概要

本態性振戦とは、はっきりした原因がないにもかかわらず、手や頭などが不随意に(意のままにならずに)震える病気のことです。基本的にふるえ以外の症状はありません。多くの場合、安静にしているときにはふるえは生じませんが、何らかの動作をしている最中や、ある一定の姿勢をとったときにふるえが現れます。病状が悪化すると日常生活に支障をきたしたり精神的な苦痛となったりするケースも少なくありません。ただ症状がひどくなっても手足が麻痺するようなことはありません。

本態性振戦の有病率は報告によってばらつきが見られますが、およそ人口の2.5~10%とされています。若年での発症も見られるものの、高齢者に多い傾向にあり、40 歳以上では4%、65 歳以上では5~14%以上で本態性振戦が認められたとの報告があります。

原因

本態性振戦の原因ははっきり分かっていません。そもそも医学的にいう“本態性”とは“原因が分からないもの”ということを意味します。パーキンソン病バセドウ病脳卒中アルコール依存症などの振戦(ふるえ)を引き起こす原因となり得る病気がないにもかかわらず発症する振戦のことを本態性振戦と呼ぶのです。

本態性振戦は精神的な緊張が高まったときに増強することが多く、疲れやストレスなどがたまったときにも悪化しやすくなる傾向があります。また、本態性振戦は家族内で発症するケースが多いとされており、遺伝的要素が関係している可能性も考えられています。

症状

何らかの動作をしたり、ある一定の姿勢をとったりするときに手や指、頭、などが小刻み(1秒間に4~12回)にリズミカルに震える“振戦”が現れるのが特徴です。また、振戦は精神的な緊張によって増強します。一方、お酒を飲むとふるえが軽くなることもあります。症状が強くなると、うまく字が書けない、箸が使えない、飲み物をこぼしてしまう、といった日常生活に支障をきたすような動作の障害や、声が震えるなど人前に出るのが苦痛になるような精神的ダメージを生じやすくなります。

検査・診断

本態性振戦は手や頭、声などのふるえ以外には体の異常が生じないため、血液検査や画像検査などを行っても異常を発見することはできません。本態性振戦の診断は、診察による症状の評価と他疾患の除外によって行われます。

振戦を引き起こすほかの病気の存在を否定するため、次のような検査が行われることがあります。

血液検査

バセドウ病など甲状腺機能の亢進によっても振戦が生じるため、血液検査で甲状腺ホルモン値、甲状腺刺激ホルモン値、抗甲状腺刺激ホルモン受容体抗体の有無などを調べることがあります。

画像検査

振戦は脳出血脳梗塞などによって引き起こされることもあるため、必要に応じて頭部CT検査や頭部MRI検査が行われることがあります。パーキンソン病の可能性がある場合には、ドーパミントランスポーターシンチグラフィーという核医学の検査を行うこともあります。

治療

本態性振戦の症状が軽い場合においては、治療が必要になることは少ないですが、日常生活や仕事への支障が出てきたり、精神的な苦痛によって活動性や社会性が低下したりするような場合には治療が考慮されます。つまり、この症状でどれぐらい患者さんが困っているかが治療を行うかどうかの判断の材料になります。

現在、本態性振戦に対して行われている治療には次のようなものが挙げられます。

薬物療法

本態性振戦に対する治療では、まず薬物療法を行います。第一選択となる薬は “β遮断薬”です。しかし、気管支喘息などがある場合はβ遮断薬を服用することはできません。β遮断薬に効果がないケースや使用できないケースでは、抗てんかん薬であるプリミドンや抗不安薬などが用いられることもあります。

*現在日本で保険適応となっているのはアロチノロール塩酸塩だけです。

手術療法

手術療法には高周波凝固術(RF)と脳深部刺激療法(DBS)の二つがあります。高周波凝固術(RF)は、脳深部の視床腹側中間核(Vim核)に凝固針を刺入して高周波で熱凝固させる方法です。脳深部刺激療法(DBS)では、同じ部位に対し電極を留置して電気刺激を与え、振戦(ふるえ)に関わる脳内の異常信号を調整します。

集束超音波治療(FUS)

集束超音波治療は、手術を必要とせず、頭蓋の外側から照射した超音波を脳深部の視床腹側中間核(Vim核)へピンポイントに集中照射し、超音波のエネルギーによって同部位を熱凝固させる治療です。2019年6月より、本態性振戦に対して保険承認され、新しい治療法として注目されています。

ボツリヌス毒素療法

ボツリヌス毒素療法は、ボツリヌス菌の毒素が持つ筋の緊張を和らげるはたらきを利用したものです。本態性振戦においては保険適用外ですが、一部の症例に対してボツリヌス毒素療法を実施することがあります。

ガンマナイフ(定位放射線治療)

ガンマナイフという放射線治療装置を用い視床腹側中間核(Vim核)に定位的に(ピンポイントに)放射線(ガンマ線)を照射し、同部を破壊する治療法です。効果発現までに時間が掛かり、放射線の副作用の可能性も考慮する必要があります。また、現在は保険適応となっていません(2020年6月時点)。

日常生活の注意

本態性振戦は精神的緊張で症状が強くなり、ストレスや疲労でも悪化する傾向があります。カフェインの摂取も症状を増悪させますので、できるだけそれらを避けるようにすることが大切です。お酒を飲むとふるえが軽くなることもありますが、アルコール依存症になる恐れがあるのでふるえを抑えるための飲酒は避けてください。また日常生活に支障をきたすような症状がある場合は、自助具などを用いるのもひとつの方法です。

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本態性振戦を得意な領域としている医師

  • 医療法人偕行会 名古屋共立病院 副院長(集束超音波治療センター・センター長 名古屋放射線外科センター・ センター長)

    • 本態性振戦
      • (MRガイド下経頭蓋)集束超音波治療
    • 脳腫瘍
      • 定位放射線治療(ガンマナイフ、ノバリス)
    • 三叉神経痛
      • 定位放射線治療(ガンマナイフ、ノバリス)
  • 国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科 部長

    • てんかん
      • 鑑別診断
      • 薬物治療
      • 外科治療(特に乳幼児のてんかん外科)
    • パーキンソン病
      • 脳深部刺激療法
      • 定位的凝固術
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