連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

「肛門が腫れて痛い……」 知られていないが患者は多い「肛門周囲膿瘍」の症状と治療法とは

公開日

2025年06月24日

更新日

2025年06月24日

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2025年06月24日

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筑波胃腸病院 理事長 鈴木隆二先生

いぼ痔、切れ痔、痔ろうという病名を知っている人は多いだろう。だが、「肛門周囲膿瘍」については知らない人が多いのではないだろうか。
肛門が膿んで腫れ、痛みを我慢しているうちに痔ろうへと進行してしまうことがある肛門周囲膿瘍について、筑波胃腸病院の理事長である鈴木 隆二(すずき りゅうじ)先生に伺った。

「肛門が腫れて痛い……」 その症状、肛門周囲膿瘍かも

肛門周囲膿瘍は、肛門の奥にある「肛門腺」から大腸菌などの細菌が入り、炎症を起こして膿瘍(化膿して膿がたまった状態)ができた状態のことをいいます。「痔」の中でも患者さんが多い病気ですが、病名を知っている方は多くないでしょう。
症状としては痛みや腫れ、膿の排出、そして悪臭などを伴うことが多く、症状が急速に進行するのが特徴です。たとえば、ある患者さんは「最初はちょっとした違和感だったけれど、数日で強烈な痛みと共に膿が出てきた」と訴えて来院されました。こうした急激な変化があれば、肛門周囲膿瘍の可能性があると考えてよいでしょう。
体格や膿がたまる位置によって症状の現れ方が異なります。加えて、熱はないけれど体がだるい、何となくお尻に違和感があるといった曖昧な不調を訴える方もいます。
とくに体格のよい方は膿が深部にたまりやすいため、ご本人でも気付きにくく、視診でも分かりづらいためにCT検査が必要になることがあります。

肛門周囲膿瘍から痔ろうへ(イメージ:PIXTA)
肛門周囲膿瘍のでき方(イメージ:PIXTA)

症状が進行すると手術が必要な「痔ろう」になるリスクも

肛門腺は誰にでもある組織で、普段はそこから細菌が入り込むことはめったにありません。しかし、疲れがたまったときや体調を崩したとき、あるいはストレスなどで免疫力が落ちているタイミングでも発症しやすいとされています。また、便秘や下痢を繰り返す方も発症リスクが高まります。
この病気がやっかいなのは、前述のように膿が深部にできている場合だと分かりにくいため、医療機関によっては適切な処置がされない場合があることです。
治療が遅れたり、膿瘍が繰り返されたりすると、膿が逃げる通り道として瘻孔(ろうこう)(トンネル)が形成され、痔ろうという慢性疾患に移行してしまいます。痔ろうになると、手術が必要になり、入院や術後の通院も必要となるため、患者さんの負担は大きくなります。

肛門周囲膿瘍から痔ろうへ
肛門周囲膿瘍から痔ろうへ(イメージ:PIXTA)

 
肛門周囲膿瘍の段階で治療しておけば、痔ろうに進行せずに済むケースが多くあります。実際、痛みが強くなってから来院された患者さんが、治療後すぐに痛みが和らぎ、安心した表情で帰られる姿を見ると、早期受診の大切さを実感します。

治療の基本は「排膿」

治療の原則は膿を出すことです。腫れが大きく膿がたまっているようであれば、切開して膿を排出する必要があります。
ただし、症状が比較的軽く、まだ炎症が広がっていない段階であれば、抗生剤を用いて保存的に治療することも可能です。

私が治療をする場合、患者さんの生活の質を守るためにも切開を避けられる状態なら無理に排膿はしません。実際、抗生剤を使用して3〜4日で改善した方も多くいらっしゃいます。
市販薬にも抗生剤と同じ成分が入っているので、適切に使用すれば効果があるでしょう。ただ、市販の軟膏を自己判断で試して悪化したり、繰り返し発症したりする方もいらっしゃいます。お尻の病気は恥ずかしさもあり、積極的に受診される方は多くないのですが、できれば医師の正しい診断のもと、適切な治療を受けていただきたいと思います。

予防には生活習慣の見直しが鍵

肛門周囲膿瘍は、進行するとつらい痔ろうになる可能性がある病気です。予防のためには便秘や下痢を避けることに加え、食事のバランス、適度な運動、そして十分な睡眠がとても大切です。また、疲労やストレスによって免疫力が落ちていると感じたときには、適度に休息を取ることも予防につながるでしょう。

それでも肛門に痛みを伴う腫れが出たり、紙で拭いたときに白っぽい膿がついたりするといった症状が出た場合は、恥ずかしがらず、早めに医療機関を受診してください。

恥ずかしがらず受診を―進む医療機関の配慮

お尻の病気全般にいえることですが、「恥ずかしい」という気持ちが受診を遅らせ、症状を悪化させる要因にもなっていると考えています。しかし、我々は患者さんの苦痛を取り除くことだけを考え、患部を病気として診て治療を行っています。
また近年は多くの医療機関が患者さんのお気持ちを考え、診察室にはしっかりと間仕切りを設け、女性の患者さんには女性スタッフが同席するなど、プライバシーや恥ずかしさに対する配慮を行う医療機関が増えてきました。
早期発見、早期治療のためにも、恥ずかしがらず、遠慮せずに受診をしていただければと思います。

お尻の違和感を放置しない―適切な医師選びと早期受診を

「お尻が痛いけれど、どこの病院に行けばよいのか分からない」という声もよく聞きます。もちろん内科の先生が診ることも可能ですが、切開や縫合といった処置が必要になる場合には、やはり外科医のほうがスムーズに対応できます。
現在ではインターネットを使って自宅の近くで肛門の病気を診ることができる医療機関を探すことができるので、その際は外科のバックグラウンドを持ち、肛門の病気に日常的に対応している医師を探してください。日本大腸肛門病学会などが公開している医療機関検索サイトも参考になるでしょう。
肛門周囲膿瘍は、初期段階で適切な処置を受ければ、切開や入院をせずに済むことも少なくありません。しかし、放置してしまうと痔ろうに進行し、治療も長引いてしまいかねません。体の不調をきちんと診てもらうという気持ちで、ぜひお気軽に医療機関を受診してください。
 

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