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脳動脈瘤は頭の中の「静かな時限爆弾」 ある日突然命を奪う「くも膜下出血」を防ぐには?

公開日

2025年12月09日

更新日

2025年12月09日

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2025年12月09日

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名戸ヶ谷病院 院長 松澤 和人先生

ある日突然、経験したことのない激しい頭痛に襲われ、命を落とすことや重い後遺症が残ることがある「くも膜下出血」。その原因の多くは、脳の血管にできた“こぶ”、「脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)」の破裂だ。脳動脈瘤は破裂するまでほとんど症状がなく、まさに「静かな時限爆弾」といえるだろう。

どうすればこの危険なこぶを破裂前に発見し、治療することができるのか。脳動脈瘤の正しい知識から、発見の鍵となる「脳ドック」の重要性、そして新しい治療法まで、日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医である名戸ヶ谷病院の院長、松澤 和人(まつざわ かずひと)先生に詳しく話を伺った。

脳動脈瘤とは?

脳動脈瘤とは、脳の動脈の一部がこぶ状に膨らんだ状態を指します。成人の2~6%に発見され、決して珍しいものではありませんが、脳動脈瘤ができる根本的な原因はまだ解明されていません。しかし、血圧が高い方や喫煙をする方、飲酒量が多い方に見つかることが多いほか、ご家族にくも膜下出血を起こした方がいる方は、そうではない方と比べて発生率が少し高くなる傾向があることが確認されています。

脳動脈瘤
脳動脈瘤

脳動脈瘤はほとんど症状が現れないため、多くの場合、MRI検査などを受けた際に偶然発見されます。一方でごくまれに、大きくなったこぶが近くの神経を圧迫し、突然「まぶたが下がる」「物が二重に見える」といった症状が現れることがあります。こうした症状は、破裂が迫っている「超緊急」のサインといえるでしょう。

突然襲うくも膜下出血の危険性

脳動脈瘤が怖いのは、破裂すると「くも膜下出血」につながることです。

くも膜下出血の症状としてよく挙げられるのは、「バットで殴られたような」「人生で経験したことのない」といわれるほどの激しい頭痛です。ただし、全ての方にこうした典型的な症状が現れるわけではありません。中には「数日前からなんとなく頭が重い気がする」といった比較的軽い訴えで医療機関を訪れ、念のため撮影したCTで初めてくも膜下出血が確認されるケースもあります。

くも膜下出血は、実際に発症するととても厳しい経過をたどります。現代の医療をもってしても、発症から1か月以内の死亡率は約30%。さらに、後遺症なく社会復帰できる方は30%以下にとどまります。

なぜこれほど重篤化しやすいのか。その背景には、治療を難しくする「3つの問題」があるためです。

1つ目は、一度破裂した脳動脈瘤が短時間で再び破裂してしまう「再破裂」です。救急車で搬送中のわずかな振動でさえ引き金になることがあり、再破裂を起こすと命にかかわるリスクが格段に上がります。

2つ目は、発症から数日後に起こり得る「脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)」です。これが起こると脳の血管が急に縮み、血流が途絶えることで脳梗塞(のうこうそく)を引き起こす可能性があります。

そして3つ目は、「正常圧水頭症」です。くも膜下出血の発症後1~2か月後に脳に水が溜まり、認知機能の低下や歩行障害などを引き起こすことがあります。正常圧水頭症が引き起こされるメカニズムは明確には解明されていませんが、くも膜下出血の発症後に起こる確率は約30%にも達するとされています。

「時限爆弾」を見つける方法

破裂する前に脳動脈瘤という「時限爆弾」を見つけるには、脳ドックで受けられるMRA検査が有効です。MRAは脳の血管を調べるもので、脳の血管だけを立体的に画像化することで脳動脈瘤を見つけることができます。通常のCTやMRIで偶然見つかる場合もありますが、基本的に未破裂の脳動脈瘤は精度の高いMRAを使って見つけます。

MRAで撮影した血管を調べる際は、大きさや形に注目してチェックします。脳動脈瘤は一般的に7mmを超えると破裂しやすく、また風船の一部がさらに膨らんだような、いびつな形をしていると破裂のリスクが高まります。脳ドックで運よく脳動脈瘤が見つかった場合、患者さんは「破裂するのではないか」と不安になる方が大半です。そこで、患者さんの不安を取り除けるようできるだけ早く治療の選択肢を提示することが医療者には求められます。

もし脳動脈瘤が見つかったら? 2つの治療法の選択肢

脳動脈瘤の治療には、主に2つの方法があります。

1つは、実際に頭の骨を開けて脳動脈瘤の根元をクリップで挟む「開頭クリッピング術」。もう1つは、足の付け根などからカテーテルを挿入し、脳動脈瘤の内部にコイルを詰める「血管内コイル塞栓術(そくせんじゅつ)」です。いずれも脳動脈瘤への血液の流入を止めることで、動脈瘤がこれ以上大きくなったり、破裂してくも膜下出血を起こしたりするのを防ぐ方法になります。

クリッピング
クリッピング術
コイル塞栓術
コイル塞栓術


開頭の場合はクリッピング術のほかに、動脈瘤に血流が行かないようにバイパスを作る方法もあります。また、カテーテルを使った治療には、脳動脈瘤の入口を蓋のように塞ぐカゴのようなものを留置する「WEB」や、特殊なステント(筒状の医療器具)を血管内に留置して血流を徐々に遮断する「フローダイバーター」といった新しい選択肢が登場しています。

現在の脳動脈瘤の治療は、多くの症例で開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術のどちらでも対応可能です。どちらの治療も非常に優れていますが、血管内コイル塞栓術は侵襲(しんしゅう)(体への負担)が少ないことがメリットです。一方で開頭クリッピング術は、きちんと処置できれば再発の心配がほとんどない点が大きなメリットといえるでしょう。

未来の自分のために、今できること

残念ながら、脳動脈瘤ができること自体を予防する方法は、現時点では見つかっていません。だからこそ、破裂という最悪の事態が起こる前に脳動脈瘤を見つけることが何よりも重要になります。特に、ご両親やご兄弟にくも膜下出血を経験された方がいる場合は、一度、脳ドックを受けてご自身の脳の状態を確認しておくことをおすすめします。
近年は認知症を心配して脳ドックを受ける方が増えていますが、命にかかわることもある脳動脈瘤をいち早く発見できるMRA検査を受けられることこそ、脳ドックの大きな意義だと、私は考えています。

そして、脳ドックは一度受ければ安心、というものではありません。以前の検査で何もなかったとしても、5年後、10年後の検査で動脈瘤が見つかるケースがあるのです。ぜひ節目ごとに脳の状態を確認して、ご自身の未来を守ってください。

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