことがあります。
ふるえに困っている方は自己判断せずに、まずは日本神経学会や日本専門医機構が認定した脳神経内科専門医に相談することが大切になります。

ふるえの治療、手術の前にできること

そもそも、なぜふるえが起きるのでしょうか。本態性振戦の原因はまだ完全には解明されていませんが、脳の奥にある小脳を中心とする神経回路のはたらきが乱れてしまい、その結果として「ふるえ」という症状が現れると考えられています。

その異常な信号が、脳の中心部にある視床という場所を中継して手足の筋肉に伝わって「ふるえ」となります。そこで治療では、この信号の中継地点である視床の一部をターゲットにし、この部分のはたらきを調整することで症状を抑えます。

ふるえで困って病院に来られた方への治療は、まずお薬を試すところから始まります。本態性振戦に対しては、保険適用となっているβ遮断薬のほか、抗てんかん薬や抗不安薬などを用いることがあります。パーキンソン病のふるえ(振戦)では、ドパミン補充療法などパーキンソン病に対する治療薬が基本となります。

しかし、お薬だけでは十分に効果が出なかったり、眠気やふらつきといった副作用で運転などができず、お薬を続けたくても続けられなかったりする方もいらっしゃいます。そうした場合に、次のステップとして外科的な治療が選択肢に入ってきます。

メスを使わない選択肢も。ふるえの手術法

外科治療には主に3つの方法があります。それぞれによい点と注意すべき点がありますので、ご説明します。

1つ目は、「MRガイド下FUS(集束超音波治療)」です。これは、ふるえの信号が通る神経の中継点である視床の一部に多数の超音波を集めて熱を加え、そこを熱凝固してふるえの流れを遮断する治療法です。ちょうど虫眼鏡で太陽光を集めて紙を焦がすような仕組みと考えると分かりやすいでしょう。

この治療の最大の特長は、頭皮を切ったり頭蓋骨(ずがいこつ)に穴を開けたりする必要がまったくないことです。また、MRIを使い、治療部位と温度を詳細に確認しながら治療できる点も大きなメリットと言えるでしょう。

2つ目は「DBS(脳深部刺激療法)」です。これは脳の深い部分に電極を植え込み、胸部の皮下に植え込んだ刺激装置からパルス状の電気を送ってふるえを抑える方法です。脳の組織を壊さないため、後から刺激の強さを調整したり、必要に応じて刺激を止めたりできるのがメリットです。従来は数年ごとに電池交換手術が必要でしたが、現在は希望すれば自分で充電できる充電式の装置も選ぶことができ、電池交換の回数を減らせるようになっています。
一方で、植え込み時には一般的に全身麻酔が必要であり、装置の維持や刺激の調整のため定期的な通院も欠かせません。

3つ目は「RF(高周波熱凝固術)」という、FUSやDBSが登場する以前から行われている治療です。頭蓋骨に小さな穴を開けて、そこから電極を治療部位まで進め、高周波電流で熱凝固させます。3つの選択肢の中では手術時間が短く、実績のある治療法ですが、FUSのようにMRIで温度を逐次確認することはできないため、臨床症状の観察をもとに進めます。

いずれの方法も、それぞれに特有の工夫と専門的な技術が必要です。脳の深部という大切な部分への治療ですから、患者さんは効果や安全性について医師から十分に説明を受けて理解し、納得したうえで、ご自身の希望に合う方法を選ぶことが大切です。

なお、治療費については、どの手術も保険が適用され、「高額療養費制度」が利用できます。そのため、患者さんが最終的に窓口で支払う自己負担額は、ご自身の収入や年齢によって決まった上限額となり、どの治療法を選んでも実はあまり大きな差はありません。
ただし、FUSは保険適用が一度しか使えないという制約があり、保険適用での治療は片側のみとなります。

FUS治療の実際と注意点

FUSは患者さんの負担が少ない治療ですが、いくつか知っておいていただきたいことがあります。治療の際には髪の毛を全て剃る必要があります。髪の毛があると超音波が散乱し、頭蓋骨を通過する前に予想外のエネルギーが発生してしまうため、正確かつ安全に治療を行うことができなくなるからです。また、頭蓋骨の厚さや内部構造によっては、超音波が吸収されたり散乱したりして十分に熱が上がらず、治療が難しい場合があります。そのため、治療の前には必ずCT検査で頭蓋骨の状態を確認します。その際は専用のコンピュータソフトで骨の厚さや構造を解析します。

このほか、心臓ペースメーカーなどMRI検査ができない金属が体内にある方や、治療中に数時間じっと横になっていることが難しい方はFUSを受けることができません。

もう1点、FUSの治療を受けられる医療機関は全国で18施設だけであることも留意してください(2025年9月現在)。一見、国内18施設というのは少なく思われるかもしれませんが、日本の国土や人口規模を考えると、実は世界的にも突出して多く、高い水準です。にもかかわらず、国民皆保険で治療を受けられる環境にありながら、過去の思い込み(「ふるえくらいで治療しなくてもよい」「脳外科手術は怖い」など)にとらわれ、情報が十分に届いていないのが問題です。これは国際的にも “Therapeutic inertia” と呼ばれる現象に当てはまります。

本態性振戦は一般人口の 0.5~1% にみられ、高齢者では有病率がさらに上昇します(Song et al., J Glob Health, 2021;Louis, J Clin Med, 2025)。単純計算すると、国内には数十万人規模の治療対象者が存在します。しかし、内科的治療は3~5割の方に効果が乏しいとされ(Deuschl et al., Lancet Neurol, 2011)、現状では年間400〜500例程度の患者さんがFUS治療を受けているにすぎません。

選択肢があることを知ってほしい

つまり、潜在的な患者数に比べて外科治療を受けている人はごく一部に限られているのです。診断すら受けていない患者さんもいるかもしれません。だからこそ、まずは「治療の選択肢がある」ことをもっと多くの方に知っていただく必要があると思っています。

私が鹿児島で診療していると、患者さんから「インターネットで調べて、鹿児島でもふるえの治療をやっていると知って驚きました」とよく言われます。長年ふるえに悩み、諦めていた方が、治療の存在を知ってようやく受診につながるケースが本当に多いのです。

ふるえは命に関わる病気ではありませんが、生活の質を大きく左右します。もしご自身やご家族がふるえで困っているのであれば、「年齢のせい」と諦めてしまう前に、一度、脳神経内科の専門医にご相談してみてはいかがでしょうか。その一歩が、これからの生活をより豊かなものに変えるきっかけになるかもしれません。

外科的な治療が可能な施設を探す際には、日本定位・機能神経外科学会のウェブサイトなども参考になるかと思います。1人で抱え込まず、ぜひ気軽に相談の扉をたたいてみてください。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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