医療法人社団円徳 理事長 北城 雅照先生
関節の痛みやしびれ、腰痛――こうした身近な不調に対して、「そもそもどの医療機関で診てもらえばよいのか?」と考える人も多いのではないだろうか。
なんとなく「整形外科だろう」とは思うものの、実際にはリウマチのようにどの科へ行くべきか迷う病気もあるほか、整形外科を標榜する医療機関はクリニックから大学病院まであり、どこへ行けばよいのか悩む人もいるだろう。
そんな整形外科の病気の受診先に関して、慶友整形外科脊椎関節病院や足立慶友整形外科の理事長である北城 雅照(きたしろ まさてる)先生に知っておくべきポイントを伺った。
ひざや腰が痛い、手足がしびれる、といった不調を感じたとき、一体どの医療機関へ行けばよいのかと迷ってしまう――そんなときは「症状」から判断するのがよいと考えています。
整形外科は全身の骨や関節、神経に関する病気を幅広く診る診療科です。たとえば、首、肩、腰、股、膝、足首などの関節に痛みや腫れがあれば、まず整形外科を受診してください。
手足のしびれがある場合も、背骨や脊髄(せきずい)が原因となっていることがあり、やはり整形外科の対象です。骨折やけがのように分かりやすい外傷だけでなく、皮膚の下にしこりのようなものができたときにも、まず整形外科にご相談ください。
リウマチのように内科か整形外科か迷いやすい病気もありますが、関節の腫れや痛みといった症状があるなら、最初は整形外科に来ていただくのがよいでしょう。
それが整形外科で治療すべきものか、あるいは他の科の病気なのかは、私たちが診察したうえで判断します。「これは整形外科で診てもらうべきなのか?」と悩まれたら、まずは一度、お近くの整形外科のドアを叩くことをおすすめします。
体に痛みを覚えたとき、不安のあまり「設備の整った大きな病院のほうが安心だ」と考えて、最初から地域でよく知られている中核的な病院や大学病院を選ぶ方も少なくありません。週末に家族で出かけるとき、「絶対に外したくない」と思って有名なテーマパークを選ぶように、有名な医療機関へ行きたくなる気持ちはよく分かります。
しかし、現在の医療では医療機関それぞれに適切な役割分担、いわば「すみ分け」が存在しており、最初はお近くのクリニック(診療所)へ行っていただくのが正しいルートとなっています。
クリニックはさまざまな症状に対する最初の相談窓口であり、簡単な検査を経て診察を行い、治療の方向性を決めたり、必要に応じてより専門的な病院を紹介したりする、初期診療の拠点といえます。
クリニックでの診察の結果、手術など専門的な治療が必要になれば、それが可能な病院に紹介されます。そこでは膝関節(しつかんせつ)や脊椎など特定の分野に特化した診療が受けられます。また、糖尿病や心臓病といった持病を抱えている場合には、大きな病院で複数の診療科の連携という強みを生かした治療を進めていくことになります。
こうしたすみ分けを知らずに、専門的な治療や他の科との連携が特に必要でない方が最初から大きな病院に行ってしまうと、そこでしか救えない患者さんのもとに医療資源が届かなくなってしまいます。これは社会全体にとって大きな損失です。
整形外科の病気に限らず、病気で受診をする際はまず、お近くのクリニックにかかるようにしていただきたいと思います。
とはいえ、整形外科にかかる患者さんは今でも最初から大きな病院へ行ってしまう方も多いのではないでしょうか。これについては、行ったクリニックの医師が自分に合う医療を提供してくれるかどうか分からないことが原因の1つではないかと感じています。俗に「医者ガチャ」と呼ばれるこの状況は、患者さんにとって非常に切実な問題だと思っています。
残念ながら、これを100%避ける確実な方法はありません。しかし、よいクリニックを発見する確率を高めるための視点は存在します。
1つ目は、医師の専門性の証である「学会や日本専門医機構が認定した専門医資格」を持っているかです。これは医師として一定水準以上の知識や技量があることを学会が認定したものですから、1つの判断基準になります。整形外科であれば日本整形外科学会が認定した「整形外科専門医」の資格を持っているか、確認してみてください。
2つ目は、その医師が学び続けている姿勢を見せているかどうかです。医療は日進月歩で進化しています。開業したときの知識のままでは、すぐに時代遅れになってしまうでしょう。
注目していただきたいのはホームページやSNSでの発信です。「学会に参加してきました」「新しい治療法についてスタッフと勉強会を開きました」といった投稿があるか見てみてください。そうした発信は、その医療機関に新しい知識を吸収し、患者さんに還元しようという姿勢がある証拠といえます。
3つ目は、そのクリニックが質の高いリハビリテーションを提供しているかどうかという点です。整形外科の治療では、症状の回復を支えるリハビリテーションが非常に重要です。そして、これを適切に行うには専門知識を備えた「理学療法士」の存在が欠かせません。
ここで注意いただきたいのは、整形外科のクリニックで行っている低周波の電流による刺激で患部にアプローチする電気療法は、理学療法士でなくともできることです。そして、理学療法士がいないクリニックの中には、電気療法だけをリハビリテーションとして提供しているところもあります。
電気療法はもちろん効果の期待できる治療ですが、理学療法士がいることで可能になる運動療法(筋力増強訓練、歩行訓練、バランス訓練など)を組み合わせることで、より高い効果が期待できます。質の高いリハビリテーションを受けるためには、ホームページなどで理学療法士が在籍しているかどうかを確認してみるのもよい方法でしょう。
また、これらの客観的な情報以上に頼りになるのが、信頼できる人からの「口コミ」です。特にご自身の友人やご家族が実際に通って「よかったよ」という情報は、何より価値があります。
さらに、内科でも皮膚科でも、あなたが心から信頼している「かかりつけ医」がいるのなら、その先生に「どこかよい整形外科はありませんか」と尋ねてみるのもよい方法の1つです。医師は、どこによい医師がいるかという情報をよく知っているからです。
私は、「医者ガチャ」という言葉が世の中からなくなる社会を目指したいと本気で思っています。そのためにも、患者さん自身が賢明な視点を持ち、主体的に医療機関を選ぶことが大切です。患者さんの一つひとつの選択が、質の高い医療を提供する医療機関を育てていきます。ぜひその賢明な選択を通じて、ご自身が納得できる治療と、よりよい医療の未来の作り手となっていただけたらと思います。
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