年齢を重ねるにつれて多くなる目の病気、「白内障」。濁った水晶体を人工のレンズに入れ替える手術が広く行われ、高齢化の加速と日帰り手術の手軽さも相まって、今や白内障手術の実施件数は年間150万件以上となっている。安全性と信頼性の確立された白内障手術だが、早めに手術をするべき適切なタイミングなどはあるのだろうか。人生後半のQOL(生活の質)を保っていくために、白内障やその他のリスクから大切な目を守るにはどうすればよいのか。小沢眼科内科病院(本院:水戸市吉沢町)の小沢忠彦理事長と田中裕一朗院長、高橋慎也視能訓練科主任に伺った。
白内障とは、目の中にある水晶体が濁るために光が網膜まで到達しにくくなることで「見えづらさ」を感じる病気です。80歳以上のほぼ100%の方に認められる老化現象の一種で、加齢とともに症状が進行します。患者さんには「白髪などと同じ」と説明することもあります。
水晶体はカメラのレンズに相当するものですが、濁った水晶体を人工のレンズに交換することで、ある程度元の見え方に戻すことができます。白内障は治療できるというのが、緑内障などのほかの目の病気と異なる点です。
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白内障の症状としては、目のかすみ・ぼやけ・暗く感じる・見えづらい・視力低下・物が二重や三重に見える(眼鏡で矯正しても改善しない)・光がまぶしいなどが挙げられます。このような自覚症状がなくても、免許更新の際に視力低下が判明した、眼鏡で視力が改善しない、検診で「中間透光体混濁」(何らかの原因で角膜・水晶体・硝子体が濁っていること)と指摘された、といった理由で受診される患者さんも少なくありません。
昔は白内障の内服薬もありましたが、効かないことが分かり、今では使われていません。また、白内障の点眼薬もあるのですが、進行を遅らせるだけのもので治ることはありません。つまり、白内障の唯一の治療法は手術ということになります。
事前に、手術が必要かどうかを判断するために、散瞳検査(点眼薬で瞳孔を開かせて行う検査)という水晶体の濁りの程度を確認する検査と、光干渉断層計(OCT:Optical Coherence Tomography)を用いて網膜に異常がないかの検査を行います。
手術にあたっては点眼麻酔で行いますが、痛みが強い方は前房麻酔(眼内の前房(前眼房)に麻酔薬を注入)やテノン嚢下麻酔(黒目と白目の間の境界部(輪部)の後方の結膜下に麻酔薬を注入)など、麻酔を追加することも可能です。
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手術自体は10分程度で、次のような流れで行われます。
なお、白内障は通常は上記のような簡単な手術で済みますが、治療の難易度が高い症例(水晶体を支えるチン小帯の力が弱い・散瞳不良(瞳孔が開きにくい)・成熟白内障(白内障がかなり進行している))などの方は、通常の手術では対応できない場合や合併症が起こる場合もあります。そのため、ホームページなどで調べて、そのような手術実績があり術後の管理もきちんとしてくれる医療機関を選ぶようにしてください。
また、簡単な手術ゆえに、手術の後、医療機関から受けた注意を守らない、点眼薬を使わない、受診に来ないといった患者さんが少なからずいらっしゃいます。しかし、目に傷をつけているわけですから、感染症に注意して、きちんと管理する必要があります。当院では、術後翌日(日帰りの場合)・1週間・1か月・2か月・3か月に受診していただいていますが、必ず医療機関の指示を守って受診してください。
白内障の手術で使用する眼内レンズには、単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズの2種類があります。
単焦点眼内レンズは、遠く・近く・中間の3種類の焦点から希望する焦点距離のレンズを選択します。保険が適用されるため、利用しやすいというメリットがある一方で、焦点が合わない距離においては眼鏡が必要です。たとえば、遠くに焦点の合うレンズを選んだ場合、手元や中間の距離を見る際には眼鏡をかけなければなりません。
一方で、多焦点眼内レンズは、眼鏡をかけるわずらわしさから解放されたいという患者さんが希望されることが多く、どの距離でもそれなりにピントが合って見やすくなるのがメリットです。しかし、逆にどの距離においても、単焦点眼内レンズほどはクリアに見えないというデメリットもあります。さらに、多焦点眼内(2焦点・3焦点・焦点深度拡張型)レンズは選定療養の対象となっており、保険適用の手術費用にレンズ代金の差額を自費で支払う必要があるのもデメリットといえるでしょう。
なお、5焦点や夜間の見えづらさを軽減するような特長を持つ保険適用外の多焦点眼内レンズなどもあります。ホームページを調べるなどして、患者さんが手術後にどのように見えることを希望しているのかを丁寧にヒアリングしてくれる医療機関を探せば、患者さんに合った提案をしてくれるはずです。
加齢以外にも、糖尿病などの全身疾患、アトピー性皮膚炎、ぶどう膜炎、ステロイドなどの長期内服、外傷性のもの、先天性のもの、目の手術歴がある、などが白内障の原因となり得ます。実際、2002年の厚生労働省研究班の報告(「科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」)によれば、50歳代で37~54%、60歳代で66~83%、70歳代では84~97%、80歳以上は100%の方が白内障の初期症状を有しているとされています。「まだ若いから」と年齢で自己判断するのではなく、上記に当てはまる方は、自覚症状がなくても1度眼科を受診したほうがよいでしょう。
なお、日常的にできる白内障の予防法として、紫外線予防をおすすめします。瞳孔が開いてしまう黒色のサングラスではなく、UVカット機能付きの透明な眼鏡がよいでしょう。
白内障は症状がゆっくりと進行するので、自覚症状が出にくいことが特徴の1つです。「見えにくいのは年のせい」「年だから白内障かも。様子をみよう」などと放置していると、かなり症状が進んで手術が難しくなる場合があります。また、緑内障や加齢性黄斑変性、網膜剥離など他の病気が隠れているかもしれません。目の病気は痛みを伴わないことが多いので、気付かなかったり軽く考えたりしがちです。40歳を超えたら1度眼科を受診することをおすすめします。
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