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「痔かと思ったらクローン病だった」─若年層に広がる肛門の異変とは

公開日

2025年07月25日

更新日

2025年07月25日

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2025年07月25日

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チクバ外科・胃腸科・肛門科病院 外観

指定難病でもあるクローン病は、消化器全体に炎症が起こり、とりわけ肛門にさまざまな症状を引き起こす病気だ。重症化すると治療に時間がかかり、健康に重大な影響が及ぶ可能性があるため、早期の治療が非常に重要になる。

日本では近年、クローン病が増えてきつつある。しかし、とくに肛門の症状がある方は恥ずかしさから受診をためらい、治療が遅れがちになるという課題がある。

長年にわたりクローン病治療にあたってきたチクバ外科・胃腸科・肛門科病院(岡山県倉敷市)の副院長である鈴木 健夫(すずき たけお)先生に、クローン病の肛門病変の特徴や早期治療の大切さについて伺った。

日本で増えてきたクローン病

クローン病は腸の粘膜に慢性的な炎症が起こる病気です。原因ははっきり分かっていませんが、遺伝的な素因がある方において、何らかの原因で腸の免疫機能が過剰に反応することが関係していると考えられています。
また、北米やヨーロッパなどの先進国で多くみられることから、発症には動物性脂肪やたんぱく質を多くとる欧米型の食生活との関係も指摘されています。日本でも患者さんが増えてきているのは、欧米型の食生活の広まりと関連があるでしょう。

この病気では、腸の炎症が何度も繰り返されることで腸管が狭くなったり、穿孔(せんこう)(穴が開く)したりすることがあります。そうなると食べた物が腸の外に漏れ出して腹膜炎を起こす危険性があります。また、炎症が長期にわたって続くことで、がんのリスクが高まる可能性もあります。

クローン病は若年層に多く、男性では20~24歳、女性では15~19歳で発症しやすいとされています。中には小児期のうちに発症する方もおり、その場合は栄養の吸収障害によって成長に影響することもあります。腸は栄養の吸収に欠かせない器官であるため、炎症が生じることで栄養不足に陥りやすくなるのです。

とはいえ、現在ではさまざまな治療法が開発され、炎症をコントロールできるようになってきました。炎症が落ち着いていれば普段と変わらない生活を送ることができますし、がんのリスクも下がります。とくに成長期のお子さんの場合、早期の正確な診断と適切な治療が不可欠といえるでしょう。

切れ痔や痔ろうとの区別が難しいクローン病の肛門病変

クローン病は、口から肛門までの消化管全体に炎症が起こる可能性がある病気です。特に小腸や大腸に炎症が出ることが多く、腹痛や下痢、血便、体重減少といった症状がよくみられます。また、約半数の患者さんには肛門に炎症が起こることが知られており、これをクローン病の肛門病変と呼びます。

肛門の病気としてよく知られている切れ痔や痔ろうは便秘や細菌感染などによって発症しますが、クローン病の肛門病変でも肛門の病気とほぼ同じ症状がみられるため、単なる痔だと思い受診を先延ばしにすることで治療が遅れてしまうケースも少なくありません。

しかし、クローン病の肛門病変が進行すると化膿、痛み、出血といった症状が起こり、さらに重症化すると肛門が狭くなってしまうこともあります。とくに女性の場合は肛門と腟が近いため、炎症がひどくなると肛門と腟の間に穴が開き、つながってしまうこともあります。このような状態になると、治療には長期間を要します。

こうした深刻な状況を避けるためにも、少しでも異常を感じたら、早めに肛門科や消化器内科などの医師に相談することが重要です。

早期発見、早期治療を

どんな病気でも、早期に対応したほうが回復も早くなります。たとえば、風邪を放っておくと肺炎になることもありますし、高血圧を放置したら脳卒中になることもあるでしょう。クローン病の肛門病変も同じです。重症になればなるほど、治療が難しくなってしまいます。

ただ、クローン病は若い方に多く、「恥ずかしい」という気持ちが先行して受診をためらってしまう方も多いでしょう。思春期のお子さんは親に相談しづらいかもしれません。カップラーメン、スナック菓子、ファーストフードなどを食べた後に、毎回のようにお腹をこわしたり、下痢をしたりするようであれば、それは見逃せないサインです。ご家族が気付き、受診につなげることが大切です。

治療の進歩で症状をコントロールできるようになってきた

クローン病は今も原因がはっきり分かっておらず、残念ながら根治する治療はありません。それでも生物学的製剤など新しい薬が登場し、症状をコントロールできるようになってきました。

肛門病変を伴うクローン病の場合、まずは肛門科が膿を出すなどの局所的な治療を行い、次に内科が生物学的製剤を使って全体の炎症をコントロールします。その後は炎症が治まった状態ができるだけ長く続くように、経過を観察しながら治療を続けていきます。このように複数の診療科が連携して治療にあたることで、よりよい経過を目指すことが可能になります。

さらに、近年では患者さん自身の脂肪組織から幹細胞を採取・培養し、それを使って手術でクローン病にともなう痔ろうの穴をふさぐという新しい治療も行われるようになりました。これらの治療法は医療費が高くなりがちですが、クローン病は難病指定されているため、医療費助成を受けることができ、経済的な負担は軽減されます。安心して治療を受けていただきたいと思います。

気になる症状があったら肛門科や消化器内科へ

「受診したいけど、どこの病院に行ったらよいのか分からない」という方もいらっしゃるでしょう。クローン病の治療は、大学病院や地域の基幹病院で行われることが多いのですが、これらの病院では通常、紹介状が必要です。そこで、まずは地域の病院やクリニックを受診するとよいでしょう。とくに肛門科や消化器内科がある医療機関がおすすめです。

最近では、多くの医療機関がWebサイトで情報を発信しています。それを見て、クローン病に関する情報が多く掲載されているところを選ぶとより安心です。

最初に受診した医療機関でクローン病の治療が可能であれば、そこで治療が進められます。さらに専門的な治療が必要と判断された場合には、適切な医療機関を紹介してくれるでしょう。

クローン病は残念ながら予防が難しい病気です。あえて言えば、規則正しい生活、ストレスの軽減、禁煙、赤身肉や脂肪を控えることが挙げられますが、全て実行するのは簡単ではありません。

だからこそ、症状が出たときにすぐに相談できる環境が大切です。肛門の病気は相談しにくいと思われがちですが、少しでも異変を感じたら、迷わず医療機関を受診してください。

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