医療法人清仁会 水無瀬病院 丸茂岳院長
少子高齢化の進展や働き方改革による労働時間の規制により、医療体制の早急な見直しが求められている。特に、高齢者を受け入れる入院医療は病院の機能分化が進められており、リハビリテーションの充実、複数の持病を管理できる体制、認知症への介護対応、退院前の介護サービス調整など、従来の医療レベルという物差しだけで議論することができなくなっている。それぞれの病院は、持続的な地域医療を実現できるよう、限られた医療資源を有効に活用していかなければならない。
そんななか、人口3万人を超える大阪府三島郡島本町では、町内でただ1つの一般病院である水無瀬病院が、急性期から回復期までの入院医療、生活期における外来医療、訪問診療を提供して地域医療を支えている。さまざまな医療ニーズに応える地域医療のあり方について、水無瀬病院(大阪府三島郡島本町)の院長を務める丸茂 岳(まるも たけし)先生に聞いた。
大阪府の摂津市、茨木市、高槻市、三島郡島本町の3市1町からなる三島医療圏は、大都市近郊であり高齢化率は全国平均程度で、現時点では人口が維持されています。中でも島本町は、近年宅地開発が行われているため子育て世代の流入で人口が増加しており、大阪府内で唯一「自立持続可能性自治体」(若年女性人口の減少率が少ない地域)に指定されるほど若い世代でにぎわっています。そのため地域の実情に即して、小児から高齢者までの幅広い医療に対応していく必要があります。
島本町の地域医療における課題は3つあり、1つ目は多様な医療ニーズへの対応、2つ目は高齢者医療の拡充、3つ目は健康寿命の延伸です。
まず1つ目の多様な医療ニーズへの対応については、地域連携という視点が欠かせません。水無瀬病院は在宅療養支援病院であり救急指定も受けていますが、集中治療が必要な患者さんは隣の高槻市にある大阪医科薬科大学病院などの高次機能病院に紹介します。また長期の療養を支える機能は、介護施設や他の療養型病院に紹介します。今後は、子育て世代や高齢者の増加を見越し、医療の役割分担をさらに推進していかなければなりません。
そこで当院は、島本町の地域医療をリードする立場として積極的に病診連携を進めており、たとえば整形外科の分野では、薬物療法などの一般的な治療はクリニック、外科手術を含めた専門的な治療は当院というように、医療の役割分担によって適切な治療に努めています。
また当院では、かかりつけ医としての機能を強化するため、2026年のオープンを目指して病院のリニューアル計画を進めています。新病院では小児科を新たに開設し、小児から高齢者までの全世代対応の医療体制へと刷新していく方針です。
2つ目の医療課題は高齢者医療の拡充です。島本町を含む三島医療圏では、75歳以上の後期高齢者の割合が年々高まっていくと推計されています。これにより介護を必要とする方々が増えていくと予想されるため、通院が難しい方や寝たきりの方への対応を強化していく必要があるでしょう。
こうした問題に対して当院で注力しているのが、訪問診療を専任で行う医師による、患者さんのご自宅での緩和ケアなどです。すでに在宅での看取りは年間30件を超えており、これからも地域の皆さんに寄り添う医療を提供していきたいと考えています。
また、当院では高齢者によくみられる骨折、肺炎、脳梗塞(のうこうそく)などに対して迅速な入院治療を提供するとともに、急性期の治療が終わっても入院治療が必要な患者さんを受け入れる「ポストアキュート」や、状態が悪化した在宅医療の患者さんを受け入れる「サブアキュート」にも注力し、幅広く高齢者医療を支えています。
その一方で、当院の運営主体である医療法人清仁会は介護老人保健施設やデイサービスセンターを整備し、訪問介護や通所・在宅リハビリテーション、ヘルパー事業などの幅広い介護サービスを展開しています。当院には近隣の高槻市や大山崎町からも患者さんが来院されており、今後も幅広いエリアで医療と介護を組み合わせたサポートを行っていく考えです。
医療課題の3つ目は、健康寿命の延伸です。「人生百年時代」といわれますが、85才以上の人口の増加に伴って要介護状態の高齢者が増えてしまう恐れがあります。本人の幸福のためにも、支える人の負担を抑えるためにも、健康寿命を延ばす必要があります。
そのためには、医療機関が率先して地域の皆さんの健康相談に応じ、健康に対する意識を高めていくことが重要です。また、行政や地域の保健師とも連携し、運動することの大切さを啓蒙(けいもう)する活動も行っていく必要があるでしょう。たとえば当院では、要介護の状態を未然に防ぐ「介護予防」のほか、生涯にわたって元気に活動できるような前向きなリハビリテーションなどに取り組んでいます。
医療の定義を拡大して考えると、健康的で生活しやすい街づくりにたどり着きます。これからの時代においては、病院は病気を治療するだけでなく、健康増進の役割も担っていくことが求められるのではないでしょうか。
島本町の隣にある高槻市は、大学病院や医師会の連携による「健康医療先進都市」を宣言しており、先進医療を担う大阪医科薬科大学病院のほか、およそ500施設に及ぶ病院やクリニックが集まるなど、非常に充実した医療体制を誇ります。
当院は、こうした近隣の恵まれた医療資源を生かしつつ、地域に寄り添うかかりつけ医としての役割に邁進(まいしん)していくべきだと考えています。また、医療活動と並行して魅力的な街づくりにも積極的に関わり、全国から医療の担い手が集まってくるような環境づくりを進めていく所存です。
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