連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

不整脈の1つ「心房細動」新たな治療が登場―心疾患に潜む危険性 第2弾

公開日

2025年03月28日

更新日

2025年03月28日

更新履歴
Ba19290fa3

突然脈が速くなったり遅くなったりと、不規則になる「不整脈」。さまざまな種類、原因があり、中には命に関わる危険なものもあります。近年、不整脈に対する治療は進化しています。国内では2024年から心房細動に対する新治療「パルスフィールドアブレーション」が保険適用になり、治療の幅が広がりました。国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院(神奈川県横須賀市米が浜通)の副院長であり、心房細動全般に造詣が深い高橋淳先生と、循環器内科部長で新治療に詳しい田中泰章先生に、不整脈の注意点や新治療のメリットについて聞きました。

脈の不安、自己判断せず専門医に相談を

不整脈とは、心臓の中で電気信号の流れに異常が起こり、脈拍が正常なリズムでなくなる状態です。不整脈は健康な方にもみられ、緊急性がないものもあります。しかし、その不整脈が早急な治療を必要とするものであるかを判断することは日本不整脈心電学会が認定した不整脈専門医でなければ困難です。

高橋先生は「些細な違和感であっても病院に行くことを躊躇(ちゅうちょ)する必要はありません。無症状だからといって心配がないとも限らないのが不整脈の難しい点といえるでしょう。自分で脈の乱れを感じたり、検診で異常がみられたりした際には決して放置せず、不整脈の専門医に相談してください」と呼びかけます。

不整脈には脈がゆっくり打つ「徐脈性不整脈」、早くなる「頻脈性不整脈」などがあり、病態によって症状や治療法が異なります。徐脈性不整脈は足りない脈を補うペースメーカーによる治療が主な治療法です。

頻脈性不整脈の中でも患者数が多く、治療の対象になる頻度が高いのは心房細動です。心臓の中の心房という部分が細かく震えたようになる病気で、それに伴って心臓の拍動がバラバラになり、血液をうまく送り出せなくなるのです。動悸や胸の違和感がみられることもありますが、自覚症状がないケースも少なくありません。

心房細動を放置すると心臓のポンプ機能が徐々に低下し心不全を引き起こすことがあるほか、心房内で血液がよどみ、血栓ができやすくなります。この血栓が血流によって脳の血管に達することで脳梗塞の原因となることもあります。

安全性向上、手術時間も短縮「パルスフィールドアブレーション」

心房細動の治療選択肢には薬物療法と、カテーテルアブレーション(カテーテル手術)があります。アブレーションとは心房細動の原因となる異常電気信号が心臓全体に伝わらないようにするために、心筋の一部を壊死(えし)させる治療です。特に肺静脈という血管の周辺がこの異常電気信号の好発部位で、この周辺に治療を行うことが基本となります。これまでは壊死を作るために高周波通電による熱傷や、低温冷却による凍傷を用いることが一般的でした。

このアブレーションの新たな選択肢として、「パルスフィールドアブレーション」というカテーテル治療が登場しました。国内では2024年9月に保険適用となり、同病院でも同年秋から治療を開始しています。

「この治療では心筋に壊死を作るために用いるエネルギーが、熱を使わないパルス状の電流に変わります。これにより医師、患者双方に多くのメリットが生まれました」と田中先生は説明します。

これまでのアブレーション治療では、壊死させるときの熱が心筋に均一に伝わるまでに時間がかかるという課題がありました。また、心臓の近くにある食道や横隔膜の神経などに熱が伝わってしまい、悪影響を及ぼす危険性もあります。これらが起こる頻度は高くはありませんが、場合によっては命に関わる合併症を起こす懸念もありました。

パルスフィールドアブレーションはカテーテルの先端から電流をパルス状に流すことで細胞を壊死させます。エネルギーは心臓のみに作用するため、心臓以外の周辺の臓器に影響を及ぼすリスクが解消されました。

横須賀共済病院 田中泰章先生

横須賀共済病院 田中泰章先生

田中先生が特に強調するのは、安全性の向上です。「従来のアブレーションは周辺の組織に影響を及ぼすリスクがあったことから、『根治を目指して治療を受けたいが、合併症のリスクが不安』という患者さんもいました。しかし、新たな治療はそのリスクを低減できます。

特に食道などへの影響を心配する必要がなくなった点が大きく、さらには手術中の温度変化を確認するために口や鼻から入れていた温度計が不要になったため、体への負担も軽減されました」

医師側のメリットは手術時間の短縮です。パルス電流は数秒程度という極めて短時間で壊死させることができるため、従来の熱や冷却によるアブレーションよりも手術時間が短くなります。

「たとえば、心房細動の基礎の治療となる肺静脈周辺のアブレーションは、これまで30~40分かかっていました。しかしパルスフィールドアブレーションでは15分程度で治療可能です」

同病院では短縮された時間を使って、肺静脈以外の部分から出ている異常な電気信号も見つけて治療しているといいます。

なお、パルスフィールドアブレーションは欧米を中心に海外ではすでに一般的な治療として数多くの実績があり、安全性やノウハウがそろってきている治療といえます。

「心臓」を預ける治療先、納得いく病院選びのポイントは

新たな治療法のパルスフィールドアブレーションは、2024年9月に保険適用となった当初は実施している病院が限られていましたが、ここ数か月で治療できる病院はどんどん増えています(2025年3月現在)。そのなかで、どのような病院を選べばよいのでしょうか。

「早期治療はもちろん重要ですが、心房細動は今すぐに治療しないと命にかかわる病気ではありません。治療には時間的な余裕があるので、病気や病院のことをよく調べて、納得のいく治療を受けていただければと思います」と田中先生は言います。

「心房細動に対するカテーテルアブレーションは、肺静脈以外の心筋から発生する異常な電気信号がある場合、肺静脈周囲だけのアブレーションでは治りません。発生源を探してピンポイントでアブレーションを行う必要があり、技術的に難しい手術なのです。手術を受ける際には信頼できる不整脈の専門医がいるかどうか、多くの症例数があるかなどに注目し、慎重に病院を選んでください」

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

メディカルノートをアプリで使おう

iPhone版

App Storeからダウンロード"
Qr iphone

Android版

Google PLayで手に入れよう
Qr android
Img app