痔で悩んでいる人は多いものの、気軽に医療機関を受診できず、市販薬を使いながら生活している人は少なくない。しかし、放置しておくと症状が進行する場合や、他の重篤な病気が潜んでいる可能性があり、「早めに専門的な診察を受けることが大切だ」と土庫病院(奈良県大和高田市)の吉川周作院長は語る。そんな吉川院長に、痔の中でも特に患者さんが多い「痔核(いぼ痔)」について、特徴や診察の様子、予防法などについて詳しく聞いた。
肛門の3大痔疾患といわれているのが「痔核(いぼ痔)・裂肛(切れ痔)・痔ろう(あな痔)」の3つです。その中でもっとも多くの方を悩ませているのが「痔核」で、いぼができる場所によって内痔核と外痔核に分類されます。お尻の構造を簡単に説明すると、外側の皮膚は肛門の中で直腸の粘膜につながります。その境目を歯状線と呼び、歯状線より内側(粘膜側)にできるのが内痔核、外側(皮膚)にできるのが外痔核で、内側から外側にまたがるように腫れる内外痔核もあります。
内痔核の主な症状には、いきむとたるんだ直腸の粘膜が肛門の外側に出てくるものと、静脈叢と呼ばれる肛門内部の血管にいぼ状の突起ができて血が出るものがあります。後者の場合、患部は痛覚がほとんどない粘膜なので、出血を伴うもののあまり痛みを感じないのが特徴です。患者さんによっては診察時に「出血するけど痛くないから痔ではないですよね」とおっしゃる方もいます。
外痔核は肛門の外の皮膚が患部となり、そこが腫れると痛みを感じます。中でも血豆ができる血栓性外痔核は強い痛みを伴うことがあり、破れると出血します。ただ、手の指などにできた血豆のように、安静にしていれば時間とともに吸収され、同時に痛みも引いていきます。また、外痔核と関係が深いのがお産です。出産時にいきむと痔核の症状が現れますが、時間が経過すると腫れが引くため手術をすることはありません。その代わり、肛門周辺の皮膚がたるむ(肛門皮垂)ことが多く、出産を経験した女性からの相談が多く寄せられます。こうした症状も外痔核に含まれます。
内外痔核は、内痔核がお尻の外に出てくる際に、外側にある血管を巻き込むように腫れが広がった状態を指します。内側の痔核は痛みをそれほど感じませんが、外側にある痔核は痛みを伴うのが特徴です。
痔の診察は、目による“視診”と指による“指診”で行います。次に肛門鏡を使った診察を行います。また、「お尻から何か出ている」といった場合には、トイレで排便する姿勢でいきんでいただき、便が出そうになる様子をカメラ越しに観察する“怒責診”も行います。このような話を聞くと抵抗を感じてしまうかもしれませんが、「怒責診をしますか?」と聞くと、ほとんどの患者さんがお願いしますとおっしゃいます。それだけ、日常生活で不快な思いをされているということだと思います。
また、出血を伴う場合は、大腸がんが疑われることから内視鏡検査を行います。指診もしますが、指が届くのはせいぜい5cmです。その先にある直腸やS状結腸のポリープから出血していると、重篤な症状を見逃すことにつながります。それに将来、肛門や直腸のがんで人工肛門になってしまう方を1人でも減らしたいとの思いがあり、痔核が判明している患者さんでも、内視鏡検査は欠かせないと考えています。出血がある方は痔だけでなく、大腸がんも視野に入れて内視鏡検査を受けることをおすすめします。
肛門周辺の血管が腫れるタイプの内痔核は、重い荷物を持つことが多い人や、排便時に強くいきむ人などがなりやすく、肝硬変の方にも見られます。一方、粘膜がたるんで出てくるタイプの内痔核は年齢が高い人がなりやすく、お尻の筋肉の衰えもある程度影響しています。このように痔核にはそれぞれ傾向がありますが、共通していえるのは、トイレに長く座る習慣がある人がなりやすいことです。実は、洋式トイレの便座は、お尻を支えている肛門付近の筋肉(肛門挙筋)が伸びやすく、長く座っていると痔核になりやすくなります。さらに、トイレで座っている状態はうっ血(静脈に血がたまること)しやすいことから、便座に座っている時間は3分、長くても5分以内にとどめることが理想です。
トイレで新聞や本を読んだり、スマホをいじったりして長時間座っている人は、その習慣を早めに改善したほうがよいでしょう。
痔核は市販の軟膏や坐薬だけで良くなる人もいることから、診察を受けることに二の足を踏んでしまうかもしれません。しかし、症状が悪化すると生活に支障が出て、手術が必要になることがあります。そのため、お尻に「痛い・何か出てくる・ちょっと出血する」といういずれかの症状がみられたら、早めに医師に相談することをおすすめします。また、肛門からの出血は他の病気の可能性もあることから放置は厳禁です。
どの病院を受診しようか迷ったら、日本大腸肛門病学会が認定した大腸肛門病専門医や、日本臨床肛門病学会の認定医のいる病院がおすすめです。また、先生によっては手術をなるべく回避して、保存療法を積極的に取り入れるなど、特徴のある診療方針をお持ちの先生もいらっしゃいます。専門的な治療を希望される場合にはホームページなどを確認して、ご自身が希望する治療を得意としている先生を訪ねるとよいでしょう。
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