脳神経外科東横浜病院 理事・副院長 郭樟吾先生
「人生100年時代」といわれる昨今だが、豊かな人生を送るために着目するべきなのは元気に暮らせる‟健康寿命”だ。介護を必要とする高齢者が増えていくなか、回復期や慢性期の医療を充実させることは国民全体のQOL(Quality of Life:生活の質)に大きなインパクトを与えるだろう。
神奈川県横浜市で脳や脊髄(せきずい)の急性期医療を担っている脳神経外科東横浜病院(神奈川県横浜市神奈川区)の理事・副院長である郭樟吾(かくしょうご)先生に、同院が取り組んでいる地域の方の健康寿命を延ばす取り組みについて伺った。
横浜市は政令指定都市として全国一の人口を誇り、医療や産業のモデルケースになることがよくあります。医療資源についても東京23区に次いで潤沢といえますが、地域によっては生活に困窮している世帯も多いのが実情です。そのような方々はいくら近くに病院があっても、体調が悪いからとすぐに病院を訪れたり、日々の健康に気を配ったりする余裕はないでしょう。
健康寿命を延ばすことは、高齢化社会の大きな課題の1つです。これを実現するために医療現場でできる取り組みは、「生活習慣の見直しの啓もう(予防医療)」と「医療的なジムの普及」の2つだと考えています。
日々忙しく過ごしていると、健康に気を配る余裕がなく、その結果、健康的とはいえない生活習慣を続けることになります。「生活習慣病」という言葉はすっかり普及しましたが、生活習慣病の大半は発症するまで自覚症状がほとんどありません。そのため、普段の生活で日々の生活習慣の重要性に気付くことは困難です。医療の担い手である我々としては、地域の皆さんに運動や食事の大切さを啓もうし、少しでも病気を予防できるようサポートしていくべきだと考えています。
たとえば、脳卒中は一刻を争う治療が必要な病気の1つですが、実は生活習慣病でもあります。脳神経外科の医師である私が常々感じるのは、脳卒中を防ぐためにも生活習慣に気を配り、血圧が高くて動脈硬化が進んでいるという方には早めの治療をおすすめしたいということです。
そのために、初期診療を担う地域のクリニックなどと連携し、まずは身近なクリニックなどを受診したうえで、必要に応じて専門的な治療を行う医療機関への紹介につなげる体制を整えることも急務だと考えています。
私は、病気は治療して終わりではないと考えています。脳卒中による後遺症はQOLを大きく低下させることが多く、健康寿命に悪影響を及ぼしかねません。そのため、リハビリテーション(以下、リハビリ)をしっかりと行い、運動機能を取り戻すことが重要です。
しかし、病院でリハビリを行い、ある程度動けるようになったとしても、QOLはなかなか元には戻らないでしょう。少しでも運動機能を高めようと思っても、たとえば体の左右どちらかに麻痺の症状がある状態だと、一般的なパーソナルジムに行くことがためらわれるのではないでしょうか。
そういったことから、今後は病気の予防や機能回復も見据えた「リハビリジム(フィットネス)」に可能性を感じています。病気を正しく理解したうえで体を動かす、いわゆる運動療法を行うリハビリジムは、今はまだあまり知られていないかもしれません。しかし、やみくもに運動していても、運動機能を取り戻すにはかなり時間がかかりますし、いつまで経っても改善しない場合もあります。病気の知識やリハビリの知識を持ったトレーナーに運動療法を指導してもらうことができれば、効率よくリハビリを行うことが期待できます。
そのような施設を病院が運営することで、治療からリハビリまでトータルで患者さんを診ることが可能になり、健康寿命を延ばすことに貢献できると考えています。当院では2026年にリハビリジムをオープンする予定です。
今まで述べてきたように、私たち医療の担い手は病気を未然に防ぐ予防医療に注力していくとともに、リハビリテーションをはじめとした治療後のケアにも配慮すべきです。慢性期の患者さんを療養型病院に丸投げせず、急性期の医師が積極的に介入していく姿勢が求められています。
病気は、いくら気をつけていても防ぎようがない側面もあります。誰もが安心して暮らせるように、それぞれの地域で急性期から慢性期までの一貫した医療体制を早急に構築していかなければなりません。
一方で、今後、高齢者の増加によって医療はますますひっ迫していくでしょう。医療の担い手の働き方改革をなおざりにせず、笑顔で働ける職場づくりを進めることも、人手不足解消と患者さんへの手厚いケアにつながる重要なミッションだと考えています。
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