連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

胸の痛み「年のせい……」は禁物!誰にでも起こりうる突然死―心疾患に潜む危険性 第1弾

公開日

2025年03月21日

更新日

2025年03月21日

更新履歴
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日本人の死因のうち、心疾患はがんに次ぐ第2位。発症後24時間以内に死亡する「突然死」の中で最も多いのは心臓突然死です。この心臓突然死の多くを占める「虚血性心疾患」は、自覚症状がなく気付かないうちに進行し、健康だと思っていた人でも突然発症することがあります。特に高齢者は、お風呂場などでの寒暖差が引き金となり心筋梗塞などを発症する「ヒートショック」にも注意が必要です。命を脅かす危険な虚血性心疾患について、国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院(神奈川県横須賀市米が浜通)の先生に全3回で解説いただきます。第1弾は虚血性心疾患の症状や日常生活における注意点について同病院循環器内科の疋田浩之先生に聞きました。

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横須賀共済病院 疋田浩之先生

7割5分まで血管が狭まっても症状なく「ある日、突然」の恐ろしさ

「自覚症状や前兆がまったくなかった方がある日突然、心筋梗塞になって救急搬送されてもおかしくないのです」

疋田先生は、重症化すると突然死を引き起こすこともある虚血性心疾患へ警鐘を鳴らします。虚血性心疾患は、心臓に酸素や栄養を含む血液を送り込む冠動脈という血管が、動脈硬化により狭くなったり閉塞したりして、心筋に血液が流れなくなることで発症します。代表的なものは狭心症と心筋梗塞です。

心筋に送り込まれる血液が不足することで胸が痛くなるなどの症状が現れるのが狭心症。階段を上がったときや重いものを持ち上げたときに胸が苦しくなるが少し休むと楽になるタイプ、就寝中など安静にしているときに症状がみられるタイプなどがあります。これらが進行し、血管内に血栓ができて完全に詰まってしまい、血液が届かなくなり心筋が壊死(えし)を起こすのが心筋梗塞です。

「血管の半分ほどが狭まっている段階では症状がないことも多いです。7割5分くらい狭くなってきたところに血栓が来て、突然詰まってしまいます」

これらの病気は高齢の方に多くみられますが、近年では、食生活の欧米化などにより40~50歳代の患者さんも増えているといいます。動脈硬化の原因となるコレステロールは、若い頃からの食生活の影響などにより、血管の壁に長い時間をかけて蓄積され、徐々に血液の流れを悪くしていきます。そのほか高血圧や糖尿病、喫煙もリスクを高めます。

寒暖差で血圧が急変!ヒートショックに注意

「寒い季節には高齢の方がお風呂場で心停止してしまい、救急搬送されるケースが目立ちます」

同病院に心停止で救急搬送されたある高齢患者さんの例では、入浴中に物音がしなくなり、なかなか浴室から出てこなかったことから、同居する家族の方が異変に気付き救急車を呼んだそうです。迅速な搬送、治療により幸い一命をとりとめることができましたが、このように暖房で温まった居室と寒い脱衣所、熱いお風呂といった寒暖差によって血圧の変動が起こり、心筋梗塞などが引き起こされることがあります。これは「ヒートショック」とよばれ、寒さの厳しい冬場に起きやすいとされています。実際に東京消防庁の救急搬送データ(2021年)によると、「おぼれる」事故により救急搬送される高齢者は特に冬場に多くなっていることが分かります。

引用

東京消防庁ホームページ 「おぼれる」事故による高齢者の月別救急搬送人員(令和3年中)】より引用

入浴中に意識を失うと浴槽内でおぼれてしまい、命の危険につながります。発見、搬送が遅れる可能性も高くなります。入浴前に脱衣所や浴室を温めたり、同居の方に声をかけておいたりするなどの対策が大切です。

胸の痛みだけじゃない―虚血性心疾患にいち早く気付くために

狭心症や心筋梗塞の主な症状は胸が締め付けられるような痛みや圧迫感です。しかし、一見、心臓とは関係ないと思われる心窩部(みぞおち)や肩、歯といった部分に痛みが現れるケースがあり、注意が必要です。

放散痛(関連痛)といい、心臓の痛みを感知する神経とそのほかの体の痛みを感知する神経が同じところを通って脳に届くため、脳が心臓から来た信号を歯や肩など別の部位から来たものだと勘違いすることで起こります。同病院でも、喉や歯の痛みで受診し、心電図の検査を受けた結果、狭心症が見つかった方がいたそうです。疋田先生は「虚血性心疾患で胸以外が痛くなる場合があるという知識を持っているだけで、早期発見の可能性を高められる」と呼びかけます。

痛みで「冷や汗」 ためらわず救急車を

「強い痛みとともに冷や汗が出るような場合は緊急事態といえます。心筋梗塞を疑い、速やかに救急車を呼んでください」

狭心症の場合、胸の痛みがあっても数秒から数分程度で少し休むと治まることが多くあります。特に高齢者の方は「年のせい」と放置したり、受診をためらったりしてしまうケースがあるといいます。一方で心筋梗塞は胸が押しつぶされるような強い痛みが20分以上続きます。時間をおいても治まらないのが狭心症との違いで、心筋梗塞は発症後なるべく早い治療介入が必要です。一度壊死してしまった心筋は元に戻ることはなく、治療が遅れると心不全などの重大な後遺症が残る場合があり、死亡率も高まります。このような症状がみられた際にはためらわず救急車を呼ぶことが大切です。

治療は時間との闘い 「ドア・トゥ・バルーン・タイム」を1秒でも早く

心筋梗塞の治療は時間との闘いです。病院に到着後は詰まってしまった血管に対して冠動脈カテーテル治療を行います。このように病院に到着してから血流を再開させるまでの時間を「ドア・トゥ・バルーン・タイム(Door to Balloon Time)」といいます。この時間が短ければ短いほど救命につながり、推奨されている時間は90分以内といわれています。救急搬送を受け入れる各施設では、治療を円滑に行うために医師や看護師、臨床工学技士らが一丸となって連携し体制を整えています。

近年ではもう一歩前の段階として、病院に来てからの治療の速さはもちろん、前述したように「症状が出てから」病院に到着するまでの時間をさらに短くすることも重要になっているといいます。「病院側では速やかに治療ができる体制を整えているので、『病院に来るまで』の時間を早められるように意識してほしい。心筋梗塞の早期治療の重要性について理解が広がることで、一人でも多くの人を救うことにつながります」と疋田先生は強調します。

突然死を防ぐ―生活習慣見直しのポイント

虚血性心疾患を予防するには、「高血圧」「脂質異常症」「糖尿病」などを治療することが大切です。脂肪分や塩分が高い食事を好む傾向にある方は食生活を改善するほか、薬物治療が必要になる場合があります。喫煙は動脈硬化を引き起こし心筋梗塞のリスクを高めることから、禁煙も有効な対策の1つです。また、ランニングやサイクリングなどの有酸素運動を定期的に行うことで動脈硬化の進行を防ぎ、虚血性心疾患の危険因子を軽減することができます。なお、すでに虚血性心疾患の診断を受けている方は、これらに加えて心臓の負担を和らげる薬を服用したり、運動療法を行ったりします。

規則正しい生活を意識することで突然死のリスクは低減できます。また、虚血性心疾患は早期発見・早期治療が大切です。健康診断で要精密検査と指摘されたり、自身で少しでも違和感があったりしたときは放置せず、近くの医療機関を受診しましょう。

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