日本人の約半数が、痔にかかっているといわれる。いわゆる痔の3大疾患といえば痔核(じかく)(いぼ痔)、痔ろう(あな痔)、裂肛(切れ痔)だが、中でも痔ろうは痛みが強く、また治療にあたっては基本的に手術が必要となる。さらには、痔ろうだと思ったら実は難病に指定されているクローン病だったということもあるという。
痔ろうの概要や治療法、病院に行くべきタイミングについて、家田病院(愛知県豊田市)の理事長・院長の家田 純郎(いえだ すみろう)先生に話を伺った。
痔ろうとは、肛門(こうもん)と直腸の境目にある波状の組織「歯状線」の先端部分である「肛門陰窩(こうもんいんか)」が細菌に感染し、そこにたまった膿がお尻にまで到達するトンネル(瘻管)を通って外に繰り返し排出される病気です。
とくに下痢のような柔らかい便をすると、肛門陰窩まで便が到達して細菌感染が起こりやすくなります。細菌感染によって膿がたまると、我々の体は膿を体外に排出しようとしてお尻の外側に向かってトンネルを作ります。その結果、痔ろうになるのです。
ちなみに、膿が排出される前の段階では肛門の周囲に膿を含んだ腫れが起こります。これを「肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)」といい、下着が擦れるだけでも痛みを感じます。痛みは膿瘍を切開することで治まりますが、すでに直腸からお尻まで膿が通るトンネルが開通しているため、繰り返し膿がたまって腫れ、そのたびに痛みを感じるようになります。
痔ろうは自然に治ることはほとんどなく、完治のためには手術を行うしかありません。手術を嫌がって放置しているとトンネルが迷走して痔ろうが広がってしまうこともあるので、なるべく早く手術を受けましょう。
手術ではトンネルを切除します。入院期間は当院の場合、10日から長い場合は2・3週間ほどです。また、トンネルの状態により肛門周囲の筋肉(括約筋)の損傷が大きくなる可能性があるときは、括約筋を温存する手術や、「シートン法」と呼ばれる特別なゴムの輪っかを使って括約筋を残しながらトンネルを処置する方法が取られる場合もあります。
痔ろうにはもう1つ、気をつけたい点があります。若い痔ろうの患者さんで膿の通るトンネルが複雑な形状をしている場合、その痔ろうは難病である炎症性腸疾患のクローン病から来た可能性があるのです。
難病に指定されているクローン病は繰り返す炎症により腸の壁に穴が空いたり、腸が狭くなったり、栄養吸収能力が低下して体重減少を引き起こすため、痔ろうとは別の専門的な治療が必要です。しかし、単なる痔ろうなのかクローン病に伴う痔ろうなのかは、肛門治療を専攻していない医師ではなかなか見分けがつきません。若い方で痔ろうを発症している方は、できるだけ肛門の外科手術の実績が豊富な医療機関で診てもらうのがよいでしょう。
痔ろうの場合、肛門の周囲にできた膿を含んだ腫れがあって痛みがあったり、下着に膿が繰り返し付くようなら医療機関で診てもらったりしたほうがよいでしょう。診察でお尻を見せることは恥ずかしいという方も多いでしょうが、放置するほど治療が難しくなる一方です。
痔ろうの治療を思い立った際は、できる限り肛門疾患を専門とする病院に行くか、日本大腸肛門病学会や日本臨床肛門病学会に所属する医師に診てもらうことをおすすめします。医師は2つの学会のホームページから検索できるので、ぜひご自宅の近くの医療機関を探して診察を受けてください。
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