連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

埼玉県西部のがん治療を強化する―放射線治療装置「リニアック」導入

公開日

2025年09月05日

更新日

2025年09月05日

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2025年09月05日

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所沢美原総合病院 鈴木 昭一郎先生(右)・加藤 眞吾先生(左)

がんの治療の中でも「手術療法」「薬物療法(抗がん薬治療)」「放射線治療」は3大治療法とされている。その中で放射線治療は、がんに狙いを定めて放射線を当ててがんを制御する治療法だ。

放射線治療は、一般的に手術や抗がん薬に比べて体への負担が軽く、高齢者や、心臓や肺に合併症を抱えている患者さんでも治療をすることができる。また「切らずに治す」ことが可能なため、QOL(生活の質)の保持に優れていることが大きな特徴だ。

放射線治療装置「リニアック」を導入する医療機関の思いを、所沢美原総合病院(埼玉県所沢市)の病院長・鈴木 昭一郎 (すずき しょういちろう)先生と放射線治療センター長・加藤 眞吾(かとう しんご)先生に伺った。

放射線治療とは?

高エネルギーの放射線が当たるとがん細胞のDNAはダメージを受け、がん細胞は死にます。この効果を利用した治療法が、がんの放射線治療です。使われる放射線の種類には、X線・ガンマ線・陽子線・重粒子線などがありますが、一般的にはX線を用いた治療が世界中で広く行われています。「リニアック」とは、高エネルギーのX線を発生させる放射線治療装置のことです。

この十数年間で放射線治療技術は急速に進歩しました。CTやMRIなどのさまざまな画像を放射線治療に応用して、がんがある部分には大量の放射線を当てるとともに、がんの近くにある正常な臓器・組織には放射線をなるべく当てない高精度の治療技術が開発されました。代表的なものとして、強度変調放射線治療(IMRT)*と定位放射線治療(SRT)**があり、当院のリニアックでも、IMRTやSRTなどの高精度放射線治療を1台で行うことができます。どちらの治療法も幅広い種類のがんの治療に用いることができ、従来行われていた放射線治療法よりも明らかに副作用が少なく、高い治療効果が期待できることも特徴です。

さらに、高精度の放射線治療と手術や薬物療法などの他の治療を組み合わせることで、治療成績の更なる向上が期待できます。現代のがん治療で、高精度の放射線治療はとても大きな役割を担っていると言ってよいでしょう。

*IMRT:比較的大きく複雑な形のがんに対して、放射線の形と強度を細かく調整することで、がんへ適切に放射線を照射する方法
**SRT:5cm以下の比較的小さながんに対して、多くの放射線量を多方向からピンポイントで照射する方法

治療の流れ

放射線治療の流れを簡単にお話ししましょう。まず外来で診察をし、画像検査でがんの位置や大きさを確認します。その後、治療計画のためのCTを撮影し、その画像を用いて照射プランを立てます。治療計画CTの翌日ないし数日後に放射線治療を開始します。治療は原則として1日に1回、1週間に5回のペースで行います。1回の治療時間は10~20分程度です。患者さんの多くは通院で治療することができます。

なお、現在のがん治療では外科や内科、放射線治療科など複数の診療科がチームとなり、患者さんの治療にあたっています。さらに、それぞれの診療科内でもさまざまな職種のメンバーが治療に携わっています。放射線治療では、放射線治療医だけでなく看護師、診療放射線技師、医学物理士*、放射線治療品質管理士**といった専門職がチームで患者さんを支えています。

立場が異なる専門職がチームで治療にあたることにより、さまざまな視点を踏まえ、よりよい治療法の設計が目指せます。今後もがんの3大治療法を組み合わせる集学的治療をチームで行うことで、がんの治療はますます進化していくでしょう。

*医学物理士:一般財団法人 医学物理士認定機構認定
**放射線治療品質管理士:一般社団法人 日本放射線治療品質管理機構認定

埼玉県西部のがん治療へ貢献

リニアックは、日本の多くの医療機関で導入されている放射線治療装置です。しかし、実は所沢、狭山、入間、飯能といった埼玉県西部の地域は、東京のベッドタウンとして非常に多くの人口を抱えているにもかかわらず、昨年まで防衛医科大学校病院を除けばリニアックが導入されている医療機関はほとんどなく、首都圏にありながら放射線治療の提供は十分とはいえませんでした。

そのため多くの患者さんが遠方の医療機関へ通院しなければならないという状況が続いていました。しかし、がんの患者さんが遠くの病院に治療のために通院するのは、体力的にも経済的にも精神的にも負担が大きいものです。

こうした背景から、地域での充実したがん医療の提供を目指して当院でのリニアックの導入に踏み切りました。当院ではこれまで手術と薬物療法を提供していましたが、放射線治療が可能となったことで、この地域の方々が地元でよりがん治療を受けやすい環境の整備に貢献できたのではないかと思います。

また、放射線治療は、がんの根治を目指すだけでなく、骨転移による痛みやがんからの出血などのつらい症状を和らげる効果もあります。これを「緩和的放射線治療」といいます。1回から数回程度の治療で症状の緩和が得られることが多く、かつ副作用の心配はほとんどありません。当院では、地域の緩和ケアを提供する施設とも連携しながら、がんの緩和ケアにも積極的に取り組んでいます。

埼玉県西部の地域のがん治療は、当院がリニアックを導入したことでより充実することとなりました。今後も住み慣れた地域で安心して治療を受けられる環境が広がっていくよう、地域の他の医療機関や行政と力を合わせていきたいと考えています。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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